拷問
かつての私の仲間は、
————新選組だった。
共に生き、共に戦った仲間達。でも彼らは
歴史の荒波に抗えず死んでいった…。
なにも話さない事に痺れを切らしたのか乱暴に髪を掴み上げられ、地面に突き飛ばされた。後ろで縛られた腕により、手をつく事も出来ず、無様に顔をさらに汚す。
「喋らねぇなら、仕方ねぇな。」
それが、———拷問の始まりの言葉だった。
ドスッドスッ
鈍い音が、前川邸の蔵の中に響く。痛む身体は悲鳴を上げるのに、彼らが生きている事が何より、嬉しかった。
「……ッ…!ゴホゴホッ」
「ほら、さっさと話した方が身の為だよ?」
沖田が口を開くが、やってないって言っても信じてくれない事はわかっている。逆に聞きたい。なんて言ったら、信じてくれるのか。
腹を蹴り、背中を蹴られ、顔を殴られても
そいつは口を開かない。どれぐらい、蔵に居たのか冬だと言うのに、蒸し暑くなって、着物を半身脱ぐ男達
グッタリと地に倒れた奴は、口から赤を流したままで、力なく地を見つめる碧い瞳
「………す、む。よっちゃ……そ、ちゃ…」
仲間の名前なのか、口を動かした奴。これ以上、拷問を続ければ、こいつは、間違いなく死ぬ。誰もがそう思ったに違いない。
今、ココで私が死ねば
————歴史は、変わらない。
当たり前だ。未来を知る人間なんて居ないのだから私が見たままの歴史を彼らが歩む………。
————本当に、それでいいの?
瞼がゆっくりと閉じかけた時、土方は、眠らせない様に奴の着物を掴み、グイッと引き上げた。拷問され、気乱れた奴の着物引いた事により襟元が開き胸に巻かれた晒しが覗く。膨らんだソレは、自分達には無い、女の象徴であり着物を引かれたまま奴の身体は地面へと倒れていく。着物は土方の手で、女の身体が地に身体を着けば白い肩さえも露出した。そこにさえ、自分達がやった拷問の傷跡……
それは、誰がどう見ても女である事には変わりなく、しばし、沈黙が続き、
「……こいつ、女。」
そう蔵に響いた声に、土方は、掴んだままだった着物を離した。
崩れゆく身体は、自分達より細く、白い肌には自分達がつけた拷問の爪痕。薄っすらと開いた碧い瞳。意識が朦朧としているのか、奴が何処をみているのかわからない。口から流れる赤は糸を引き、地を汚していく。
「……女を拷問にかけたのかよ。俺たち…」
と原田が焦った様に口を開く
「…まずいだろう。」と、永倉も続いた。
バタバタッと音が聞こえて、勢いよく開け放たれた蔵の扉
「大変です!」
そう、血相を変えて駆け込んできた山南の姿に、何事かと皆の視線は集まった。
「あの書物は、芹沢さんが落とした物だと! !」
その声を最後に、意識が遠のいていった————。
いつもは、隊士達が食事の時に使用していた、広間の真ん中で布団に寝かされた桜色の髪の女の周りに、思い思いに腰を下ろした幹部たちは、女に視線を向け小さく息を吐き出した。
「…身体に、傷が残らねぇといいんだがな。」
着物を着替えさせ手当てをした時に見た、女の身体の傷。背中や腹は、赤くなって擦り切れた肩や膝。それは、すべて自分達がやった傷…。
「……そう、ですね。」
間違いであった事実に、戸惑いと後悔という言葉しかない。
無実の人間を拷問にかけた事実に皆、押し潰されそうであった。硬く絞った手拭いで顔の汚れを拭く藤堂の表情も強張ったまま。
「でも何で、自分はやってないって、言わなかったんでしょうね。 彼女。」
もし、言ってくれてたら……。いや。言っていても、自分達は、彼女の言葉を信じはしなかっただろう。
「刀突きつけられたから、言えなかったかもな。」
と、永倉が口を開く。
皆の視線は、桜色の髪の女へと向けられた。
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