第17話
「お待たせ、杏奈ちゃん。そして……?」
「如月飛鳥です、よろしくお願いします」
「どうも、蓮見葉子です。『師走の先』の研究所でスキルの研究を行っています」
「挨拶は済んだようね。じゃあはすみちゃん、彼を強くする手伝いをしなさい」
「私が?この子を?杏奈ちゃんじゃなくて?」
「ええ。彼の育成という点においてあなたに肩を並べる者は居ないわ」
「どういうこと?」
「彼はレベルが上がらない代わりに、無制限にスキルを獲得できるのよ」
「え!?本当に!?!?!?!?」
「ええ。疑うのならスキルを確認する道具を一度使ってみなさい」
そして蓮見さんは慌ててスキルを調べてくれるらしい道具を持ってきて、俺の写真を撮った瞬間、その道具が爆発した。
「杏奈ちゃん、これ壊れたんだけど……」
「私を疑うのが悪いのよ」
杏奈さんはどうやら壊れる事が分かっていて調べさせたらしい。扱い酷くないかな。
「すいませんでした……」
えっと、ここ怒る所じゃないのかな。なんでそんなに申し訳なさそうなの。
「力関係どうなっているの……?」
これ確実にパワハラ案件な関係だよね。
「私が上で、はすみちゃんが下。これに何の問題が?」
堂々とパワハラしてます宣言しちゃったよこの人。
「問題しかないですが。立派なパワハラだよそれ」
「それもそうね。じゃあこれからはやめることにするわ」
と俺が指摘すると、やけにあっさりとパワハラをやめる宣言をした。
すると、
「やめて!やめないでください!お願いしますから!!!」
何故か蓮見さんが杏奈さんに縋りつき、そう懇願していた。
「えっと、どういうこと?」
「杏奈さんの声、見た目、話し方の全てが私の敬愛するイレーヌさんに似ているの!だから私ができればそういう対応をして欲しいってお願いしているの!」
「イレーヌ?」
何だそれ。聞き覚えが無いんだけど。
「神アニメ、異世界スキル探検家のメインヒロインです!」
「いや、本当に聞いたことが無いです」
そもそも俺がアニメにそこまで詳しくないのもあるけど、多分それはかなりマイナーだよね。
「え……神アニメなのに……」
俺がそう言うと、心底驚いた表情でこちらを見てきた。そんな目で見られても知らないものは知らないんですよ。
「知らなくて当然よ。5年前の特にネットで話題になることも無かったアニメだもの」
「それは知るわけが無いですね」
「なるほど、あの作品を知らないと。ではこちらをどうぞ!」
そう言ってどこからともなく取り出してきたのは例のアニメのDVDボックスだった。
「えっと……」
貸していただけるのは有難いけれど、当然家にそんな設備は存在しないので非常に対応に困る。
「そんなものはどうでも良いわ。さっさと本題に戻りなさい」
「はい……」
俺が持たされていたDVDボックスを杏奈さんが蓮見さんに押し戻した後、本題に戻ることに。
「なるほど、飛鳥君はレベルが上がらない代わりにスキルを無制限に獲得できるから、世界一スキルについて知識がある私にどうにかしてくれってことだね」
「ええ。よく分かったわね」
「天才だからね!」
露骨すぎる杏奈さんの煽りに気付かない蓮見さんは、褒められていたと錯覚し胸を張っていた。
「では始めなさい」
「オッケー!ちょっと待ってね!」
杏奈さんは部屋の奥からノートパソコンを引っ張り出してきてプロジェクターに接続した。
そして、部屋に大きくPCの画面が表示される。
そのPCの画面には、杏奈さんのコスプレ画像が表示されていた。
素早くそれを察知した杏奈さんは俺の目を塞ぎ、蓮見さんに画面を隠させた。
「見ていないわよね?」
「うん。一瞬しか」
「なるほど。なら忘却のスキルを最大まで取ってもらおうかしら」
「嫌ですけど!?!?」
忘却のスキルは、たまに存在するデメリットスキルで、物を忘れる速度が速くなるというものだ。
実質的に老化が加速するスキルを取るわけないでしょ。
「よし、見えるかな」
「はい」
そこに表示されていたのは、Exselの画面。
表示されるまでに時間がかかっている上、右側のスクロールバーのサイズがえげつないサイズになっていることから、その情報量の多さが伺える。
ぱっと見た所、スキルを獲得条件や効果範囲等の複数の条件で分類しており、更にそれを検索する機能も付いているようだ。
技男のサイトはスキルを知るという観点においては非常に優れていたが、効率良くスキルを獲得していかなければならない俺にとってはこちらの方が有用だと思われる。
「とりあえず、私が確認できているスキルはこれだけあります。大体100万個かな?」
「100万個?」
あまりにもデカすぎてピンとこない。
「まあ大半が探索者に必要な身体能力に関係ないスキルだけどね。研究とか、読書とかね。それを省くと現状は大体10万位に落ち着くのかな」
「それでも結構な数ですね」
「この世の全ての事象にスキルは存在するって言われているからね。これでも全然足りていないと思うよ」
「凄いですね」
「だからこそスキルってのは面白いんだよ。スキルを研究することで世界を知る事が出来るんだから」
「世界、ですか」
スキルを獲得しに来た筈なのになんだか壮大な話になってきた。
「そう、世界。だから、もし飛鳥君がここにある全てのスキルを獲得した時、世界そのものになれると思うよ」
「世界そのもの、ですか?」
「うん。まあ、どう考えても人間の寿命じゃ足りないんだけどね。10万時間必要なスキルとかがざらにあるし。だから勿体ないけど、君には回数で取得できるスキルだけを集中的に獲得してもらうことになるかな。よっと」
蓮見さんがパソコンを操作すると、項目が50分の1位になった。それでも2万くらいはあるんだけども。
「で、飛鳥君は今何を強化したいのかな。H?A?B?C?D?S?」
「?」
恐らくこのアルファベットは能力値を表しているのだろうけど、全くピンとこない。
「ポカモンのステータスの略称で言われてもピンとくるわけないでしょ。皆がはすみちゃんみたいにゲーム廃人だったわけではないのよ」
「あら、そうなの」
「そうよ。飛鳥が困っているじゃない」
「ごめんごめん、さっきのを日本語に直すと体力、攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さのことだよ」
「ああ、そういうことでしたか。なら……」
「素早さでお願い」
ゴブリンジェネラルと戦った時の反省から、防御力を上げようかと思ったのだけど、杏奈さんがそれを遮ってきた。
「防御力じゃないんですか?」
「攻撃を与えられる前に当てた方が楽じゃない。動体視力もスキルで補正を掛けられるからコントロールできなくなることは無いわけだし」
「確かに」
圧倒的なスピードを自身で制御できるのなら確かに有用かもしれない。
「話し合いも終わったみたいだね。じゃあ素早さを上げる方針で行こう」
そこから蓮見さんはSでソートを掛け、その中から20個位ピックアップしていた。
「じゃあ行きますか」
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