06:双子

「もし、本当に辛いことがあったら。わたしが君の代わりをしてあげよう、ニア」

 窓越しのアレクシアは、胸を張ってそう言った。

 アントニアはその言葉をにわかには信じられなくて、いつもの、口先だけの約束だと思っていた。何もアレクシアを信頼していないというわけではなく……、アレクシアがアントニアのためにできることは、言葉を投げかけるだけだと信じ込んでいたのだ。

 アレクシアはいつだって凛としていて、アントニアにないものを持っていて、その言葉でアントニアの心を救ってきた。ただ、それ以上のことはアレクシアにはできない。窓越しに言葉を交わすだけの相手。それがアントニアにとっての双子の姉、アレクシア・エピデンドラムだった。

 しかし、その認識が変わったのが、例の事件だ。

 その時の出来事を詳しく思い出すことは、アントニアにはできない。あまりの出来事に我を忘れてしまっていたから。ただ、それがアントニアにとって耐え難いことであったことは、アレクシアにもわかったのだと思う。

 その後のことは、アントニアが呆然としている間に過ぎ去っていった。気づけば全ては丸く収まっていて、我に返ったアントニアは全てが終わったのだということを、飲み込むことになった。

 そう、全てを終わらせたのはアレクシアだ。アレクシアが、アントニアの代わりに立ち回った結果だった。いつも、窓の向こうで笑ってるだけと思われた姉が。初めて、アントニアのために己の足で立って、手を尽くしたのだ。

 もちろん、アントニアは姉に感謝した。いくら感謝しても尽きないくらいだった。けれど、アレクシアはいたって飄々とこうのたまうのだ。

「わたしは好きにやっただけさ。礼を言われるようなことをした覚えはないよ」

 それでも、と言い募るアントニアに対して、アレクシアはいたずらっぽく片目を細めて、唇の前に人差し指を立てるのだった。

「感謝はわたしでなく、叔父さまにしてくれたまえ」

 

(窓越しの双子)

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