08:天狼星
カンヴァスに筆を走らせる。
大きなカンヴァスいっぱいに広がっているのは闇。けれど、ただの闇ではなく、その中にいくつもの光点が輝いている、そんな風景。
――これもひとつの「空」なのだとオズワルド・フォーサイスは知っている。
いつから、見たこともない「空」の夢を見るようになったのか、オズははっきりと言い切ることはできない。ただ、物心ついた頃には既に「空」に取り付かれていた。果てなく広がる青い空、徐々に色を変えていく赤い空、そして、今、カンヴァスの上に描き出している、オズの知る闇夜とはまるで異なる闇の空。
相棒は空の絵を褒めてくれるけれど、夢で見た空の美しさをあますことなく描き出すにはまだまだ拙い、とオズは思っている。どんなに筆を重ねても、夢には到底届かないだろうとも思っている。結局のところ、本当に自分が満足するのは、自らの目に――夢という形ではなく――ここに描いた光景を焼き付けた時なのだろう、と思っている。
けれど、その日までは、衝動に突き動かされるままに筆を動かす。夢の中に映し出された闇と光を描き出す。
闇の空にひときわ強く輝く一点を描き出しながら。
果たしてこの光に名前はあるのだろうかと、そんなことを考えた。
(霧航士宿舎にて、オズワルド・フォーサイスの日課)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます