9.会議

 着替えを済ませて食堂に集まった私達は、会議を始める前に遅めの夕食を取ることにした。お昼から何も食べていなかったので、流石に空腹感が強かったのだ。

 そして夕食を食べ終え、全員でテーブルを囲んで今後に向けての会議が始まった。


「それじゃあ、早速今後の方針を決めていきましょうか。まずはニーナから順番に、どんな仕事を見つけて来たか教えてちょうだい」

「はい」


 労働組合に行ってからは、それぞれが別行動をして仕事を探していた。この会議の目的は、見つけてきた仕事が良いか悪いかをみんなで吟味ぎんみすることだ。

 働いても給料が安かったり、危険だったり、割に合わないならそんな仕事をする必要はないし、ニーナ達にさせるつもりも無い。

 理想論かもしれないが、私達は負担を少なく安全に、効率よく資金を稼ぐつもりだ!


 それでニーナの話だが、ニーナは労働組合の掲示板に貼り出されていた仕事から、二つ候補を見つけてきていた。

 まず第一候補として見つけた仕事は、『美化清掃員』という仕事である。

 これは貿易都市の役所が取り仕切っている仕事で、貿易都市で出たゴミや廃棄物の回収と処理、そして3日に1度行われる貿易都市全域の美化活動が主な仕事だ。役所が取り仕切っているだけあり、給料がかなり良いらしい。

 ただ、あの広い貿易都市のゴミを回収して回るとなるとかなりの体力が要求されるようで、あまり人気が無くいつも人手が不足しているという。しかし逆に言うと、競争率が少なく狙い目な仕事ということだ。

 それに掃除が大好きなニーナにとって、この仕事は得意分野と言える。それこそ、貿易都市中を嬉々ききとして爛々らんらんと走り回ることだろう。

 そして第二候補の仕事は、『宿屋従業員』の仕事らしい。

 募集していたのはそこそこ高級な宿屋で、受付や部屋の清掃からお客の対応などかなりの仕事量があるそうだが、その分給料もそれに見合うくらい出るそうなので、こちらもオススメだとニーナは言った。

 ニーナとしては、『美化清掃員』を主軸として、空いた時間で『宿屋従業員』の仕事をしたいそうだ。これに関してはどちらもニーナに向いている仕事だと思うし、給料面でもいい感じだったので、ニーナにはそのプランで行ってもらうことで決定した。


「では、次は僕ですね」


 次に話を始めたのはサムスだ。サムスの方は『管理棟かんりとう雑務員』という仕事を見つけてきた。

 仕事内容としては、労働組合が入っていた管理棟内で、労働組合を含めた各部所で様々な雑務をこなす仕事だそうだ。

 サムスがこの仕事を選んだ理由はニーナと同じで、サムスの得意とする仕事だというのと、募集してあった仕事の中で一番給料が良かったかららしい。

 と言うのも、この仕事は管理棟という貿易都市の中枢で働く事になる。つまり貿易都市の公務員になるということだ。つまり給料と保証がしっかりとした、かなり優良物件の仕事なのである。


 これほど良い仕事を見つけてくるとは、流石細かいところに目が行き届くサムスだ。だけど、そんなサムスにクワトルが疑問を投げ掛けた。


「しかし、わたくしは掲示板を全て見ましたが、そのような仕事の募集は無かったはずです」

「そうなの?」

「ええ、掲示板に貼り出されていた仕事は全て確認しましたが、そのような募集は無かったと記憶しております。サムスはどこでその仕事を見つけたのですか?」

「確かにクワトルの言う通り、この仕事は掲示板には貼り出されてはいませんでした」


 サムスの話によると、サムスは掲示板に貼り出されている仕事募集の中に自分に合う仕事を見つけることが出来なかったそうだ。

 そこで受付で他に募集している仕事がないか尋ねたところ、張り出していない仕事があるとのことでその一覧を見せてもらい、その中から見つけたという。

「ほぉ、そんな探し方がありましたか……」とクワトルはサムスのやり方に感心していた。


 ともかく、サムスもその仕事をしてもらうことで決定し、次はクワトルの番になった。


「次はわたくしの番、なのですが……」


 しかしクワトルは困ったように歯切れが悪そうにする。それにクワトルにしては珍しく困った顔をしているのでどうしたのか訊ねると、どうやらクワトルもサムスと同じく、張り出されていた募集の中から良い仕事が見つけられず、まだ決まっていないと申し訳なさそうに頭を下げた。

 ただ、先程のサムスの話を聞いて「まだ張り出されていない募集があるとわかったので、明日もう一度行って見つけてきます」と意気込んでいたので、クワトルには引き続き明日も労働組合に行って仕事を探してもらうことにした。


「じゃあ次はティンクの番だね!」


 待ってましたと言わんばかりに、勢いよく手を挙げるティンク。相当自信がありそうだ。


「ティンクは良い仕事を見つけられたのかしら?」

「うん、バッチリだよ! ティンクはね、『ハンター』になってガッポガッポお金を稼ぐのー!!」

「ハ、ハンター……?」


 自信たっぷりに「えっへん」と胸を張るティンクとは対照的に、私はティンクの予想外の発言に困惑し目線をミューダ達に向ける。

 そしてそれはミューダ達も同様のようで、互いに顔を見合わせ固まることになった。

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