7.鬼人鍛冶師
角の数は1本だったり2本だったりするが、これは個人差によるものなので、角の本数で個々の能力に差が出るということはない。人で例えるなら身長の違いの様なもので、鬼人にとっては個性の一つに過ぎない。
鬼人は角を除けば、外見的な違いは人と大して変わらない。だが、身体能力は他の種族と比べ物にならないくらいに高い。
特に力強さに関しては、最強の種族である“竜種”に引けを取らないと言い伝えられる程だ。
さらに鬼人は、“
世界大戦時代、鬼人達はその絶大な力を国に売り込み傭兵として活躍した。その戦闘能力の高さと戦場での無双ぶりから、「鬼人を一人倒したいなら、一個中隊をぶつけろ!」と言われた程だ。
しかし、鬼人は元々温厚で義理堅い種族である。だが戦場での鬼人達の無双ぶりに、「鬼人と出会えば命はない」、「殺されれば頭から食べられる」等といった根も葉もない噂にが世に広まり、いつの間にかそれが鬼人に対する人々の共通認識になっていった。
世界大戦が終わりを告げても人々の鬼人達の認識は変わることはなく、鬼人は人々から畏怖される存在のままだった。
やがて人々の中で生活するのが困難になった鬼人達は、人目を避けるように海を渡り東の島に移住し、そうして鬼人達は人前に滅多に姿を現さなくなった。
という、そんな話を以前ミューダから聞いていたので、私は特に鬼人を恐ろしいと思ったことはない。
いやそれ以前に、鬼人を恐いと思ったこと自体一度も無いが……。とにかく鬼人を見ても怯える様子の無かった私に、この鍛冶師の鬼人はとても興味を持ったようだ。
「俺の名は“カグヅチ”だ。よろしくな、お嬢さん!」
カグヅチと名乗った鬼人は気さくに手を差し出し、握手を求めてきた。
「……私はミーティアよ、こちらこそよろしく」
握手を求められたらそれに応じないと失礼なので、私も自己紹介をして握手に応じる。中央塔での一件があるので、偽名を名乗っておくのも忘れない。
そんな私の対応に、カグヅチと名乗ったは更に嬉しそうにウンウンと頷いた。
「それにしても、初対面で鬼人を見ても怯えることなく普通に接してくれた人はあんたを含めても片手しかいないぜ! ……なあ、もしこの後時間があれば少し話し相手になってくれないか? 俺はこれでも人を見る目と勘には自信がある。あんたはいい人そうだし、仲良くなれそうな勘がこう、ビビッと来てるんだ!! それに知り合い以外とまともに話せるのは久しぶりだしな」
カグヅチの急な申し出に、私は少し悩むように顎に手を当てて考える仕草をしながら、店内の時計をチラリと見る。時計の針は既に
私としてはその申し出を受けるのはやぶさかではないが……。
「……悪いけど、この後知り合いと待ち合わせをしているの。残念だけど今日はカグヅチさんの相手はできないわ」
「そうか、そいつは残念だ……」
ガックリと肩を落とし落胆した様子のカグヅチ。しかし、すぐに持ち直して言葉を続ける。
「だが、
「ふふ、ご想像にお任せするわ」
実のところ私も少しこのカグヅチという鬼人に興味があり、聞いてみたいこともあった。しかし、あと少しで待ち合わせの
待ち合わせに遅れてニーナ達に余計な心配をかけたくなかったので、遠回しに「後日なら良い」と伝えてみたのだ。
するとカグヅチは自信があると豪語した勘の良さで私の意図を上手く読み取ってくれたようである。
「というわけで私はそろそろ行くけど、折角だしこの短剣を頂いても良いかしら?」
そう言って私は商品棚に沢山並んだ数ある短剣から、普通の革の鞘に収まった一本の短剣を手に取った。
「ハハッ! 数ある中からこれを選ぶとは、増々あんたに興味が湧いてきたぜ! この短剣はな、俺が打った中でもかなり出来の良い一本なんだ。本当なら大白銅貨10枚はする物だが、次来たときに面白い話をしてくれるって約束してくれるなら、特別サービスで半額の大白銅貨5枚にしてもいいぜ。……どうだ?」
「……わかったわ。何か考えておくわね」
私はカグヅチの提案を了承して、大白銅貨5枚を手渡し短剣を購入した。
「毎度あり! じゃあ、次に来る時を楽しみにしてるぜ!」
「ええ、それじゃあね」
カグヅチに別れを告げ工房を出た私は短剣をポーチに仕舞って、集合場所の東門広場に向かって急いだ。
急いで移動したお陰で、集合時間の
「私が最後だったみたいね。待たせちゃったかしら?」
「いえ、私達も今集まったところですわ」
「なら良かったわ。みんなの状況を聞きたいところだけど、まずは屋敷に帰りましょうか。詳しい話はミューダとアインを混ぜてからの方が良いと思うしね」
それぞれ仕事を見つけられたのか、どんな仕事を受けるつもりなのか、別行動中に何か変わったことは無かったかをこの場で聞いてもいいのだけど、屋敷に帰ってからミューダとアインにもその話をしないといけない。ハッキリ言って、それは二度手間だ。
それなら屋敷に帰ってミューダとアインを含めてから話をした方が、無駄な手間がかからない。
それに、私が早く帰ろうとしているのにはもうひとつ理由がある。
それは私がこの広場に向かっている途中の事だった。再びミューダから思念が飛んできて、「まだ帰ってこないのか? 早く帰って話を聞かせてくれ」と催促されていたからだ。
もしこの場で4人から話を聞いて帰りが遅くなろうものなら、またミューダがネチネチと小言を言ってくるに決まっている。
久しぶりに外に出て疲れているのにミューダの小言など聞きいていたら、余計な神経をすり減らすことになるのは明白だ。
なので、そんな事にならないように早く帰るのが得策というわけだ。
「それじゃあ今から帰るけど、みんな私に着いて来てくれる?」
そう言って私は東門と反対側に足を向ける。
「あのセ……ミーティア様、そっちは門とは反対方向ですわよ?」
労働組合に行く前に、「貿易都市では『ミーティア』という偽名を使うから、これから貿易都市にいる間は私の事をそう呼ぶように!」とニーナ達に言っていたのだが、私の予想外の行動に、ニーナは思わず素に戻りそうになってしまった。
ニーナが疑問に思うのも当然だ。
屋敷に帰るなら都市を出るために、門を通らなければいけない。しかし、私は門と反対方向、つまり都市に戻るように歩き出したからだ。
「うん、分かっているわ。説明は後でするから、今は黙って着いてきて頂戴」
ニーナ達は私の意図が掴めずに顔を見合わせるが、指示通りに黙って後を追いかけてきた。
そして私はそのまま真っ直ぐに、都市門から離れた場所の住居区画の宿屋が多く建ち並ぶ場所まで歩いた。
辺りを物色する様に見回しながら歩き、そして一軒の宿屋の前で足を止める。
「うん、良さそうね。みんなここで待ってて」
そう言って私は一人で宿屋に入る。
受付にいた従業員と話しをして大部屋の鍵を受け取り、すぐまたニーナ達の元に戻る。
「みんな、大部屋が取れたから、今日はここに泊まるわよ」
「「「「ええっ!?」」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます