ニートな俺と笹島神社の巫女さん

けろよん

第1話 ニートな俺と笹島神社の巫女さん

 俺はニートである。今日もどこにも行かずに家でゲームをやっていると玄関の方でピンポンが鳴った。


「なんだよ、アマゾンで注文なんてした覚えはないぞ」


 今ゲームが良い所なのだ。どうでもいい用件なら出る必要などないだろう。営業マンか何かならすぐに帰るはずだ。

 そう思っていたら玄関の方でドアが吹き飛ぶような爆発音がした。


「なんだ!?」


 ゲームの音ではない。明らかにリアルの音だ。さすがの俺も驚いて重い腰を上げかけるのだが、椅子から離れる前に部屋の扉が開かれた。


「ふむ、ここが霊の溜まり場ですね」

「あなたは……笹島神社の巫女さん!」


 彼女が手に持っているのは光っているお札。それで扉を開いたとばかりに役目を終えたように光の消えたそれを袖にしまった。

 俺の部屋に入ってきたのは近所の神社の巫女さんだった。小柄で子供っぽく見えるが逆らい難いような威厳がある。ほとんど外には出かけない俺だったが彼女の事は知っていた。

 巫女のゲームをやっていてリアルの巫女さんってどんなだろうとわざわざ足を運んで見に行ってやったのだ。その時に参拝者の応対をしていたのが彼女だった。

 笹島さんは俺の姿を認めるとなぜか鋭く冷たい目で睨んできた。


「笹島煌璃(ささじま きらり)です。私の事を知っているという事はやはりあなたが悪霊の親玉なのですね」

「いや、俺はただのニートですよ。きらりちゃんっていうんだ。初めて知った」

「誤魔化そうとしても無駄ですよ。この家に立ち込めている邪気は誤魔化せません!」

「うわあああ!」


 きらりちゃんはお祓い棒を取り出した。物騒な予感に頭を抱えて逃げようとする俺。でも、逃げる場所なんてどこにもなくて、部屋の隅で頭を抱えてうずくまるしかなかった。


「急急如律令! 悪霊よ去りなさいー!」

「ひでぶううー!」


 そして、俺は彼女にたっぷりとお尻をぶたれたのだった。




「ぶってすみませんでした」

「いや、分かってくれればいいんだよ」


 数分後。部屋には礼儀正しく頭を下げるきらりちゃんの姿があった。彼女は巫女さんをしているだけあって姿勢が綺麗だ。

 何才だろうと気になったが、訊ねるとまたぶたれそうなので止めておいた。

 それにしても笹島神社の巫女さんが我が家に何の用なんだろう。まさか親や幼馴染でもないのに働かない俺をぶちに来たわけでもあるまい。訊ねるときらりちゃんは素直に答えてくれた。


「ご近所から通報があったんですよ。この家から悪寒を感じるような寒気がするから見て欲しいと。だからお祓いに来たんですが……」

「悪寒を感じるような寒気ですか……」

「それは今も感じるんですけど」

「寒いなら俺の上着を貸そうか?」

「結構です。そういう物理的な寒さではないので。あなたはここに住んでいて何も感じないのですか?」

「うーん、俺は特に何も感じないなあ」

「ふーむ、勘違いなのかもしれませんね。とりあえず魔除けのお札を渡しておきます。何かあったら笹島神社の方へ連絡してください」

「え? もう帰っちゃうの?」

「はい、今のところは何も無さそうなので」

「よかったらうちでご飯食べていきなよ。俺チャーハン作るの得意なんだぜ」

「ほほう、ならばその腕前を見せてもらいましょう」


 何か彼女のスイッチが入ったようだ。きらりちゃんの目がきらりと光っていた。




 言っておきますが、私はチャーハンにはうるさいんですよ。そう言って自信満々だったきらりちゃんは現在、


「んまーい! このチャーハンんますぎるー!」


 スプーンを握りしめてチャーハンを食べながら子供のように目を輝かせて喜んでいた。


「はは、喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

「どうしてこんなに美味しいチャーハンが作れるんですか?」


 きらりちゃんが積極的だ。ご飯を食べてご機嫌になったのかもしれない。俺も仕事で失敗して落ち込んだ時は美味しいご飯を食べて気分を直したものだから気持ちは分かる。美味しいご飯は幸せになれるのだ。仕事をしていた頃が懐かしいな。


「好きだったからかな。今ではもう飽きちゃったけど、一人暮らしを始めた頃はよく作ってたんだ」

「へえ、そうなんだ。おかわり!」

「たくさんあるからいくらでもお食べ」




 そして、数十分後。そこにはチャーハンをたくさん平らげてご満悦な様子のきらりちゃんが巫女服のお腹をさすっていた。


「げぷー」

「よくチャーハンばかりそんなに食べられるね。さすがに空にされるとは驚いたよ」

「だって美味しいんですから仕方ないじゃないですか。さて」


 彼女は立ちあがろうとするが少しふらついた。俺は慌てて支える。


「大丈夫? 笹島神社まできちんと帰れる? よければ送っていこうか?」

「大丈夫ですよ。足りない力は霊力で補えばいいんです」


 淡い光が彼女の体を包み込む。すると彼女は糸に引っ張られて浮いたようにしてきちんと立った。


「へえ、霊力って便利なんだ。っていうか、そういうの本当にあったんだ」

「へへーん、企業秘密ですから誰にも言ったら駄目ですよ」

「分かった。言わないよ」

「ありがとうございます。では、今日は失礼します」


 そう言って彼女は去ろうとする。だが、玄関のところまで来てドアが壊れていた事に気が付いた。


(これはすぐに修理を呼ばないといけないな)


 俺は面倒だなあとそう思っていたのだが、立ち止まったきらりちゃんは巫女服の懐からお札を数枚取り出すと、


「むーーーん、はあっ!」


 念を込めて投げた。お札は扉の周囲に貼りついてそれを持ち上げていく。そして、玄関のドアは霊力で接着されたように元に戻った。


「凄い、きらりちゃん。こんな事も出来るんだ」

「私の霊力で破壊したドアですからね。これが他の……ブルドーザーがぶつかったとかで壊れたドアでは治らないので気を付けてください」

「分かった。ブルドーザーがぶつからないように気を付けておくよ」

「では、失礼します」


 そうしてきらりちゃんはドアを開けて頭を下げて礼をして今度こそ去っていった。

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