第232話 メラの特訓 2

 木々の隙間を縫うように飛ぶメラを必死に追う。

 追いながらも俺は、今まではは天空をゆったりと飛んでいるメラの姿ばかり見ていたため、こんな芸当が出来たのかと密かに驚く。


 普段俺の後ろから着いてくる君島だが、心配なのだろう、ペースを早め俺の前を走っていく。俺も必死に集中しながら君島についていく。


 すでに君島の倍ほどの階梯である俺だが、身体能力だけで言えばまだ君島に敵わない。それでも居合時以外での集中を必死に鍛えてきた俺は、なんとか食らいついていけるほどにはなっている。


 ……いや。それでも君島は加減をしているのかもしれないが。


 その時、前を走る君島が「うん!」と小さく呟く。と、同時に森の奥から『ギャアアア!』という魔物らしき嘶きが聞こえた。


 俺たちは走る速度を落とさず音の方へ向かう。


 と。君島の走りがとまり、そのまま上空に顔を向ける。俺もつられて上を向けば、木々の枝が折られたのか、一面の緑の中に一点の明るい部分がある。だが、新緑の青々とした葉が茂る森では上空の様子までは見えない。


 ……。


「先生! 少し下がってっ」


 君島には何かが見えるのだろうか。俺は君島に言われるままに数歩後ろに下がる。その瞬間にガサガサと言う音と共に頭上から何かが落ちてきた。


 ズドンッ。と落ちてきたそれは、少しだけ痙攣するように動いたが、すぐにそれもとまる。間違いなく魔物であった。ここら辺に多くいる猿に似た魔物だ。たしかジャンクエイプと言ったか。

 状況を見る限りエイプはおそらくメラの爪でグッと捕まえられそのまま上空まで飛んで、そこから落としたのだろう。


 落下の衝撃で色々と関節がおかしい方向に向いていた。


「……落としたの、か?」

「はい」

「一体どのくらい高くから……」


 俺は呆れたように頭上を見上げるが、結局よくわからない。それにしても俺たちがメラに追いつく時には既に仕事を終えてたということだろう。なかなかあざやかだ。


 その後、自慢気に降りてきたメラがエイプの上にのしかかり、爪で抑えながら旨そうにくちばしでついばむ。


「……あ。こいつは素材は売れないが、右手が討伐証明部位になるんだったな」


 流石に食事中の獲物に手を出すと怒りそうなので、俺でなく君島がそっとジャンクエイプの右手を切り落とす。

 話によると、このジャンクエイプがこの森では厄介な存在となっている。動きも素早く、木の上を縦横無尽に移動するため、スピードなどの劣る新米冒険者はまずこいつらで、躓く事も多いらしい。


 それを考えると、やはりメラは割と優秀なんじゃないかと思えた。ただ気になるのは魔法を使った攻撃をしたわけじゃないという事だ。


「だけど物理攻撃、だよな? 魔法は使わなかったのか?」

「そうですね」

「まだ使えないのかな?」

「うーんどうなんだろう……」


 そこら辺はまだ使えるか、使えないかもよくわからないようだ。もう少し狩りをさせて様子を見ようと言う話になる。

 そんな相談をしている間にも、メラはバリバリと食事を平らげる。


「もう少しいけるか?」

「ピィ―」

「お、やる気だな」


 多分だが、メラはある程度言葉が理解出来ている様な気がする。俺が尋ねるとやる気満々と言った顔で翼を大きく広げて見せる。

 君島としては少し心配もあるのだろうが、メラを鍛えるという意味も理解している。頭を撫でながら「気をつけてね」と声をかける。


 それから、その日は一日メラを中心に狩りをした。


 複数体いる場合は、大事を取って俺や君島が動き、単独で一対一の狩りになるようにと仕向けていたが、徐々に君島とメラの連携も意識して二人で複数体の魔物と戦う連携も訓練をする。


 それでもメラは、以前見せたような体に火をまとったアタックなどを見せること無く狩りが進んでいく。

 あれは何だったんだろうと、首をひねる。俺がどうしたら良いかと悩んでいると、突然君島の声が森の中に響く。


「メラ! メラ?」


 なんだ? 俺は慌てて君島とメラに駆け寄ると、メラは君島に抱かれてぐったりしている。


「どうした? やられたのか?」

「いえ……。魔物の攻撃は一つも受けていないのですが、突然……。この子はまだ子供だからって……。どうしよう……」

「ユヅ、落ち着いて。……メラとは感覚は繋がっているんだろ? どんな感じだ」

「そ、そうですね……。なんだかとても眠いような……」

「眠い? そう言えばここまで激しく狩りをさせるのは始めてかもな……。疲れてしまったのだろうか」

「……そうかもしれませんね」


 少し落ち着いてメラを確認した君島は、なんとなくメラが単に眠なってしまったのだと察し、安堵の表情を見せる。


「ま、家で飼っていた犬とかも、一日中寝ていたりしてたからな。動物というのは連続で動ける時間は短いのかもしれないな」

「はい……」


 ……。


 俺たちはそのまま街の城門を目指す。思ったより林の奥へと進んでいた俺たちは森を抜けるまでそこそこ時間がかかってしまう。


 今までメラはオレたちとは別行動で、ホテルの窓から上空を飛んで外に行っていたため、初めて見たのだろう。門前で出張所を出していたギルド職員は驚いたように君島の腕に抱かれたメラを見つめる。


「ファ、ファイヤーバードじゃないですかっ。あ、リボンが付いていますね」


 メラは、教国へ入国した際に渡された、テイムされた魔物である証のリボンを付けたままにしていた。そのリボンを確認した職員はすぐにメラが俺たちの仲間だとしる。

 この国のギルド員でさえ、ファイヤーバードは珍しいようだ。興味深そうに君島の腕の中に眠るメラを見ていた。


「どうなさりました? 怪我でも?」

「いえ。夢中で狩りをしていたのか、眠くなってしまったようで」

「なるほど、……あ。沢山の納品もありがとうございます」

「今はどんな感じです、だいぶ魔物は減ってきているんですか?」

「うーん。もう少しですかね。だいぶ減って来てはいるとおもうのですが」


 今のところ他のボランティアの人たちも問題なく獲物に出会えているようで、魔物はまだまだ居ると考えられているようである。


 俺たちは今日の分の謝礼をもらいホテルに戻った。



 ……。


 ……。


 今日は早めに帰った為、部屋にメラを寝かせたままブラウ・フラウの街を歩き評判の良いと言われるレストランで食事をとる。


「まだ、メラは寝てるのか?」

「はい。ちょっと心配になります……」

「そういえば、前、モンスターパレードが発生した時も、後で眠りについちゃっていたよね」

「そうですね。あの時は魔力が枯渇したのかと思いましたけど、普通に疲れてしまったという事もあるんですかね」

「そうだなあ」


 俺としては君島とゆっくり食事をし、お酒も楽しみたかったがメラが宿で寝ている為、君島が少し落ち着かないようだ。

 食事を終えると、すぐに帰宅した。







※更新遅くて申し訳ないです。カクヨムコンに出そうとしている作品が時間的にかなり厳しく今月内に十万時出せるかかなり微妙なところでして。


 で、本当は昨日の新刊発売に合わせて更新したかったのですが、遅くなり今日やっとこアップできます。

 書籍の継続的にはまだグレーですが。まだまだ出したいですね。商業誌は売れないと続刊が出せないので、ウエブ版と合わせ、書籍を買っていただけたら嬉しいです。

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