第136話 モンスターパレード 9
急ぎ堂本の隣に立つと、口早に巨人の特徴を教えてくれる。
「単調に大木を振り回すが、たまに樹木系の魔法を使ってくる」
「さっきの杭か?」
「そうだ、他にも、くっ!」
俺に説明をしながら、堂本が煩わしそうに伸びてくる木の根を断ち切る。どうやらワシャワシャと絡みつくように根が伸びてきて動きを阻害しようとするようだ。
「根か……」
俺はすでに居合の準備は出来ている。集中が開始され、魔力の感知能力も拡大していく。その中で巨人に内包される魔力の濃さに驚いていた。そして、その魔力が森全体へ繋がって、周りのジャングルの木々の根などを操っているようだ。
この巨人を如何に倒すか。
堂本は魔法と剣術を組み合わせて攻撃をしているようだが、俺はただ居合をするだけだ。それが今の全力だ。
「タイミングは?」
「任せる」
任せるか……。なるほど、堂本なら俺の動きに合わせて上手くやってくれそうだ。その確信を持った返答に、頼りがいというものを感じる。大したものだ。
……手数と言うからには、巨人の傷の治りを治す前に二人で一気に斬撃を重ねるということだろうか。
時間を圧縮し、意識を凝縮していく。
生徒のために刀を抜く。教師の俺にそれ以上の大義は無い。
大木を握りしめ、振り上げられた巨人の腕が、ゆっくりと振り下ろされるのを待つこと無く、俺の左足が大地を蹴った。
少し土の柔らかさが気になったので、伸びてきた根をグッと踏みつけ足がかりにする。それでもドンと力を入れると根は土の中に沈み込み、力が若干逃れる。
予想より手前に二歩目をつくが、前に向かうベクトルをそのままに、速度を積み重ね、加速する。
三歩目。更にスピードを上乗せすると同時に、俺は鯉口を斬る。
流れるように巨人に肉薄し、先程堂本が切りつけた焦げ跡を狙う。流石に延焼を付加した斬撃だ。完全に治っては居ないだろう。
巨人のスピードも、そこまでではない。俺は、力を乗る斬撃を選択する。この世界で初めて1つ目の巨人を斬った技。
――石通し
抜刀術というものは刃を鞘の中を走らせる。そのためライフルの銃身の様に抜くラインはある程度決まる。それを左手で鞘の角度を変えることで、通常は刃の動きに自由さを与える。
石通しは、威力を優先させた抜刀だ。鍔にそえ鯉口を切る左の親指をそのまま補助にする。抜刀を右手だけでなく、同時に左手の親指で押すことで刃の圧を増すものだ。柄を両手で握るわけでもない。親指で抜刀の動きを妨げないように押すだけだ。だがそれだけで力の乗りはだいぶ変わる。
鞘から左手が離れるため、鞘を腰の動きでコントロールするが、やはり斬撃のラインはある程度固定される。
元々が静止物を斬ることを想定されたものだ。
だが集中状態の俺には、巨人の動きは止まるに近い。
十分に成り立つ。
渾身の一撃が、堂本が与えた傷に重なる。
より深く。
より根本まで。
剣先の美味しいところだけを使うのが本来の抜刀だが。これだけの巨体を斬るためにはなるべく深く入れたい。
「とうぉおお!」
裂帛の気合と共に、刀を振り抜く。俺は堂本の邪魔に成らないようにと、そのまま横に抜ける。
……。
……。
一瞬の後、まさに光の矢の様な一撃が同じ場所に当てられる。
バギッ。バギギィィギ。
巨人の体重を支えていた足が、その自重を支えきれずにへし折れてく。
「よしっ!」
俺は既に納刀している。そのまま集中を切ること無く倒れていく巨人に傾注していた。その木の洞の様な……命を感じさせない瞳を見ながら、その姿を俯瞰する。
身長はどのくらい有ったのだろう。以前日本で見た人気アニメの等身大ロボット位の大きさは有ったように思う。15mと言ったところか。呆れるくらいバカでかい。
それにしてもこの魔力。一点妙に濃い部分がある事に気がつく。
その魔力の中心部から、巨人の魔力が周りに流れているのかと感じていたが……。どうもおかしい。
斬られた足の付け根あたりに魔力の流れが途絶えている感じがする。
……なんだ?
魔力の流れが逆?
巨人が自分の魔力で周りの自然を操っている訳じゃ無いのかもしれない。むしろ足元から上がっていた魔力が巨人を動かしていた?
……とりあえずもう一度。
「もう一発!」
俺は大声で叫びながら再び居合の動作に入る。狙うは魔力の集まる場所。首元だ。倒れてくる体に合わせるように一歩前に出ながら抜く。今度は少し手を変える。
石通しの対極になる居合。
スピードを重視した技。
菊水景光流 朧
「朧」とは大きく出たもので。相手に刃を見せない程の速さで抜き、そして収める。まるで漫画のような技だ。
気がついたら抜いていた。それはまだ可能でもあり、実際にそれを目指すのが居合の技術だが……。納刀までセットにするとその難易度は跳ね上がる。
実際、日本に居た頃そんな技術は俺にはなかった。じいちゃんが見せた『朧』が俺の唯一知る完成形だ。
今の俺なら。
この世界で階梯が上がり、身体能力は段違いだ。そして『集中』という技術があれば……十分に可能だと感じる。
――スピードを出そうとすればするほど、人は呼吸を止める。この技はそういった力みをすべて捨てる事から始める。通常の、いつもどおりの呼吸の中で、予備動作もない自然の状態からそのまま抜き、収める。
無駄な力を極力入れない事が極意だ――。
たしか、そう言っていたか。大学で上京する前夜。じいちゃんに道場へ呼ばれ一度だけ試技を見せてもらった。
その技を見た夜は眠れなかったのを覚えている。
……。
……。
チャキン。
心地よい納刀音が響く。
ズン。
一歩遅れて巨人の体が地に落ちる。
……出来た。
動作を終えた俺は、静寂の心のまま巨人を見つめる。その体は見る見るうちに青みがくすみ、枯れていった。
俺は振り向き堂本に視線を向ける。
「なるほど……天堕ちも成し遂げる訳だ」
「え?」
「いや……本体がまだいるということか……」
「あ、ああ。この巨人も周りから魔力の供給を受けていたようだな。……桜木は!」
この巨人が魔物のボスというわけでも無いのか。
俺たちは言い知れぬ不安を抱えつつ、倒れている桜木に駆け寄った。
※ありがとうございます。
もしかしたら、今年最後の更新になるやもしれません。年賀状終わってないです。
今年は、初めて日間ランキングで一位まで上がることが出来。自分の思っていた以上に多くの人に作品を読んでもらうという、作家として幸せな一年を送れたと思っております。
割と、好きに。流行り廃りを気にせず書き綴ってはおりますが、少しでもワクワク感を皆様に与えられたら嬉しいなって思っております。
来年には何か皆様に良いお知らせなど出来たらと、まだまだ頑張って書いていきますので、来年もよろしくお願いいたします。
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