第103話 首都へ 6 到着
ピアスを付け、鏡を見るが……やはり少し違和感はある。だが、俺の居合の特性を考えれば魔力の回復を少しでも早めるというのはかなり大事になる。
とりあえずしばらくつけてみることにするか。
鑑定料も穴あけも店員の女性はいらないと言う。そういわれると困るのは日本人だ。そういえば彼女の作ったアクセサリの一つも買おうか。そう考え、君島に何か欲しいのあるか聞く。
「先生……。私もピアス付けていいですか?」
「え? あ、ああ。好きにするといいと思うが」
「じゃあ、私はこれにしよっかな」
片耳に着けた俺の物とは違い、君島は両耳にセットで着ける小さめのピアスを手に取る。説明を聞くと魔力の流れを良くする術式が組んであるらしい。魔力の流れが良くなれば、体を守る魔力量も必然的に増え防御力も上がるし、魔法を使うときにも効果が出てくるという。
といっても、例によって僅かな効率アップらしいが。
君島も同じように耳に穴をあけてもらい装着する。二人とも初めてのピアスに何とも言えない恥ずかしさもあるのか、顔を見合わせて苦笑いをする。
その後も二人で街を歩き、食事などをしながら一日のんびり過ごす。
二人きりで居るのに慣れてくれば、前日と比べ夜も肩の力を抜いて自然に過ごせる。
◇◇◇
次の日。ブルグアの南門で待ち合わす。
しばらくすると、げっそりとしたスペルセスがあらわれた。横のマイヌイが苦笑いをしているので聞いてみると、領主が領地運営についてのアドバイスを請い、ずっと拘束されていたようだ。しかも、街の有力者たちも賢者が来ているという話を聞いて集まり、それぞれが聞きたい悩みなどを持ち寄るという状況。
楽しみにしていた蒲焼きも食べれず、むくれているようだ。
そんなことは知らないガスとルルドの二人は、スペルセスに「爺さん楽しんだかい?」なんて聞くものだから、出発前から獣車に入りふて寝だ。
この街も流通の要所だけあり、朝にはカプトの街と同じような隊商が出来上がる。
いつかのようにその集団の後ろの方で、俺たちは首都を目指して出発する。
ここまでスペルセスは、俺の無属性魔法はなんだろうと、思い当たるテストを色々してくれていたが、該当するものが見つからない。ここしばらくは、俺も魔法は諦めていたが何かを思い出したように風魔法を練習しろという。
「せっかく風の属性があったんだ。使わなきゃ上達もしない」
「でも、僕の適性はそんな強くないので生活魔法くらいしか使えないだろうって言われましたよ?」
「まあ、普通はな。しかし練習すればするほど、魔法のコントロールはうまくなる」
「はあ」
「ただ漠然と風を起こすより、ほしい所に風を集中させる。分かるか? 力というのは小さくまとまるほど強くなる」
そういうと一本の筒を出して見せる。
「これがなんだか分かるか?」
「えっと……あ、吹き矢ですか?」
「そうだ。この矢を手のひらに乗せてフッと息を吹きかけても飛ばんが、こうして筒の中に入れれば、人に突き刺さるくらいのスピードで飛ぶ」
「なるほど……」
走る車内で始まった講義は、一緒にいる君島も聞いている。
「ユヅキの水魔法もそうだな。一点に集中することで自分の魔法力以上の威力を出すことが出来る。ま、刃で物が切れるのも同じと言えば同じなんだがな」
この世界の魔法は、拡散しやすく、一点に集中させるというコントロールがとても難しいという。そこに関しては、桜木が虫眼鏡のイメージで力を集中させるというやり方にはスペルセスも驚いたらしい。
「ま、ここまでくればもう少しだが、暇な車内でそういった練習は出来るだろう」
俺たちがスペルセスの練習の手ほどきをしてもらっていると、突然隊列が止まり、前の方が騒がしくなる。どうやら魔物が出たようだ。
獣車の窓から前の方を見ると、大手商会の護衛の冒険者が戦っているのが見えた。
「大丈夫ですかね?」
「まあ、問題ないだろ。白昼だというし」
「そうっすね」
「白昼』というのは冒険者のランクの事だ。暁闇、東雲、白昼。と日の上りになぞらえて下級、中級、上級と呼ぶらしいが、正式な呼称ではなく自然に使われだした言葉のようだ。つまり、上級の冒険者が護衛に付いているため、より安心した旅を楽しめると言ったところだ。
道中はこんな感じで、護衛の居る隊商の楽さを享受する。明るいうちしか前に進めないのなら早朝に街を出発するのが一般的であるため、自然と早朝に皆がまとまって出発する形になるのかもしれないが。気持ちは理解できた。
俺たちは行列の後ろの方に居るのだが、後ろには護衛を連れた商人などは居ない。後ろの方からやってくる魔物は少ないがゼロではない。そういう場合は、さっと処理するようにしていた。
やがて、魔物を処理を終え再び列が進み始める。俺はまた車内で風魔法のコントロールの練習を始める。
君島も話を聞いて、水魔法を練習したそうにしているが、流石に車内で水魔法を使うわけには行かずにプラントリングを伸ばして、木魔法の練習などをしている。
それでも、何日も練習しているとなんとなく風がまとまるようになってきただろうか。
両の手のひらで壁を作るように風をまとめるイメージを作っていく。手のひらで風の流れを感じるところまですぼめていく。こうして少しずつ風が纏まっていくのを確認するのだが、小さくなればなるほど難しくなる。
「ま、何年もかけてやるもんだ。時間があるときに続ければいい」
「はい。ありがとうございます」
ブルグアの街から首都マニトバまでは、途中で止まる人達も少なく、最後まで護衛隊を連れた大手商会が居てくれたため、気楽な旅が続いた。
そして、ドゥードゥルバレーから二週間弱。ようやく首都の城壁が見えてくる。高台から下るような道のため、街の形状がよく分かる。街は今まで見た街と違い二重に城壁に囲まれているように見えた。
「もしかして、城壁が二重になっています?」
「そうだな。連邦締結後、この街を首都とすることにしてから、首都機能を充実するために街の拡充を行ったんだ。元々はそうだなあ……。カプトよりも小さく、ブルグアとそこまで変わらない規模だったが、その周りに更にぐるっと大きく城壁を作り。街を大きくしてるんだ」
「なるほど……首都に成れば人も集まりそうですもんね」
「その代わり旧市街地を貴族街として整備し、多くの住民が新しい市街地に移住を強制させられていたからな。まあ、150年も経てば混乱なぞ残っておらんがな。当時はだいぶ荒れたようだ」
「そうでしょうね……」
獣車は城壁の中には入れない為、ここで長らくお世話になったガスとルルドと分かれることになる。ガスが自信満々に言ったとおり、獣舎の揺れもかなり少なく快適な旅を過ごせた。
「ありがとうございました」
「おう、また機会があれば使ってくれ」
「そうですね、帰るのは、数週間後になりそうだから、流石に待ってくれとは言えないけど。またカプトから旅行に出る時は頼みますよ」
「ああ。いつでも言ってくれ」
ルルドもスペルセスと最後の別れをしている。一般の人間が賢者と一緒に旅行なんてなかなか無いからな。
「じゃあ、シゲト。これで俺たちはブルグ・シュテルンベルクへ向かう」
「ブ、ブルグ?」
「城だ。リーフマン大統領が待っているからな。まずは正式な入団式を行う」
「わ、わかりました……あ。服とか正服みたいなのが無いのですが……」
「大丈夫だ。連邦で用意する」
こうして俺たちはようやく、ホジキン連邦の首都へ到着した。
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