スクナビコナの冒険―小さな神が高天原を追放されネズミとともに地上に落っこちてしまった件―
七柱雄一@今までありがとうございました!
スクナビコナとスサノオ―問題児スクナビコナ、高天原より追放される―
はっはっはっ、皆さんこんにちは。わしは
今回はむかーし、むかしの話。
高天原というのは日本のずいぶんと古い時代に天空にあったという神々が住んでいる場所じゃ。
スクナビコナも今はそこに住んでいるのじゃ。
ただスクナビコナは高天原の神々の中でも少し不思議なんじゃ。
どう不思議かというと、まず体が非常に小さい。
なんと人の手のひらにも乗ってしまうくらいの小ささなんじゃ!
そして神話の時代の多くの者たちと同じように、頭を
さらに生まれてからずっと子供の姿形をしており、それは今までずっと変わっていないんじゃ!
さて、それではそんなスクナビコナの話をしていこうかのう。
…なんじゃと、ジジイくさい話し方をやめろじゃと?
…ふむ、それではやむをえまい。
では、はじめるとしよう!
小さな神、スクナビコナの
「…ふわああああ……」
眠気を誘う昼の陽気。スクナビコナは原っぱに寝そべっている。
昼寝はスクナビコナにとって遊ぶことの次に好きなことである。
今スクナビコナがいる所は、高天原の一番外側の、スクナビコナお気に入りの場所である。
ここは本当に心地よい風が吹くし、外を見れば地上の山並み、森、海が見える。
昼寝をするにも、ゆっくりくつろぐにも、最高の場所である。
「…やはりここにいたか……」
スクナビコナの耳に聞きおぼえのある低く鋭い声が入る。
「…なに……?」
スクナビコナが重たいまぶたを開けると、そこには真上から自分を見下ろしているスサノオの姿が。
スサノオ―かつて出雲の英雄とたたえられた神だが、今は訳あって高天原に住んでいる。
今のスクナビコナにとっては自分を監視しているなんとも厄介な存在である。
「…なに、ではない!」
「あっ、あわわわっ!」
そう怒鳴るやいなや、スサノオは強引にスクナビコナの服の後ろ側を、右手の親指と人差し指でつまみあげる。
一瞬にして体の自由を奪われたスクナビコナは空中で手足をジタバタさせる。
「このスサノオ、貴様が今の今まで何をやっていたのかはよーく知っているぞ!」
スサノオはスクナビコナを自分の顔の近くにまで持ってくる。その顔はしわが多く刻まれており、口元やあごからは真っ白に染まっている長いひげが伸びている。
「ぼ、僕が何をしたっていうんだよ!」
スクナビコナは相変わらず空中でもがきながら答える。
「ふん、今さらこのスサノオを前にしてしらばくれる気か!ならば言うぞ!まず貴様は田の
「だってさ。この高天原じゃあ毎日が退屈でやることがないんだからしょうがないだろ!それにちょっとくらい田んぼの水がなくて米が作れなくても、高天原にはほかにも食べ物なんていくらでも取れるだろ!」
「黙れ!貴様の下らん言い訳など聞きたくない!」
スクナビコナの言葉はスサノオの怒りをさらに増幅させる。
「それだけではないぞ!貴様はアマテラス様の神殿にネズミたちと共に土足で上がりこみ、神殿の床を泥だらけにしたな!」
「ああ、あれは僕がネズミたちを誘って神殿で鬼ごっこをしたんだ。ネズミたちが普段入れない神殿の中に入りたいって言うから、その希望をかなえてやったんだ。鬼ごっこをして遊んだのはそのついで、って感じで……」
「何が〝ついで〟だっ!」
スサノオはスクナビコナの鼓膜が破れるのではないか、というほどの大声で怒鳴る。
「貴様はこれほど長い間高天原に住んでおきながら、いまだに
「…だって……」
「だってもくそもあるか!」
もはやスサノオの怒りは頂点に達しており、スクナビコナのどのような言葉も聞き入れてもらえることはなさそうである。
「今回のようなことは今までに一度や二度のことではなかったのだぞ!何度も何度もあったことだ!」
そう言うと、スサノオは地面に置いてあったツボの中にスクナビコナを乱暴に放り込む。
「いてっ!」
「ふん、貴様はしばらくその中で反省していろ!貴様が今後どうなるのかは、この後のアマテラス様の宮殿で開かれる会議によって決まる予定になっている。その結果が出るまでは貴様はそこで無期限の謹慎じゃ。せいぜい自らのこれまでの行いを反省しろ!」
そう言うと、スサノオはつぼに
「…ふう、まーたここに来ちゃったよ……」
つぼの中に閉じ込められたことを嘆くスクナビコナに、突然つぼが話しかける。
『ははっ、まーたまた会いましたね』
「そうだよ。閉じ込められちゃった…、っておい、ツボヒコ!なにお前僕のこと笑ってるんだよ、つぼのくせに!」
『はははっ、だってあなたはもう何回も私の中に閉じ込められているではありませんか』
この今話しているツボ、ツボヒコはいわゆる
そしてスクナビコナはそんなものたちとも自由に話ができるのである。
「ふん、僕にはなんでこうしてここにいるのかぜーんぜんわからないけどね!」
スクナビコナはツボの底に寝転がりながら、ふてくされたように言う。
『えっ、そうなんですか?ここに閉じ込められるからには何かしら理由があるはずでは?』
「リユウ?僕はちょっと暇つぶしに田んぼや宮殿で遊んだだけなんだぜ!」
『ほう、田んぼや宮殿で遊んだ?』
「そうさ!少し田んぼで水の流れを変えたり、宮殿でネズミたちと鬼ごっこをしただけなんだ!たったそれだけのことで僕はこうしてここにいるってわけだ!ふざけたハナシだろ?」
『このツボヒコはあなたの意見にはドウイしかねる。私の知る〝セケンテキナジョウシキ〟に照(て)らし合わせてもあなたのオコナイは決して許されるものではない』
「はあ?〝セケンテキナジョウシキ〟だって?なんでそんなものに僕が従わなくちゃならないんだ!」
『それは〝セケンテキナジョウシキ〟というものは皆が守るべきであるという〝キョウツウノニンシキ〟によってこの高天原の社会は成り立っているからです』
「おいおい、なにそんな面倒なこと言ってんだよ!だいたい僕は以前地上じゃあけっこう活躍したことがあるし、今でも高天原の中じゃあアマテラス様にも期待されてるんだぞ!そんな僕が〝ジョウシキ〟なんかに従う必要はないね!」
『…ふう、そうですか……』
ツボヒコは呆れてため息をつく。
『…ならばあなたに一つだけ〝ケイコク〟させて欲しい……』
「ふん、なんだよ、言ってみろよ!」
『…今のままではあなたの身に重大な〝シレン〟がふりかかる可能性がある。そのことをおぼえておいて欲しい……』
「シレン?なんだそんなことか…。そんなもの、僕はヨユウで乗り越えてやるさ!ああ、お前と話しててもなんか面白くないや。むしろかなり眠くなってきた。悪いけど僕は寝るぞ……」
そう言うやいなや、スクナビコナは勝手に眠りに落ちてしまう。
つぼの内部では、…はい、おやすみなさい、というツボヒコの言葉がむなしく響くのだった。
「…起きろ!」
「わあっ!」
スクナビコナは突然上から響いてきた大声に飛び起きる。そして光が入ってきている頭上を見上げる。
「…ああ、サイアクの寝覚めだ……」
「なにが〝最悪の寝覚め〟だ、たわけが!」
つぼの蓋を開けた人物、スサノオは相変わらずの大きな声でスクナビコナをその頭上からどなりつける。しかしすぐに気を取り直して言う。
「スクナよ、貴様の処分が決まったぞ……」
〝スクナビコナ〟は呼び名としては長すぎるため、普段は皆スクナビコナを呼ぶときは〝スクナ〟と呼ぶ。
「ふうん、そうなんだ。今回は何をやらされるの?」
「何もやる必要はない」
「へえ、そうなんだ。まあ、僕は何も悪いことはしてないからね」
「そうではない!」
スサノオは語気を強めて、言う。
「スクナよ。今回貴様に下された処分は、高天原の中で課される罰としてはもっとも重いものだ」
「そうなの?」
「そうだ。貴様はこの高天原から追放されることに決まった」
「ああ、追放されるのか…。って、ちょっとちょっと!追放されるってことは、僕は高天原から追い出されちゃうの?」
「そういうことだ」
「なんでだよ!アマテラス様は僕をかばってくれなかったの?」
「今回のことは貴様の運命に関わることゆえ、高天原の全ての神々、
「…そんなー……」
スクナビコナはスサノオの言葉に落胆する。
「貴様には、明日にはこの高天原から出て行ってもらう。それまでは今日一日だけ、貴様には日没まで行動の自由が与えられる」
「そんなの全然嬉しくないよ!」
「ふん、まあ話を聞け。今日一日は貴様が地上で行動するために必要なものを準備するための
「ふん!たかが一日で何ができるっていうんだよ!」
「…ふう、そう言うな、スクナよ。たった一日とはいえ貴様に与えられた貴重な時間だぞ。無駄にはできまい。貴様は明日の朝一番には
そう言うと、スサノオはスクナビコナを両手で包み、つぼの外に出してやる。
「今日一日を大切に使え!」
「…ちぇっ、わかったよ……」
スクナビコナは渋々ながらもツボが置いてあった倉庫から外に出るのだった。
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