第34話「猛獣警報ガール」

 また来客だ。げげっ! なんと相手は騎士装束の少女。あの、ハイキックガールである。

「ぶっ、ぶぶーっ」もっ、猛獣警報発令。

 二人は知り合い? この部屋に来るよなあ。面白そう!


 お母さんはテーブルでその猛獣女子客と向かい合った。

 僕の部屋が灼熱のサバンナ、サファリパークと化す。

「ご無沙汰しております。頭領ヘッド

「もう……、その呼び方はやめてよね」

「いいえフランカ様は私たちにとって、今も【赤い流星団】の頭領。ヘッドであります」

「二人の時は、様は止めてね~。現実に引き戻されるわ」

「はい。フランカ」

「それに、ずいぶん前に頭領ヘッドは引退よ。その後みんなは元気かしら?」

「もちろんです。頭領不在とはいえ結束は今も変わりません」

 何やら不穏な空気が漂う会話だな。棟梁ってどんな役職なんだ?

「みんなも卒業しろ、って言ったのに。わざわざ悪かったわね」

「いえ。本日は周辺の配置ですから。お手紙をもらって嬉しかったです」

「噂は聞いたわ。ワンパンのクリューガー・スミッツ」

 銀色のショートカットは素早さを想像させる。大きな目はミスマッチの可愛らしさを加えていた。しかし赤い瞳はリアルな熱き炎である。迂闊に手を出すと、我が身を焼かれかねない。

「もう、勘弁してください……」

「ハイキックもあったのにねえ」

 スミッツお姉さんはパンチとキックのどちらが得意ですか?

「婚約できなくなっちゃいますよ~」

「良い人がいたら教えてね。応援するから」

「まだちょっと早いですよ~」

 突っ込みの内容で、ずいぶんキャラが変わるね。それ、イイよ、イイよ。

「そうよねえ。大学院はどう?」

「総動員で休校です。このような危機は百年前以来で、王政も張り切ってますね」

「ランがねえ……」

「いえ、ランメルト様は動員の拡大を抑える側ですから。精鋭の集中投入で要所の痛打を狙っております」

 この女子は精鋭側だしなあ。なのにあんなバカ騎士と組まされて苦労だな。学生の動員かあ……。

「あの人は今でも勇者パーティー主義だしね」

 ふーん。作戦立案にも派閥があるんだ。勇者たちは特殊部隊みたいな位置付けなんだな。

「これなのですね」

「ブヒっ」ひいっ。

 ミスKOがギラリとこちらを睨む。

「かわいいお坊ちゃまですね。今までご挨拶にも来ないで、申し訳ありませんでした」

「まったく……上級貴族なんて身分とかなんとか、色々あって窮屈なものね」

 いや。僕ではなく、僕の横の暗黒騎士人形を見たのだ。一瞬バレたと思って焦ったよ。

「はい。そうですね……」

「ええ……」

 お母さんは立ち上がって、見上げる僕の傍から人形を取り上げた。

「これ、知ってる?」

「最近街で話題になっていますね。勇者仮面」

「人形の方は?」

「あまり人気はないようです。発売されたばかりですからねえ。やはり一番は、森のクマさんですかね」

 がくっ……。な、なぜだっ!

「今回の一件で。人気はうなぎ上りです」

「クマは人気なのかあ。アル君は壁に投げつけてばかりだし」

 ぎくっ。それは僕の個人的な好みっす。それにしても鰻、いるんだあ。早く食べたい。

「元々は森の奥に出没して、薬草採りの子供を助けていたそうです」

「それでぬいぐるみに?」

「はい。発売前から知る人ぞ知るアバター化身具現だったようですね」

 そうだったのか! 地下アイドルとして、下地を作っていたからこそのあの人気。すでに固定ファンがいるのも頷ける。やっぱ地道な営業活動だよな~。

「ぬいぐるみを意識した誰かのアバター化身具現が先で、それを参考にしたのが、クマ人形なのね」

「実体はたぶん子供でしょう」

「これを主人にくれた人がいるのよ。知ってる?」

 お母さんは勇者仮面を持ちつつ、さっきから質問ばかりする。内容が少しずつ核心に近づいていた。

「はい。手紙にあったので王政の先輩たちにそれとなく聞いてみました。結論から言えば問題はないでしょう――」

 お母さんはこの話を聞こうとワンパンKOを呼んだのだ。恐るべし母。

「――親戚がぬいぐるみの縫製工場を経営しております」

「そうなんだ」

 すまし顔で応える。しかーし、内心ホッとしているに違いない。疑いは晴れたっ!

「他意はありませんよ。宣伝にもなると思ったのでしょう。それをもらった同僚があと何人かおります。小さな子供がいる者ばかりですね」

「分かった。問題はなさそうね。こちらの力に抱きつこうって人が寄ってくるのよ。主人はそういうところ、本当に無頓着だから」

「気をつけるに越した事はありませんよ。王宮にはそんな人は大勢おります。私もランメルト様とは距離をとっております。騎士団は派閥がややっこしくて」

「あなたに気を使わせてしまって、すまないわ」

「いえ……」

 ふーん。なかなか貴族社会も大変ですね。

「それと勇者仮面の方も問題よね。ランも心配しているようだけど」

「怪しいですね。味方なのか敵なのか」

「ええ」

 いやいや、怪しくないですよ。ここにいます。清廉潔白な若者兼赤ん坊が。

「勇者仮面人形は店頭から回収を始めたようです。評判が悪すぎで」

「ばぶうっ!」はううっ!

「そうよねえ……」

「一方森のクマさん人形は売り切れて現在品薄が続いております」

「ぶっ、ひゃひーっ!」なっ、にゃにーっ!

「勇者仮面は無料配布もしたのに、残念ね」

 お母さんはきついな~(笑)。その女子職員も他意はなかったでしょうに。

 でもこれは僕の問題なんだよな。

「男子にはウケが良いと思うのですがねえ。やはり知名度ですか。後発の人形ですし」

 しかしなあ――。暗黒騎士人形は完全に悪役設定となってしまった。不人気っ!

 なんとかしないと。

 知名度か……。

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