そんな気はしていましたよ
なんとか身支度を整えて約束の時間に間に合いました。
本来ならばもっと余裕をもって到着する予定だったのですが、出がけにあのような事があったので仕方がありません。
そもそも、わたくしが乗る予定だった馬車が妹が使って出て行ってしまったというのですから、本当にどうしたものかと困ってしまい、急遽別の馬車を準備したのでございます。
だというのに、どうして妹が使って行ったはずの馬車が此方に来ているのでしょうか?
まさか、まさかとは思いますがついにはわたくしの婚約者まで欲しいと言い出すわけではありませんわよね?
いえ、別に国王陛下から押し付けられたに近い形の婚約者ですので、別に取られてもなんの痛手もないのですけれども、外聞と言いますか、折角婚約者を決めてくださった陛下に申し訳ないと申しますか、とにかく、どうしましょうね。
とりあえず、わたくしの訪問に関してはお伝えしておりますので行かないというわけにもいかず、玄関をノックいたしましたところ、慌てた様子の使用人達が出てまいりました。
「なにかありましたの?」
「いえ、フォリア様は具合が悪いとお聞きして、その妹のシャリア様がその代理としていらっしゃいましたので、その……」
「あら、わたくしが具合が悪く? 神の聖女であり守護を頂いているわたくしの具合が悪くなると本当に信じたのですか?」
「それはっ、ブラング様が信じるとおっしゃって」
ああ、ブラング様というのはわたくしの婚約者の名前でございます。
それにしても、歴代の聖女が死亡時以外に具合が悪くなるという事がないというのは通説でございますのに、いえ、死ぬ時ですら眠るように安らかに死ぬと言うものが殆どでございますのに、何をもってわたくしの具合が悪い等という話になったのでしょうね。
とにかく、約束は果たさなければいけませんので、気まずそうなお顔の使用人たちに案内をさせてブラング様のお部屋に行くことに致しました、が、ブラング様のお部屋の前には、本来であれば部屋の中で待機しているべきであるはずの侍従が扉の前に立っておりまして、わたくしを見た瞬間顔を青ざめさせました。
まあ、この時点でなんとなく察しはつきますけれども、一応確認するのもわたくしの婚約者としての義務のようなものですわよね。
ああ、嫌ですけれども仕方がありませんわよね。
「扉を開けていただけますわよね」
威圧感を込めてそう言えば、侍従達は一瞬顔を見合わせて、音を立てないように静かに扉を開けました。
「ああんっブラング様っ」
途端に聞こえてきた嬌声に思わず眉間にしわを寄せかけてしまいましたが、そこは普段行われている淑女教育のたまものと言うものでしょうか、なんとか表情を動かすことなく済ませることが出来ました。
お二人はお互いに夢中になっているようで、わたくしが入ってきたことには気が付いていないようですので、わたくしはわざとらしく咳払いをさせていただきました。
「フォッフォリア!?」
「お姉様なんでここにいるの!?」
「それはわたくしが聞きたいですわね。わたくしの具合が悪い等という嘘をついてまでこのような所に来て、そのようなはしたない真似をしているというのは、全くもって理解したくありませんが、どういうことなのでしょうか?」
もっとも、説明も何も乱れたシャリアのドレスが物語っておりますけれど、一応聞くだけは聞いておきましょう。
「だって、私には婚約者がいないのに、お姉様にだけ婚約者がいるなんておかしいじゃないですか、だから、私がブラング様を貰ってあげるんです。それに、こういう関係は初めてじゃありませんよ。お姉様は知らないかもしれませんけど私とブラング様はずっとこうして愛し合ってるんです」
「ずっと、ですか。まあ、わたくしも愛し合う二人の仲を裂いてまで婚約を続けようなんて微塵も思いませんので、それならそれで構わないのですけれども、そうなのでしたら、ブラング様」
「なんだ」
「いままでわたくしがブラング様にお貸ししていたものをお返ししていただかないといけませんわね」
「は? 俺はお前に何も借りた覚えはないぞ」
「いいえ、しっかりとお貸ししておりました。国王陛下と神の前で誓約書をお書きになったじゃありませんか、まさかお忘れになってしまいになりましたの? 困りましたわね、無理やり奪い上げる趣味はあまりないのですが、婚約が破棄になってしまうのでしたらお貸しする義理もございませんものね」
「なんのことを言っている」
「そうですわねえ、国王陛下のご予定の確認もしなければいけませんが、なるべく早く婚約破棄をさせていただきますわね」
「やった! そうしたらブランク様は私の婚約者になるのね! 嬉しい!」
「え? あ、そうか。そうなるのか、そうだな、可愛げのないフォリアよりもシャリアの方が数倍ましだな」
可愛げがないですか、貴方に対して愛想を振りまく意義を見出せなかっただけなのですが、言っても効かないでしょうしどうしようもありませんわよね。
それにしても、侯爵であるわたくしとだから婚約出来ていたというのに、その妹でしかないただの平民の娘と婚約をしたがるなんて、ブラング様も随分と酔狂な事を思いつきますわね。
まあ、この件も合わせて国王陛下と神にご報告申し上げましょう。
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