最終話
僕と由奈はあの裏山を登っていた。
「ほら、ついた」
そこはあの崖だった。
「由奈?なんでこんなとこに?」
「あの時、ただの傍観者だった人がまだ残ってる」
由奈は崖のギリギリに立って言った。
「ほら、殺して」
もし叶うのならば、僕は由奈と普通の恋愛がしたかった。
いつからか、僕らは歪んでいたんだ。
由奈は僕を愛し過ぎていた。
僕も由奈を愛し過ぎていた。
「これで事情聴取は終わる」
そう言う刑事さんの顔は歪んでいた。
僕はあの後出頭して、すぐに捕まった。
僕はここまで供述をねじ曲げたことがなかった。
「小学校のころ、いじめてきた奴や、ただ見ていただけの奴を皆殺しにしたかった。
いじめをした奴らが悪い」
きっとこれで由奈の望みが叶うだろう。
次の日
僕はどうなるのか、法律についてはわからないが、どうせ死刑だろう。
「やあ、君が京人君だね」
入って来たのは綺麗な顔をした女性だった。
「君の恋人の由奈さんの部屋を調べさせてもらったんだ、そしたらほら」
そういってデスクの上に書類を並べ始めた。
そういえば由奈の部屋にはたくさんのファイルが並べてあった。
「なんですかこれ」
その書類には自律神経だとか、マインドコントロールだとかが書かれていた。
「君の彼女さんは凄いね、全てとても難しい論文達だよ。中には新聞の切り抜きなんかもあればビジネス書まである」
「何が言いたいんですか」
「つまるところ、君はあの子に洗脳されていたんじゃないか、いや、今も洗脳されているんじゃないかと言うことだよ」
何を言っているんだ。
「じゃあどうして由奈まで、殺す必要があるんですか」
「そこまでが彼女の計画だからだよ」
その女性は資料の一枚を見てそう言った。
僕が由奈に洗脳されているはずがない。いや、由奈がそんなことするはずがない。
そう思って女性を睨んだ。
女性は資料に視線を落としたまま話始めた。
「君、彼女に夜遅くに呼び出されたりしただろう、それによって君の判断力はひどく低下したと思う。さらに、君は条件付きの約束をしたんじゃないか?
例えばそうだな、今だけは助けてとか、期限付きの契約だ」
僕は由奈から言われた言葉を思い出していた。
「それと君に彼女以外の親しい友人はいたかい?」
僕には由奈以外に親しいと呼べる程の人間はいなかった。
「君は彼女の全てを知った気になっていたんじゃないかい?
君だけが彼女の特別だと思っていたんじゃないかい?」
由奈の他の人が知らない一面をたくさん知っていた。
指のフォルダーも由奈の思想も僕だけが知っていた。
「そうだな、後は、彼女の怒りに触れたこともあるんじゃないかな」
「なんなんですか、洗脳なんてされていないって言っているじゃないですか」
初めてだった。初めて事情聴取で手汗をかいていた。それはきっとこの女性の全てを見通すような視線のせいだろう。
「そうかい、まあ、何か心あたりがあるなら何か教えてほしい」
心にドロドロとしたものが溜まっていく。
「だから洗脳なんてされていないって言っているだろ!
僕は由奈を愛していたし、由奈も僕を愛していたんだ!
もう話しかけるな!このあばずれ女!」
部屋に静寂が走った。
「すまなかったね、それじゃあ失礼するよ」
僕は特例中の特例で15年程度牢に入ることになった。
僕は精神鑑定の結果精神的な欠陥が多数見られる、と言われた。警察の人はそれを洗脳と呼んでいた。
いくら僕が洗脳をされていようが、
僕には由奈との思い出がある、花火をして、海に行って、毎晩のブランコでの語らいがある。
僕は由奈を愛している。
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