病的恋愛症

三角

第1話

いつからだったのか、彼女を好きになってしまったのは。


思えばそこが運の尽きだったのかも。


もし望みが叶うなら、神様が本当に居るなら、普通に彼女を愛したかった。






僕には好きな人がいる。

大塚由奈。僕の憧れの人。

小学生から想い続けて、気が付いたら高校生だ。

どんな人にも優しく接している姿、美しい黒い髪、スラっとした立ち姿、綺麗な目。その全てが大好きだ。


「おい大野!なにぼーっとしてるんだ!」


まずい、今は数学の授業中だった。


「す、すいません…」


周りからクスクスと笑い声が聞こえる。


はぁ、こんな僕が彼女と釣り合うわけないよな…





その放課後、僕は彼女と一緒に家までの帰路を歩いていた。

僕と彼女は家が近いので一緒に帰ろうと思えばいつでもできるのだが、彼女は部活に所属していて、僕は所属していないから、あまり一緒になることはなかった。

今日だって本当は部活があったはずだ。でも隣には由奈がいた。


「なんか一緒に帰るの久しぶりだね〜」


由奈の声色はいつだって明るくて優しい。


僕は言葉を返す


「そうだね、小学生の頃っていっつも一緒だったね」


由奈はそう言って少し気まずそうな顔をする。

きっとあの事だろう。


僕は小学生の頃、父を亡くし、いじめを受けていた。


いじめはどんどん過剰になっていき、僕はある日、いじめの主犯格のグループに体育館裏に呼び出された。


小学生のいじめの恐ろしいところは加減を知らないところだ。


僕へのいじめを始めた本人の荒木涼介はその日親からくすねてきたライターと煙草を持ってきていた。


一体どこで習ったのか、荒木は僕の額に一生残る跡を付けた。


そのことを、僕を守れなかったことを、由奈は今でも気にしている。

今でも額の跡を見ると、由奈は泣きそうな顔をするぐらいだった。




「ねえ、京人、」


不意に由奈が話しかけてくる。


「え、なに?どうしたの?」


「私ずっと京人が好きだったの」


「そうなんだ」


「違うよ、友達としてじゃない、一人の人として。だから、付き合って欲しいの」


彼女の頬が紅く染まっている。

初めて見た彼女の表情。

多分だけど僕は一秒くらい固まっていた。


「え、あの、僕なんかでいいの?」


「京人じゃなきゃだめなんだよ」


「だって、身長だって低いし、馬鹿だし、顔も良くないし、いい所なんてない…」


「私は京人を選んだの」


その、言葉に、

その、瞳に、全てを奪われた。

初めての感触、感情、感覚だった。

何もかも感じるものが変わった。

世界が変わった。


「僕なんかでいいのなら」





この日から僕、そして由奈の全てが変わる。

単に関係性が、という訳ではない。

きっととっくに手遅れだった。

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