第112話 リザードマンの首領

部屋の奥の玉座には眼帯をつけた一際大きなリザードマンが座っていた。

他のリザードマンのように鎧や文官衣装は着ておらず、上半身は裸のままだ。

鱗に覆われた皮膚に、いくつもの傷跡が確認できる。

感じる威圧感は他のリザードマンとは別格で、歴戦の戦士のようなオーラをまとっている。

彼はリザードマンの上位種、リザードキングらしいのだ。


「お前らが獣人たちを排除したミミック共か?」

キングは口を開いた。

発する一言一言に、ビリビリと圧を感じる。

ただ、ここで威圧に負けるわけにはいかない。

僕らは対等に交渉しにきたのだ。


(厳密には僕ではない。僕は結果として加担しただけだ。)

僕は即座に返答をした。

獣人族を殲滅させたのはリュウだが、いちいち言い訳をする必要もないだろう。


「ふん、そのことはどうでもいい。負けたのは奴が弱かったからだ。

族長を倒したのはお前だろう?

奴から聞いていた話とお前は印象がよく似ている。」


(族長はここにいるのか?)


「ああ、奴はここで保護している。一緒に転がっていた人族のメスもな。」


やはりここでリリアも保護されているのだ。

どうにかして彼女から魔神の鍵を受け取らなければならない。


(その人族の女を迎えに来たのだが。会わせてはくれないだろうか?)


「なぜ?」


キングの問いに一瞬固まってしまった。

「なぜ?」とはどういうことだ?


(仲間を迎えに来たというのは、理由としておかしいだろうか?

こちらで保護してくれたことには感謝する。

出来る限りのお礼もしたい。

今度は我々が彼女を保護したいのだ。)


「だったらもう少し早く来れば良かっただろう?

なぜ今更なのだ?

我らが保護しなければ、あのメスは死んでいたぞ。」


返す言葉もない。

確かに僕は彼女を見捨てた。

あの場所から逃げることで精一杯だったのだ。

僕は彼女がリュウの攻撃で死んだものだと決めつけていた。


確かにキングの言う通り、もっと早く探すことも出来た。

ハルクが亡くなって以来、僕はあの時のことを思い出さないようにしていたのだ。


「お前らが欲しいのは、あのメスではなくこれだろ?」

キングは、おもむろに台座の奥に手を突っ込むと、ドクロのレリーフが入った鍵を取り出した。


「動けないヤツが持ってても仕方がないだろう?

俺が有効活用してやるのさ。」


キングは釘付けになっている僕の目の前で、鍵をくるっと一回転して見せた。


(光さんちょっと…)

ナースがキングと話す僕の間に入ってきた。


(どうした?リュウからメッセージがあったのか?)


僕の問いにナースはこくんと頷く。

ナースは僕にリュウからのメッセージを僕のチャットに転送した。


早速メッセージを開いてみると、


「やっぱり悪魔の鍵持ってないやん。

まあええわ。自分で取りに行くわ。」


この一言だけが入っていた。

どこで持っていないことがバレてしまったのか?

取りに来るってどういう意味?


メッセージが届いたのは僕らだけじゃなかった。

血相を変えたリザードマンの兵士が、キングの元に駆け寄った。


「報告いたします。斥候から『魔族の集団がこちらに向かってきている』との連絡を受けました。

いかがいたしましょう?ご英断をお願いいたします。」


タイミングが良過ぎる。

リュウからのメッセージを受け取った瞬間に、最西端も敵からの襲撃を受けるようだ。

もしかすると、魔族とリュウはつながっているのか?

いや、それはないだろう。

リュウは魔族に目の敵にされていた。

魔族とリュウが共闘することはあり得ないのだ。


(リザードマンたちは、戦闘に長けているのか?)

僕はキングに質問をした。


「ああ、強いぜぇこいつらは。

ただ、魔法には弱いけどな。手伝ってくれるんだろ?」


キングは僕の方を見てニヤリと笑みを浮かべたのだ。

ここで恩を売っておくのも悪くはない。


(手伝ってやってもいいぞ。)


「ああ、よろしく頼むわ。鍵はやれんけどな。」


僕らは、お互いの顔を確認し再度ニヤリと笑った。

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