第9話 背後からの攻撃

ズ…ズズ…ズズズッ


僕の背後で重量物が這うような音がする。

確かに僕の後ろはダンジョンの岩壁となっており、通れるようなところはない。


ズズズッ…ズズ。


段々音が近づいているようだ。

しかし、相変わらず誰もいない。


僕は音の方へ意識を集中した。


「聴覚がレベルアップしました」


ひょんなことから聴覚のレベルがアップしたようだ。

周りの音がより鮮明に聞こえるようになった。


ズズズ…。


どうやら音がするのはダンジョンの岸壁からのようだ。


ボコッ。ゴゴゴ…。


僕の後ろで穴が空いたような音がする。

おそらく、岩盤の中から何か出てきたのだ。

僕は急いで箱の蓋を閉め、黙って様子を伺った。


ズズズ…。


またしても這うような音が聞こえ、段々と背後から僕に迫ってくるようだ。

鑑定をしようにも箱を開けて、鑑定対象を視認しなくては鑑定することが出来ない。

正体不明の相手を、僕はやり過ごそうと息を殺してじっととどまってた。


ズズズ…ズズ…

音は僕の真後ろで止まった。

誰かいる!?

例え誰かいたとしても、向きすら変えられない僕は相手を確認することができないのだ。



グラグラ…。

何者かが、背後から僕を揺らし始めた。

僕の背中に冷たく堅いものが当たり、強い力で僕を前に倒そうとしている。


前に倒されたが最後。

動くことが出来ない僕は起き上がることは出来ないだろう。

しかも前のめりに倒されると、箱を開けることも出来ないはずだ…。


倒されまいと必死で耐える僕。

ギリギリのところでなんとか耐えている。


僕の背中を押す力が緩み、ズズズっという音を立てその主は僕から離れていった。

(諦めてくれたか!?)

僕が一息をついたその瞬間、


ドゴォオン!


(ぐぇっ)

背後から強烈な一撃を受け、僕は前方へと吹っ飛ばされた。

僕は正面から地面に突っ込み、勢いが余ってそのまま反回転して仰向けに倒れた。


幸いにも背中から地面に設置している状態となったので、箱の開閉はすることができる。

しかし、この倒れた状態から自分で起き上がることは出来ないようだ。


箱を開くと、目の前に僕を見下ろしている大きな芋虫がいた。

こいつが僕を倒したのか!


相手が確認できるようになったので、鑑定スキルも使用できる。

早速鑑定スキルで相手の情報を探った。


【クローラー】

ダンジョンに潜む人食い芋虫。集団で活動することが多く、岩穴の中で生活する。

成長すると綺麗な蝶になるという。


Lv 5

HP(体力):220

MP(魔力):30

SP(スキルポイント):80

筋力:90

耐久:70

知力:10

器用:10

俊敏:30

運:20


結構強い…。

特に体力・筋力・耐久の面で僕よりもかなり上のようだ。

しかも、僕は倒されたまま、身動きが取れない。


ここは先手必勝!

僕はクローラーに向かって毒針Lv2を吹きつけた。


キィィン

まともに毒針が胴体にヒットするも、突き刺さることなくはじかれてしまった。


キィィン…キィィン!

2度3度と毒針を放つが全てクローラーの胴体にはじかれてしまう。


クローラーは天井に向かって体を伸ばしながら鞭のように背中をしならせ、勢いをつけたまま僕に向かって胴体をぶつけてきた!


グワッシャッッ!


地面ごとクローラーの胴体をたたきつけられた僕は、勢い余って回転しながら宙へと舞い上がった。

為すすべなく、地面に叩きつけられる僕の体。

吐き気をもよおす程の激痛に、意識を失いそうになっていた。

箱の前面に大きな亀裂が走り、攻撃を受けた部分は大きなへこみとなっている。


「方向転換Lv1を獲得しました」


激痛に苦しみながらも、僕の耳にはスキル獲得の声が聞こえた。

方向転換スキル…?


待ち望んでいた移動スキルの一種のようだが、今鑑定で調べる余裕はない。

クローラーが僕の方へと向かっているのだ。


ズズズッ…


甘い匂いLv4 を僕とは逆方向に使用したが、クローラーは全く意に介する様子も無い。

真っすぐ僕に向かって突進している。



ドグォオオン!

クローラーの体当たりをまともに受けて、僕は再び吹き飛ばされた。

箱の亀裂がさらに大きくなり、めり込んだ部分の外壁も破損した。

HPが100からすでに43に!


幸いにも今回は倒れずにとどまった。

しかし、僕の向きはクローラーとは逆方向。

動けない僕には向きが違うことは致命的なのだ。

背後からクローラーが再び突進してきた。


僕はダメ元で先ほど獲得した方向転換Lv1を使用した。

すると僕の意思で少しだけ向きが変えられた。

方向転換Lv1を連続で使用してようやく、クローラーと正対する向きへと変換することができたのだ。


「方向転換のレベルが上がりました」


(でも、向き合ってどうしよう…)

毒針もきかなったクローラーに対して、僕に出来ることは少ない。

使えそうなのは溶解Lv1。

ただ、どのくらい効果があるのかは不明だ。


クローラーは僕のもう目の前だ。

まともに言っても吹き飛ばされるのが目に見えている。

正面から戦うのは得策ではない。

じゃあどうする?


クローラーと激突の瞬間、僕は方向転換スキルを使用し斜め後方に体をずらした。

間一髪でクローラーの攻撃を避けた僕は、そのままクローラーの側面に噛みついた!


「食べるLv1発動中」


僕の噛みつきがクローラーを襲う!


ギィィイ!


これにはさすがのクローラーも嫌がったようだ。

僕を引き離そうと体を大きく振り始めた。

ここで離せば勝機はきっと来ないだろう。

僕は体ごと振り回されながらも、決して離さなかった。


溶解Lv1 !

僕の口から酸性の粘液が流れる。


ギィィ、ギィィイ…!

直積注入される粘液はクローラーの装甲すらも溶かしていく。

装甲が薄くなった部分に再度溶解Lv1を注入!


「溶解のレベルが上がりました」


プツッ。

僕の噛みついている部分が裂け、緑色の液体が流れる。


「食べるのレベルが上がりました」


噛みつく力が強くなったことで、クローラーの抵抗が減ってきたようだ。

僕はとどめとばかりにクローラーの傷口に目掛けて毒針を発射した。


ギィィイ!ギィイ!

暴れまわるクローラーだったが、それも長くは続かなかった。

クローラーはそのまま動かなくなった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る