行方不明の子ども

連喜

第1話 ある出来事

 俺が20代の頃、関東郊外の某駅で、物件探しをしていた時のことだった。

 

 あれは暑い夏の日だった。草の蒸れた匂いがその辺一面に漂っていた。

 駅の周辺でさえもそうだった。

 冷房のある涼しい環境になれていた俺は、坂道を上がるのがしんどく、汗だくになっていた。アスファルトの照り返しがすごかった。靴の中が熱い。蝉の鳴き声が大音量で耳の中にこだまする。足長蜂が飛んできて、俺の顔の横をかすめて去っていった。

 

 さっきからパトカーが走っている。

 日本どこへ行っても、重大事件なんてそうそう起きない。

 俺は何とも思わなかった。


 暑いからすべてが面倒くさい。

 自販機でお茶を買いたい・・・。

 野次馬根性も完全にそがれていた。


 俺はその頃、23区内に住んでいたから、もっと安くて広いところに引っ越そうかと思っていた。

 知り合いがいるエリアと路線を潰して行ったらそこになったんだ。


 俺はどうしてもそこに暮らしたいわけじゃなかった。

 消去法だった。


 不動産屋では、「郊外に住みたくて・・・もっと自然の溢れる所がいいかなと思って」と、引越しの理由を言った。

「この辺は田舎ですからね」

 その人は言った。


 ずっとパトカーのサイレンの音が聞こえている。

 そしたら、俺が何も聞いてもいないのに、「昨日、女の子が行方不明になって、警察が探してるんですよ」と、不動産屋が言った。

「へえ。いくつくらいの子ですか?」

「小学3年生」


 女の子が行方不明になったニュースは全国ネットでも放送されていたと思う。

 でも、そういう事件がたまにあるから、俺はそれほど気に留めていなかった。

 見つかったかどうか結果も知らなかった。

 俺は大人だし、自分に関係ないと脳内が勝手に仕分けしていたんだろう。


 俺はその事件のことを全く忘れていた。




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