第10話 6神ミルムに下される、断罪の極光

 カオリが冒険者ギルドに立ち入る1日前。

 私ミルムは、人界から移動して天界に来ていた。


「……」


 天界から更に上にある、神が住まう領域に向かって静かに飛んでいた。

 神の領域とは、数多にある世界を管轄する場所で、全ての世界のはるか上空で繋がっている。

 一応直で帰る事も可能だけど、これから神落ちするのだと思うと怖気付いてしまって今に至る。


「はぁ、私が怖気付くなんて……情けないよ」


 カオリを助けた、これは後悔していない。

 だが、ヴィクトヘルムを創った私の妹達5神を残して神落ちするというのは……心苦しい。

 恐らく、他の世界を管理している神々から虐げられ、見下される事になると思う。

 それでも……カオリを放っておけなかった。


 カオリを見た時に、私は絶句した。

 天界を通り越して転生し、能力の行使する力が限りなく少なかったのだから。

 あのままでは、地球で死んで直ぐなのにヴィクトヘルムでも近い内に死んでしまう事になるのは明白だった。

 ……そんなの、この世界を創った私が許さない、この世界に送った転生者の幸せをサポートし、見守るのが仕事だから。


 私達姉妹が転生させた6名、魔界に1名、天界に1名、人界に4名居るが、今を一生懸命に生きている。

 幸せかどうかは本人の感じ方によるけど、私達神だけが見れる隠しステータスを見るにみんな幸福度が高い。

 カオリにはその中に加わり、この世界で幸せになって欲しかった。


「……いい加減行かないと」


 スピードを上げて天界から更に上空へと飛んでいくと、次元が歪み神の領域へ入ったのが分かる。

 戻って来た、今の私にとっては神の処刑場だけど。


「姉様!!」

「お姉ちゃん!」


 帰ってきた事に気付いた私の可愛い妹達が慌てて駆け寄って来て、背の小さい二ルムが抱き着いてきた。

 お姉ちゃんと呼んだ、身長の低いショートカットが二ルムで最年少。

 姉様と呼んだ、1番身長の高い凛々しい顔をしたのがカルムで、私に次ぐ年長者。

 静かでおっとりしたパッツンがイルム。

 元気で明るい、二ルムと似たショートカットなセルム。

 眼鏡を掛けた知的なロング髪がトルム。

 私の可愛い妹達だ。


「お姉ちゃん……居なくなっちゃうの……?」

「うん、禁忌を犯したから」

「ですが姉様!あれは仕方ない事だ!姉様が向かわなければ、あの少女は……」

「そうかもしれない、だけど理由はどうであれ禁忌は禁忌……裁かれるのは免れないよ」

「そんな……ねぇさん……」


 ねぇさんと呼んだのはトルムだ。

 みんな心配してくれているのがよく分かる。

 口を開いていないけど、あの元気印なセルムですら不安そうな顔をしていた、イルムも同じような感じ。


「私は後悔してないよ、カオリに力を授けて担当であるレイナに託して来たから、あの子はもう大丈夫。私はフォルトゥナ様の所に行って裁きを受けてくるから……私が居なくてもみんななら大丈夫って信じてるよ、それじゃ……元気で」


 私は抱き着いているニルムを引き離し、フォルトゥナ様の待つ玉座の間へ向かって駆け出した。

 こうして急ぐように駆け出したのにも、姉としての想いがあった。

 妹達と長く居ると、踏ん切りが付かなくなりそうで……全員別れがつらくなる。

 何より妹達に更なる迷惑を掛けることになる、それは避けたかった。


「姉様……くっ……」

「「お姉ちゃん!」」

「姉ちゃん!」

「ねぇさん……」


 それぞれの私を呼ぶ声が聞こえた、ニルムが私を追いかけようとしたがカルムが制止させてくれた。


「……ダメだ、二ルム」

「離してお姉ちゃん!!」


 ニルムは手を伸ばすが……届くはずもない。


「ゔっ……うわぁぁぁぁぁん!!」


 カルムの腕の中で泣き崩れる二ルム、私には声と音で何が起きたのか、容易に分かってしまった。


「……ありがとう、カルム」


 振り返らずカルムに感謝を述べる、振り向くとお姉ちゃんの泣き顔を見られてしまうから。



 涙目の私は、玉座の間に入り跪く。


「……来ましたか、ミルム」


 6神の1番年長で力を持つ私でも身体が固まってしまう程、神の覇気を放つ最高神フォルトゥナ様。


「っ!……はい、フォルトゥナ様」

「貴方、人界へ行き、あの少女を助けましたね?」


 この御方に嘘は通じない、全て見通してなお質問してくる、その理由は嘘をつく者神の資格なしで裁かれるから。


「……はい」

「何故、あの少女を助けたのです?」

「私は、彼女を見殺しにしたくありませんでした」

「……禁忌を犯してでも、ですか?」


 フォルトゥナ様の鋭い眼圧に、私は再度身体が固まってしまう。


「っ……はい。ヴィクトヘルムは私達姉妹が作った大事な世界です。彼女がイレギュラーとして転生してしまったとしても、この世界に来てくれた私達のなんです……見捨てるなんて出来ません!!」


 私達は、ヴィクトヘルムに転生させた子達は我が子のように大事にすると決めている。

 だからこそ、転生する際のサポートはしっかり行って、良い転生ライフを願って送り出す……これは私達姉妹独自に作ったルールで全員万丈一致で決めた事。


「……そうですか」


 フォルトゥナはそう言いながら手を前に突き出すと、強い光を放ってきた。

 1度だけアレを見たことがある、『断罪の極光』だ……あれを浴びると今までの功績や罪に応じて断罪される。


「……っ」


 私は極光に包まれた、私はどうなるんだろうか……

 過去に罪を犯した神は記憶を消されるのは共通として、酷い場合娼婦で働くサキュバス落ちになったり、魔物転生させられたり、軽い罪ならば天使落ちや人間落ち等されている。

 人間落ちだったら記憶は消されても、もしかしたらカオリやレイナと会えるかもしれない……



 暫く目をつぶったままだったが、変化がないように感じた。

 記憶は……ある、神の力も……ある?

 私は変だと感じて目を開く、目の前にはフォルトゥナ様が居る……私の身体も変化がない。


「え、こ……これは、一体……?」


 断罪されていない……?

 いや、でも断罪の極光は受けたはず……


「これから貴方に刑罰を与えます」

「っ……はい」


 どうやら断罪の極光を使ったようにみせかけて、フォルトゥナ様が直々に罰を与えて下さるみたいだ。

 前例のない断罪……一体何を言われるのだろう。


「今まで通り担当の見守りをすると共に、イレギュラー転生した少女を人界に降りて見守り、サポートしなさい」

「……えっ!?」


 どういう、事だろう?

 それじゃ刑罰にならない、私達の今までと変わらない気が……

 それに人界に降りて見守るって……!?


「私からの罰は、これで終わりです。ミルムを神落ちなんてさせませんよ」


 目の前に居たフォルトゥナ様の表情が急に柔らかくなった。


「え、えっ!?な、何故ですか!?私は禁忌を……」

「……私は感謝しているのです。あの少女を助けるにも、私は動けませんから」


 フォルトゥナ様は最高神、どの世界にも直接手出しは出来ない存在。

 そして、最高神として決めたルールは自分で破る事が出来ない。


「神の担当は1人ずつですが、ミルムは2人担当になってもらいます。しかしルールは破れないので、こうして神の領域から見守れるのは各神1人ずつなのは変わりません」


 担当を見守るのは、神力と呼ばれる力を使って担当が見える範囲から見守っているのだが、これが1人を対象にしか出来ない。


「なので、先程の断罪の極光に見せ掛けた魔法で、ミルムにもう1人の自分を作り出す力を授けました」

「自分を……作り出す力?」

「はい、形を問わず自分の分身体を作り出せます。極端な話精霊でも、虫でも、自分自身でも構いません、この力であの少女をサポートしてあげてください」

「……カオリに接触するのは、禁止ですか?」

「まぁ……許しましょう、彼女には辛い思いをさせましたから」

「ありがとうございます、フォルトゥナ様」


 私は跪きながら頭を下げる。


「でも、禁忌を犯した事実は変わりません……このままミルムを解放すれば、周りの神に示しがつきません」

「それは……そうですね」

「なので、暫く私特製の牢という名の別荘に暫く入ってもらいます。そこで辛い刑罰を受けている事にして他の神々を納得させれる刑罰映像を作り出しておきます、その映像の為の覇気だったんですよ最初のは。あ、実際には罰は与えないですし、不便させませんから御安心なさい」

「最初から計算されておられたのですね……ご配慮、ありがとうございます。……それなら、その間の見守りはどうすれば宜しいですか?」

「別荘で継続してもらいます、同時にあの少女も」

「かしこまりました、ありがとうございます……フォルトゥナ様」

「ええ。分身体の作り方も記憶に埋め込んでいますから、記憶を頼りにして使ってください。では……別荘に送ります、ほとぼりが冷めたら迎えに来ますね」


 パチン!


 フォルトゥナ様が指を鳴らすと、身体が転移する感じがした。

 一瞬だけ目を閉じてしまったが、視界が開けると目の前にお屋敷があり、そこには天使の羽を生やしたメイドの姿があった、天使族だ。


「いらっしゃいませ、ミルム様」

「ここが……フォルトゥナ様の別荘?」

「はい、フォルトゥナ様は人がお好きなので、人と同じような暮らしが出来るようにと作られたのが、このお屋敷です」


 貴族が暮らすようなお屋敷、しかしそれほど大きくはない。

 でも、近くにはプールがあったり庭があったりで、建物以外は別荘感がある。


「ミルム様の身の回りは、このわたくしミリアーナがお世話致しますので、よろしくお願い致します」

「よ、よろしく」


 私はミリアーナに屋敷の案内され、フォルトゥナ様から聞いた話を更に詳しく聞いた。


 フォルトゥナ様の作り出した誰にも見破れない映像で、酷い刑罰を受ける私の姿を神全員に見せて納得させる。

 そして、罰を受けて生まれ変わった風に装って帰る流れらしい。

 そして分身体作り方は記憶に入れてくれているが、扱い方は記憶にないのでミリアーナが指導してくれるそうだ。


 私は見守り画面を開いてレイナの様子を伺うと、丁度冒険者ギルドに入る所だった。

 良かった、カオリも一緒にいる……ちゃんと街に着いたみたいだ。

 ソルと手を繋いで受付嬢と話をしている、あの人は……そうか、レイナの事情を知る人だったか?なるほど、カオリを守る為にそうしたのか、さすがは私の担当だ。

 こうして見守りつつ、私は分身体を作って扱う特訓をするのだった。



 ーーーーーー



「ふぅ……」


 ミルムを送り出した後、すぐさま刑罰映像を作り出して神々の脳内に送り込む。

 私の配下に連れられ、牢屋に入れられて手足を鎖で拘束される場面、そして死なない程度の壮絶に苦しいであろう天罰の数々を下される映像を流した。

 私は神々の反応を見る、これまでにしたことが無い刑罰な為に反応は様々だったが、多くは「こんな目にはあいたくない」というかのような顔だった。

 一部は禁忌なぞ破るからだと軽蔑していたのを見ている、だからこれを流す必要があった。

 しかし、ミルムの姉妹にはこれは流していない、今から口頭で状況を伝えに行く。


 各世界一つ一つブロック分けされた大きな部屋になっており、その世界に他の神は入れないのでその世界の管理室から出ない限り他の神に会うことは無い。

 なので、必要ない限り管理室から出ないように言っておく必要がある、管理室だけでも充分に暮らせるので問題ない。

 私はヴィクトヘルムの管理室に入った。


「っ!?フォ、フォルトゥナ様!!!」


 カルムがこちらの存在に気付き、姉妹5人は即座に跪く。


「かしこまる必要はない、貴方達の姉であるミルムについて話があります」

「あ、姉様は!?ミルム姉様はどうなったのですか!?」


 カルムは跪きながらも、姉の心配をしていた。

 ミルムの処置とこれからの話をこの場にいる全員に周知させる、そして管理室から出ない事も添えて。


「よ、良かった……無事だった……」


 5人は姉が無事だと知り、全員涙を流しながら頭を下げた。


「フォルトゥナ様、寛大な処置に感謝致します!ありがとうございます!!」

「「「「ありがとうございます!!」」」」

「こちらとしても少女は心配でしたから、ミルムはよくやってくれたと思います。逆に私が感謝せねばなりません、ありがとうございました」


 ニコッと笑い、圧力を掛けないように気を付けながらお礼を言う。


「姉様なら……当然です、自慢の姉様ですから」

「ふふ、そうですね」


 チラッと皆が見ていた見守り画面が目に入る。

 みんな生き生きとしている、ステータスを見ても幸福度が高い。

 少し、覗いてみるとしましょう。


「少し見守りを覗かせて頂いても?」

「勿論です!」


 全員の見守り画面を、最高神権限で全て近くに表示させる。

 やはり気になるのはミルムが担当していたレイナと、一緒に居るであろうカオリ。

 レイナの見守り画面からカオリの姿を発見、どうやら冒険者ギルドに居るようだが、カオリが祈りを捧げているみたいだ。


「なるほど……ミルムの無事をお祈りですか」


 最高神にかかれば、この少女が何を想い祈っているかくらいすぐに分かる。


「この少女だって大変な思いをした筈、だというのに姉様の事を……」


 カルム達5神からすれば、ミルムを奪っていった原因の1人なのだが、誰1人カオリを責めたりしない。

 どうやらミルムのように助けたかった想いの方が強いのだろう、ヴィクトヘルムを管理する6神はそういう者達だ。


「……」


 密かに未来予知を発動、カオリの未来を覗き見る。

 彼女の未来にやる事に先手を打ち、ミルムだけじゃなく5神や担当にもサポートさせる……そう決めた。


「なるほど……その力を使い配達ですか、ならば」


 私はサポート方針を決めて5神に命令を下す。


「カルム、イルム、セルム、トルム、二ルム!貴方達に命令を下します。神託にて各担当へ伝えてください!カオリという転生者が現れたら、助けになるようにと!!各担当以外への情報漏洩は禁じます!」

「「「「「承知致しました!」」」」」


 すぐさま各担当が居る協会に神託を送り出す、内容は〇〇(自分の担当の名)を協会に連れてくる事。

 そして、協会に来た自分の担当へカオリの容姿や雷能力の情報、そしてカオリに起きた出来事と事情を添えて協力するように神託を授けた。

 魔界には協会は存在しないので、天界から派遣中の天使へと通達し、担当の元へ送り出す。

 結論から言えば、さすがはヴィクトヘルムの6神とその転生者達、全員が喜んで協力すると返答。

 こうして、全転生者6名+6神のカオリサポートシステムの構築を作り上げた。


「私が出来るのはここまで、後は貴方の頑張り次第です」

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