第8話 トリスター王国、王都トリスタ
目を覚ますと、テントの外が少しだけ明るくなっていた。
「んっ、朝か……」
寝袋から出て、身体を起こして伸びをする、夜中に起きる事もなくてぐっすりだった。
「やっぱり疲れてたのかな、私」
でも、幸いにも筋肉痛にはなってないみたい。
昔から運動したり、遠出したりしていたからかな?結構アウトドア派で体力には自身があるんだよね。
隣を見ると寝袋は片付けられて無くなっていた。
私も寝袋を片付け、アイテム袋へすぐに入れられるように隅に置いてからテントを出ると、2人は朝食の準備でスープを作っていた。
「おはようございますレイナさん、ソルさん」
「あら、おはよう」
「おはよう、早いな。まだ日が出たばかりだから寝ていても良かったんだぞ?」
2人は見張りがあったにも関わらず元気そうだった、さすが冒険者……慣れてるんだね。
「いえ、もう目が覚めちゃいましたから、何か手伝える事ありますか?」
「んーそうだな、ならテントたたむのを手伝って貰えるか?ソルはスープを頼む」
「分かりました!」
「了解」
テントの中にある物をレイナさんがアイテム袋に入れていくんだけど、私が片付けた寝袋をこちらに手渡してきた。
「カオリ、念の為持っておくといい」
「えっ?いいんですか?」
「あぁ、使う予定がないとはいえ万が一の備えも必要だからな」
寝る前も心構えがって言ってた、確かに備えあれば憂いなし……だよね。
有難く貰っておこう!
「ありがとうございます!」
ポーチに寝袋を入れて、レイナの指示通りにテントをたたんで片付けていく。
朝食として、2人が作ってくれていた野菜入りスープと、数日は持つという固いパンを戴いた。
「あむっ、んんんっ!?」
パンを齧ったんだけど、かったくて噛みきれないの!!!
この固さはフランスパンも真っ青だよ!!
齧って唾液が付いたパンを口から出すのってはしたなくて恥ずかしいから、何とか噛みちぎろうと頑張る。
「はははっ!そのままじゃ固いだろう?このパンはスープに浸けて柔らかくしてから食べるんだ」
「んももんっももーっ!(先に言ってよーっ!)」
「カオリ、なんて言ってるのか分かんないわよ?ふふっ」
「んももーっ!!!」
「あははは!」
2人が仕掛けた固いパンという罠に引っ掛かってしまったものの、ちゃんとスープに浸けて食べると噛めるようになった、野菜スープも寝起きに優しくあっさりで美味しかった。
そんな騒がしい朝食も終わり、荷物の最終確認をしてから焚火を消火、再び森の中を歩き出す。
レイナを先頭に歩いてる最中、ふと気になった事をソルに聞いてみた。
「ソルさん、夜中に魔物とか来なかったんですか?」
「来なかったわ。森の中に住む弱い魔物は基本的に火を嫌うのよ。強い魔物だったり、火に強い魔物ならその限りではないけど、魔物の少ないこの付近には居ないから襲われなかっただけよ。見張りは念の為にね」
「なるほど……」
野営知識が私に必要になるかは分からないけど、この世界の有用な情報はしっかりと集めておこう。
スキルのお陰でいくらでも覚えられるからね!
早朝より歩き出してから暫く経ち、お日様も少し昇ってきた頃。
「カオリ、この先が森の出口だぞ!」
「ほんと!?」
ようやく森を抜けられると、私は駆け足で森の出口へと駆けていく、つられてレイナとソルも小走りで私に付いてきてくれる。
森から抜け出してその先を見ると、大きい城壁に囲まれた国の姿が見えた。
「うわぁ、おっきい!」
遠目からでも分かる凄く高く見える城壁、そしてその高さからでも見える大きな城に目を奪われる。
「あれが王都トリスタだ」
「これが……!」
異世界に来て初めての街、王都トリスタ。
アニメとか漫画でしか見られないような景色を目の前にして、私は感動した。
見渡すと、王都トリスタの城門から人が出入りしていくのが見える。
そして、そこから隣町へ行けると思われる砂利道が遠くまで伸びているのも見える。
「遠視!」
遠視で城を覗いてみると、重厚な鎧を着た兵士やメイドさんが窓から見える、倍率調整が可能なのも確認出来た。
「すっごい……」
「私も初めてこの景色を見た時、カオリのように目を奪われたよ。こんな景色なんぞ向こうにはないからな」
「そうなの?私は逆に、カオリやレイナが元々居た世界が気になるわね」
「見せられるなら見せてやりたいが、もう向こうには帰れないだろうからな」
「残念ね」
私やレイナが異世界の景色に感動するように、ソルに私達の世界の景色を見せたら感動してくれるかな?
私やレイナが見てきたあの世界の景色を再現や復元出来る何かがあれば……あ。
「そうだ、もしかしたら見せられるかもしれません!」
「本当!?」
「はい、これが生き返れば!」
私はポーチからスマホを取り出した。
「す、スマホじゃないか!」
「すまほ?」
凄く驚いた顔をしているレイナ、5年ぶりだもんね。
そしてソルは初めて見るスマホに興味があるようで、近くで見たりクンクンしてくる、動物みたいで可愛い……!
「はいスマホです!今は充電切れなんで、どうにか充電出来れば私が旅行に行った時の写真とかが残ってるはずです!」
「おお、ならば充電方法を考えねばな」
「ですね、でもそれは家に着いてからにしましょう!」
「だな」
そんな会話を交わしつつ、私達は城門に向かって歩き始めた。
城門の入口に到着してレイナを先頭に歩いていると、近くに居た兵士がこちらに近寄って来た。
『迷子設定で一芝居打つから、合わせて貰えると助かる』
レイナから小さな声でコールが来たので、私は小さく頷いた。
「レイナさんにソルさん、お疲れ様です」
門番の兵士がレイナとソルに敬礼をした。
「あぁお疲れさん」
「お疲れー」
レイナとソルは顔をよく知られてるみたい、この国を縄張りにしているAランク冒険者だから有名なのかな?
「失礼ですが、この子は?」
「森の中で1人迷子になっている所を私達が保護した、以前の記憶がないらしく……恐らく捨て子か、何かに襲われて記憶が飛んだのだろう」
なるほど、記憶がない事にしたのか。
確かに、必要以上の質問をされないようにと考えるならそれが1番だね。
「なるほど、そうでしたか……君、大丈夫かい?」
兵士がこちらに近付き、目線を合わせて声を掛けられた。
「あ、はい。大丈夫です」
咄嗟にソルの手を握る、ソルもぎゅっと手を握り返してくれた。
そう返事すると、兵士はニコっと笑みを浮かべてからレイナとの会話に戻った。
「きちんと受け答えは出来るみたいですね、安心しました」
「うむ、保護して森にいる間で私達に懐いてしまってな、身元が分かるまで暫く私達が預かろうと思う。身分証も無いらしいからすぐに作りにいくつもりだ」
「分かりました、それなら……この装備を付けてあげてください、僕からだと怖がられそうなんで」
「分かった」
兵士からレイナが受け取ったのはバングル装備だった。
あれが昨日言ってた装備だね、位置が分かるってやつ。
レイナはその装備を私の腕に装着してくれた。
「レイナさんとソルさんなら私としても安心してお任せ出来ます、もしお2人が遠出する際は孤児院を使えるようにしておきましょうか?」
「いや、家に1人使用人がいるから大丈夫だ」
「あぁあのお方ですね、わかりました。でも一応声だけは掛けておきますね」
「わかった」
ソルが言っていた、国王や騎士団が優秀で国民から慕われていて治安が良いと言うのは本当らしい。
国を守る門番がきちんとしているからね、こういう所に気を配れる兵士を持っているってことは、上司にあたる人の中にも優秀な人がいるんだろうなぁ。
「よし、それじゃ行くか」
「はい」
特に質問等もなく、あっさりと門を通してくれた。
2人に連れられて、王都トリスタへと初めて足を踏み入れる。
「わぁぁ!」
目の前に広がる街並みは、ヨーロッパを連想させるかのような建物が並び、道の奥の方に小さく噴水が見える。
感想を言うならば、すっごく綺麗!!
道行く人を見ると、普通の人だけじゃなくソルのような獣人も多数見受けられる。
人と獣人の差別は無さそうな世界かな?レイナとソルを見ていて気付いてはいたけどね。
「こうして見ると普通の子供だよな」
「そうね、こんなに目をキラキラさせて見てるんだもの、時間作ってゆっくり案内してあげましょうか」
「そうだな」
私達は早速冒険者ギルドへとやって来た。
日本でいう役所のような少し大きめの建物で、中に入ると冒険者達で賑わっていた。
壁際のボードには紙が沢山貼られており、冒険者達がそれを見ていたり、紙を剥がして受付へと持っていくのが見える、多分あれが依頼かな?
「おい、レイナさんだ」
「本当だ!いつ見ても凛々しいお姿だ!」
「ソル様、今日も美しいわぁ……」
「ソルさんと手を繋いでるあの子は誰だ?」
「手を繋ぐなんて羨ましいぜぇぇぇ!!」
「あっ、あの小さい子も可愛いわぁ……」
周りの冒険者達が急に騒ぎ出す、やっぱり2人は有名な人みたいだね。
ソルと手を繋いでいるからか私も少し注目されてる、ちょっと恥ずかしい……
「カオリ、行くわよ」
「あ、はい!」
ソルに連れられ、レイナさんと3人で受付へ。
いくつか空いている窓口があったのに、何故か1番遠くの窓口へと向かっていた。
「2人共おかえりなさい!」
「ただいまセイラ、帰ったよ」
迎えてくれたのは眼鏡が似合う清楚な感じのお姉さん、名前はセイラって言うらしい。
「ただいまー、ねぇアイツら黙らせてくれない?」
「あはは……有名人なんですから諦めてくださいな。それで……その子は?見た事ない子だと思いますけど」
受付口からグイッと身を乗り出して私を見てくるが、そんなセイラにレイナは耳打ちをした。
「すまん訳ありなんだ、私と同じだ」
「!」
セイラが反応して再び私を見る。
「……本当ですか?」
「あぁ、昨日こちらに来たらしくてな、セイラにも色々話すこともあるから空き室を頼めるか?」
「分かりました。んっと、空き部屋は……ありますね、行きましょう」
耳打ちなので会話自体は聞こえないが、コールでレイナの声は伝わっているのでどうして空き室に行くのかは分かってる、多分転生者だと周りにバレないようにだろうね。
そして受付嬢のセイラさんは、転生者であるレイナの事情も知っているって感じかな。
私達はセイラさんに連れられて、個室へと案内された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます