水滴と文字の部屋。蒼。

神影と高校生になった僕

水滴

 誰かに呼ばれた気がして振り返る。誰もいない。

 小降りの雨。

 空に灰色を零した。

 透明なビニル傘に水滴ばかり。

 田んぼ。茅葺き屋根と、濁ったみどり。


 誰かに呼ばれた気がした。

 もう1回。もう1回振り返ってみよう。

 誰かに呼ばれた気がする。


 泣きたくなった。


 雨が降っている。

 透明な傘に水滴が、水滴が落ちてゆく。


 水滴とは何か。

 傘を閉じる。


 ああ、


 もう少し素直に

 愛せば良かった。


 傘を閉じると、水滴が降っていた。

 傘を閉じても、雨が降っていた。


 ふりかえる。後ろ向き。何が?


 そこにはもう、誰もいなかった。

 雨はもうやみません。


 「ごめんなさい。」

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