1

通達:本日より五日後。地球は現在行なっている全活動を停止、終了することが決定しました。

人類の皆様につきましても、地球と同じく現在行なっている生命活動含む全ての活動を停止する事が決定しました。


繰り返します。


本日より五日後。地球は現在行なっている全活動を停止、終了することが決定しました。

人類の皆様につきましても、地球と同じく現在行なっている生命活動含む全ての活動を停止する事が決定しました…。



合成音声のような無機質な声が脳内に響く。

それが告げる内容は酷く非現実で、"俺"はこれが夢なのだと悟った。



重い瞼を開くと、そこには見慣れた自室の天井があった。



(随分と変な夢だったな…)



寝起きでろくに働かない頭を抱えながら俺は起きがる。

そしていつものように服を着替え、朝食を食べ、通勤していく。




いつもと何一つ変わらない日常。

平穏で。静謐で。どこまでも平凡で。

それらはいっそ退屈にすら思える程だった。





それなのに、そのはずなのに。

心のどこかに漠然とした不安を感じてしまうのは。




…きっと、今朝の夢の所為なのだろう。





「あ、いたいた!先輩!」



午前中の仕事が終わり、昼休憩に入って暫く経った頃。俺は、後輩に呼び止められていた。



「先輩、今朝変な夢とか見ませんでした!?」


「世界が終わるって内容の音声が聞こえてくるってやつです!!」




突然の問いに俺は驚いた。


一体何故、後輩が夢の事を知っている?



「今ネットですっごい事になってますよ!」


「なんでも世界中みんなおんなじ夢を見たんですって!!」



これはきっと世界滅亡の危機だのと興奮気味に話す後輩。

だが、そんな事が起こり得るはずはない。


世界が終わる?


そんな非現実的な事、起こるわけがない。


だって、俺は今生きている。

俺も。後輩も。それ以外の奴らも、生きているんだ。


それなのにある日突然世界が終わって?

全人類が死ぬ?

そんな、まるでゲームのデータでも消去するみたいに簡単に終わるのか?




ありえない。


ありえない。


そんな事が、有り得ていい筈はない。



「…馬鹿馬鹿しい。どうせただのデマだろ。」


「えー、じゃあ先輩は夢見なかったんですかぁ?」


「俺はそんな夢は見ていない」



きっと朝見たと思っていた夢は、実は見ていなかったんだ。

きっとスマホを開いた時に見たか通勤中に他の奴が話してるのを聞いて"自分も夢を見た"と錯覚したんだ。


ああ、そうだ。そうに違いない。


全く馬鹿馬鹿しい。


そんなありえない事を考えるだなんて、時間の無駄だった。

時間は有限なのだから、無駄遣いは以ての外だというのに。



「ほら。もう休憩終わるんだから午後の仕事に戻るぞ」



不満げに口を尖らせる後輩を横目に、俺は午後の仕事に取り掛かる。


胸の奥に残る僅かな不安を掻き消すように。

俺は仕事に打ち込んでいくのだった。








仮想現実世界"地球"。終了まで残り四日。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る