プール

「この間、夫がすごい体験をしたの!」

Eさんが興奮気味に話してくれた。

水泳を長くやっていたEさんの夫は、最近T市にできた大規模ジムでリフレッシュすることにハマっている。

「休みの日とか一緒に行くんだけど、放っておくと一日中いるのよ」

特にプールが大好きで何時間も泳ぎ続けているという。

「学生時代には大会にも出るレベルだったらしくって、久しぶりにマスターズを目指そうと思い始めてたみたい」

ある日、Eさんの夫は仕事終わりに練習がてらジムに向かったそうだ。

「フォームが上手く掴めなくて悩んでたのよ」

平日で夜のせいか人はまばらどころか皆無で、貸切状態でプールを利用していた。

ふと、隣のコースにいつの間にか男性がいることに気づいた。

男性の泳ぎを何気なく見やると、美しいフォームですごいスピードで泳いでいる。

プロの方かな?と思いながらせっせと練習していたが、どうも体が上手く動かない。

「あの」

隣の男性が話しかけてきた。

帽子を脱いで直している、結構なロン毛だった。

「右の手に変な力が入っちゃってますよ」

普段ならあまり相手にしたくないのだが、男性の泳ぎをみていたEさんの夫は素直に話を聞いた。

あっという間にフォームのコツを掴んだEさんの夫は、ロン毛の男性にお礼を言おうとしたがいなくなってた。

「ロン毛で肌が緑っぽかったんだって。河童よね!」

現在、Eさんの夫は念願叶ってマスターズ水泳選手権に出られたそうだ。


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