第9話 土と潜伏期間

 彼の体内のその生物は、徐々に成長しているようでした。彼の顔や体に、とても細かく生えた緑色の苔のようなものが伸びてきました。よく見なければ、少し無精ひげが生えたくらいにしか見えません。


 私も彼も、頭の中でグルグルと、答えの出ない考えを繰り返しながら、消耗し、無言の時間を過ごしていました。満足に眠る事すらできませんでした。


 そんな時に、ある出来事がありました。


 ある日、私がトイレに立ったときに、私はよろめいて、観葉植物の植木鉢につまずいて倒してしまい床に土が散らばりました。放っておくわけにもいかず、土を集めようとした時、彼が手伝ってくれたのです。


 しかし、彼が土に触ると、あの忌まわしい植物の枝とも根ともつかないものが、少しだけ手から顔を出したのです。


 私たちは、わけがわかりませんでした。しかし、怯えているだけでは、何も進みません。彼と、このことについて話し合い、何回か、試してみました。土に何度も触れてみたのです。


 私が土に手を触れても何も起りませんでした。彼が土に触ると、その生物は反応しました。その生物は土を求めているのではないか。


 この生物は、動物だけじゃなくて、土にも反応して触手を伸ばそうとする。それがはっきりしました。


 私たちは、ぞっとしました。この生物が、土に触れ、大地で広がったら、どんなことになるんだろうか、と。

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