第2話
無限に広がる青空と雲の海。そこに浮かぶ広大な空飛ぶ大地『ヤマト』。その上で彼らは生活を営んでいた。
1つ変わった点があるとするなら彼らの背には立派な翼が生えていることだった。
ぎし・・・ギシ・・・ぎし・・・・ギシ
「ねぇねぇ、昨日のテレビ観た?」
「観た観た!流石『青翼』様!かっこいいよね」
ぎし・・・ギシ・・・ぎし・・・ギシ
「俺は『黒翼』様のチームに入れてもらうんだ!」
「マジか~」
さんさんと照りつける陽射しの中を大人、あるいは子ども、学生服を着た学生、鎧に身を包んだ兵士、無骨な風体の冒険者・・・とにかく様々な年齢や職業の人々が歩いたり走ったり、あるいはその背中にある煌めく翼を羽ばたかせ宙を舞ったりしている。
ギシ・・・キィ・・・キィ・・・・
「・・・はぁ」
そう、この世界の人々は皆一様に翼を持って産まれる。色や形、数も異なるその翼には共通してある能力が宿る。
1つは魔力と呼ばれる力。熱や水、土に風、雷や氷など様々なエネルギーに変換することができ、近年は失われた過去の技術でもある通信技術への応用も可能となった。
2つ目は飛行能力。あきらかに身体との比率が合っていない構造上飛ぶことが不可能な翼だが、空気中の魔力を翼で掴むことで飛行が可能となる。
その他は翼の色や形大きさ数によって異なる。色はその人の得意とする属性を表し、大きさや数が多い程強い力が出せる。翼の形状はそのまま飛行性能に出る。
「・・・・・いいなぁ」
少年とも青年とも見える大人と子どもの中間の顔立ち。憂いの表情を浮かべる彼の口からそんな言葉が漏れる。彼の背中にも翼はある。折り畳んでいる状態でも背中を覆うほどに大きい翼が。
ガツッ!
「っ!?」
不意にどこからか拳大の岩が飛んできて彼の頭に当たる。急な出来事に道行く人はどよめくが、皆彼を見るなりそそくさと立ち去っていく。
しかし、ある一団のみ逆に彼に近づいて行く。岩をぶつけてきた連中だ。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、その中のリーダー格の大柄な男が彼に詰め寄る。
「相変わらずギシギシうるせぇし鉄くせぇなぁ『錆色』ぉ!」
「またお前かマイト。他の人に当たったらどうする」
『錆色』と呼ばれた少年は、頭から一筋の血を流しながらも岩をぶつけた張本人であるマイトをにらみつける。
「うるせぇ!チョーシこいてんじゃねぇよ!『錆色』のクセによお!」
ドンっと肩を押されるがビクともせず、マイトをただにらみつける。
「なんだよ?軽いな、図体だけの風船デブが。俺の翼が『錆色』なら、お前の茶翼は『うんこ色』だな」
ハッと嘲笑う少年の態度と言葉についにマイトがキレた。
「死ねや『化け物』!」
一足飛びに取り巻きと一緒に少年から距離を取り、各々の翼に魔力を漲らせ、一斉に放つ。
彼等の翼は赤、水色、茶色、緑色であり、それぞれが得意とする魔法を少年に対する悪意と共に放つ。
指向性を持った炎、冷気、石礫、空気砲が一斉に少年に襲いかかる。
少年は避けもせずそれらを浴びて吹き飛ばされ、民家の壁に激突する。
「ははっ、死んだか?」
「おいおいやりすぎw」
「ダウンハメやっとく?」
「ヤバ!(笑)」
ぎゃはぎゃはと笑う少年達。年頃は『錆色』の少年と同じくらいで皆制服を着崩していた。彼らはこの街にある学校の1つである『白翼学園』の生徒達であった。過去形なのは今日が卒業式で今はその帰りだからである。
「じゃあな退学野郎!こっちは文官に内定してて忙しいんだよ」
「プー太郎に内定おめw」
「ホームレスか底辺冒険者辺りだろ?」
「魔物だってあんなの喰わねぇよ!」
不良少年達が立ち去って行く。『錆色』の少年はかつて彼らと同じ学校に通っていたのだが、とある事情で1年程前に退学している。
「・・・はぁ。ったく、生身の人間に当てていい魔法じゃねえよ。あんなのが文官になれるなんて世も末だな・・・イテテ」
頭部から血を流し、全身に細かい擦り傷や火傷を負いながらも少年は立ち上がり、歩き出す。
きぃ・・ キィ・・・キィ・・・
かなりの惨状だが誰も声をかけたり助けようとはしない。誰もが距離を取り、見て見ぬふりをする。
ヒソヒソ
「またあの子よ」
「例の『錆色』の」
「可哀想にな、あんな翼で産まれたばかりに親にも捨てられたってな」
「ああはなりたくないよね。なったら自殺するわ」
好奇、憐憫、嘲笑、あらゆる視線を浴びながら少年は前へと進む。この国では翼の形や色による『翼差別』を法律で禁じてはいるものの、この少年に関しては全くと言っていいほど適応されていない。なぜなら彼、ラストの翼は誰のものとも異なる異色にして異例の
錆びた金属質の翼だから。
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