美人な幼馴染に振られてしまったけど、もう一人の可愛い幼馴染は俺に優しいです!

 それから数か月が経ち、俺たちは二人で遊ぶ機会が増えていた。昔のように楽しく遊んでいる中で、昔と少し違うと感じているのは、俺は確実に愛実のことを異性として気にしている事だった。


 もうそろそろ告白しようか? そう思い始めていたある日の事、愛実から話したいことがあるとメールが届き、待ち合わせ場所の公園へと向かった。


 この公園に居ると嫌でも美香に振られた事を思い出してしまう。──愛実のやつ、話してなんだろ? ソワソワしながら公園の入り口を見ていると、愛実らしき人が公園に入ってくる。


「お待たせぇ」


 愛実は制服姿だけど眼鏡を外していて、バッチリとお化粧をしていて、まるで別人みたいに可愛かった。それに──。


「どう? いつもと違って可愛いでしょ?」

「あ、うん」


 愛実はニッコリと笑うと「実は今日、ここで告白するんです」とサラッと言った。


「え!? ちょっ、ここで!?」

「うん。だから先輩には見届けて欲しいの」

「見届けて欲しいって……俺、邪魔じゃねぇ?」

「邪魔じゃない」

「そうは言っても……」


 もうすでにメンタルはボロボロだ。確かにこんなに可愛い子が相手にされない訳はない。まさか同じ公園で二度も失恋を味わうことになるとは……。しかもそれを生で見ろって? 嫌だよ。


「ねぇ、俺はこっそり見守ってるじゃダメ?」

「ダーメ。ここに居てください」


 作戦失敗……あぁ、どんな奴が来るんだろ。来るなら早く来いよ。


「先輩、ごめんなさい。もう少し待っててくださいね」

「はい」


 ゲッ……数分待っていると、たまたまなのか公園の入り口から美香が入ってくる。


「お姉ちゃん、遅いよ!」

「うるさいわね。それより用事って何なのよ? 早く帰って宿題したいんだけど」

「そんな急かさないでよ。ようやくメンバーが揃ったんだから」


 え? メンバーが揃った? 男は俺だけじゃん。ってことは美香に何か告白するから聞いていろって事か?


「まず先輩」

「は、はい!」

「私の正面に立ってください」

「あ、はい」


 何だか緊張して敬語になってしまう。これから何が始まるんだ? そう思っていると、さっきまで強張っていた愛実の表情が、ふと穏やかな表情へと変わる。


「先輩」

「はい」

「私、先輩のことが小さい頃からずっと好きでした。だから先輩が望むなら、姉のような姿にもなります。なので、お付き合いしてください」


 愛実はそう言って目を瞑り、右手を差し出してくる。驚きのあまり声が出ない。まさかこんな展開になるなんて──。

 だからか、今日の姿を見た時に美香にちょっと似てると思ったのは……。あれだけ嫌い嫌いと言っていた姉にもなるという所が真剣さを感じる。だけどそれって──。


「実は俺も告白しようと思っていた。だから、喜んで」と、愛実の手を握る。愛実はパッと目を開け、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。


「でも」

「でも?」

「無理して合わせなくていいよ。ありのままでお互い過ごしていても、一緒に居たい。そう思えるような関係になりたいんだ」

「先輩……ありがとう」

「何これ、こんなの見せつけるために私をここに呼んだの?」


 美香は明らかに嫌そうな表情を浮かべ、そう言った。愛実は美香の方を向くと「えぇ、そうよ。お姉ちゃんにもう後戻りが出来ない事を知ってもらうためと、私を選んで良かったと先輩に思ってもらえるように、ここに呼んだの」


 美香の表情が変わり、切れ長の目で愛実を睨みつける。一体、愛実は何を話そうとしているのだろ?


「先輩。よく聞いていてくださいね」

「あ、うん」

「美香は昔から私に対してライバル心が強く、私が好きなものは先に手に入れなければ気が済まない性格で、私が先輩のことを好きなのを知ってから、美香は先輩の事が好きだと狙うようになってしまったんです」

「じゃあ……」


 美香が俺と付き合っていたのは愛実に対して嫌がらせをするため?


「うん、悲しい事ですが思っている通りです」

「なんて女だ……」


 俺は美香を睨みつけるが、あいつは視線を合わせようともしない。冷静な表情で「もういいでしょ。終わったことだし、こうして相思相愛になれたんだから。おめでとう」


 感情のこもっていないおめでとうが鼻につく。確かに終わったことだ。今さらどうこう言ったところで何か変わる訳じゃないが、何ともスッキリしない。


「お姉ちゃんも、おめでとう」

「え? 何?」

「お姉ちゃんも、うちの学校のカズヒロ君と付き合い始めたんでしょ?」


 おいおい、カズヒロって、あのカズヒロか?


「なんであなたがそれを知っているのよ?」

「何でって、そう仕向けたのは私だもん」

「何ですって? どういう事よ!?」

「だってお姉ちゃん。私があの人が好きっていうと、すぐに手を出すでしょ? だから先輩のためにも一芝居打ったのよ」

「俺のため?」

「そう。ファミレスでも話したけど私、美香と先輩のデートを見かけたの。最初はソッとしておこうと思ったけど、美香はあんな性格。ちょっと心配になっちゃって、様子をみていたの。そうしたらどう? 先輩がこき使われているだけで、全然楽しそうじゃなくて」


 そう言った愛実の腕はフルフルと震えていた。俺のために怒ってくれているんだ。


「先輩が幸せそうなら、何もせずにいようと思った。だけどあんな先輩を見たら何かしなくちゃと思った。だから私の部屋でわざと聞こえるような大きさでカズヒロ君が気になるのよねーっと電話するふりして美香に聞こえるように言ったのよ」

「それじゃ……」

「お察しの通り。私はカズヒロ君のことが好きではありません。ずっと先輩一筋です!」

「そんな……」

「お姉ちゃんに良い事を教えてあげるね。カズヒロ君ってうちの高校じゃ、相当の悪で粘着質な性格をしているの」

「え?」

「すぐに別れるって言ったら、どんな事されるんでしょうね」


 美香の顔がみるみる青ざめていく。ちょっとやり過ぎだと思うが、内心スッキリしている自分が居る。


「先輩、行こ!」

「あ、あぁ」と、返事をして歩き始める。


 チラッと後ろを振り返り、呆然と立ち尽くしている美香を見て、女って怖いなぁ……とつくづく思った。


「先輩」

「なに?」

「もう後戻りは出来ませんからね」


 まぁ確かに怖い所はある。だけど、さっきの会話の所々で愛実の俺への想いを感じられた。だから──俺は愛実の肩を抱き引き寄せる。


「そんな事しないよ」

「信じているからね」

「うん」


 俺たちは夕日に染まる通学路を、ゆっくりと楽しみながら家へと帰った。

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