第14話
一助と彩香の事が頭の中を駆け巡り、事件のことが考えられない。美紗は心配でどうすれば二人が上手くやれるのか、自分のベッドにゴロンとして天井を見上げていた。彩香ちゃんは自分の身内が一助の実の両親を殺害したとなれば、自分には一助と付き合う資格はないとか、親を殺害した身内と付き合えないだろうと一助の気持ちを考えて、身を引こうと考えたり、すんだろうなあ。一心さえ余計なことをしなければ、とも思ったりした。
思わず、うわ〜っと叫ぶ。
静が驚いてドアをノックして来る。
「ええか?はいりまっせ」
「何でもない、ちょっとむしゃくしゃしただけだ、心配しないで」
「そおかあ、一助と彩香ちゃんのこと考えてたんやおまへんか?」
「そお」
「ふふふ、あんたはんが考える事じゃあらしまへん。一助や、一助が彩香ちゃんをしっかり抱きしめていれば、問題なんかすぐ解決や。お前からも一助に言っちゃり、彩香ちゃんと離れたくなかったら、身内がどうのとか言わんと、確りしっ!てな」
「さすがだ、年の功だな」
ポカッと静に頭を叩かれる。それで、あっと気がつく。
「そうだ、過冷却機の製造元調べたら良いんだ。そして納入先を調べる。大体は大学とか研究室だと思うんだ。それ以外の納入先があったら、調べる。ね、静そう思わないか?」
「ん〜、そやなあ、それええ考えやわ。数馬連れて調べ」
「分かった、ありがとうお母さん」
「ええ、どないしたん。お母さんなんて滅多に聞いたことなんかあらしまへんのに?」
「へへへ」照れ笑いして、数馬を呼びに部屋を飛び出した。
美紗と数馬は冷凍庫の製造会社をあたった。過冷却製造機なるものはない事が分かった。冷凍庫か冷凍倉庫になる。冷凍車も該当しそうだ。冷凍庫や車には3メートル四方の以上ののもは無い。やはり、冷凍倉庫を2年以内に造ったか購入した先に絞って探し始めた。
また、水槽はそう大き物がない事が分かった。大きくなると、ガラスにしろアクリルになると、透明感が薄れることも分かった。それなりに良い素材を使わないと綺麗には写真が撮れない。
「美紗、容器に氷出来たら、逆さにして取り出してから写真撮ったんじゃないか?」
「ん〜、どうやって3メートルもある容器をひっくり返すんじゃ?それに、逆さにしただけで、出るか?氷がひっついてとれないんじゃないか?」
「容器を温めれば出せるんじゃ?」
「そしたら、冷凍倉庫にクレーン設備があって、冷凍機能のない場所が側にある、と言うのが探す条件か?」
「そうなるなあ〜それかリフトカーに載せて、冷凍倉庫から外へ出せれば良いんだ」
「それじゃあ、リフトカーに水槽載せたまま冷凍庫に入って、氷が出来たら外へ出るなら、クレーンはなくても良い」
「そうだな、水槽の台にリフトカーの先端が入るスペースがあってもいいな」
「数馬、色々パターンが有ると探すの大変じゃん。その位で先ずは始めようぜ」
「おう、了解」
2週間で対象先を洗い出した。冷凍倉庫の工事を受注した企業は200社以上あった。それと水槽や同様の体型のものを製作出来る会社が90社ほどあった。
次は2年以内に倉庫の発注先で水槽などを購入した先をマッチングする。
そしてその会社または個人を訪問して使われ方を確認する、という進め方を考えた。
受注企業が発注先を探偵に素直に教えてくれるはずはないので、そこは丘頭警部の力を借りる。警部はちょっと数が多いので、嫌そうな、面倒臭そうな顔色を見せていたが、協力すると約束してくれた。
後は待つだけ。
また、2週間待たされた。冷凍倉庫建築の発注先の一覧表と水槽の購入先の一覧表と別々の表でくれた。
美紗はしょうがないから、パソコンに全部打ち込んで、マッチングするのに3日も費やした。
結果、5社、1個人が該当した。
雨宮水産加工場(株)
利根先冷凍運輸(株)
飯田食飯(有)
(株)佐藤冷飯
社団法人浅草冷凍冷蔵研究所
健田洋一(けんだ・よういち)
美紗は浅草の研究所の名前を聞いたことがなかった。どこにあるのか何の研究なのか調べたいと思った。美紗は一心に報告した。そして6件を訪問して、身分を名乗り倉庫と水槽を見学させてもらうことにした。
冷凍冷蔵研究所以外はどこも業務用に使っていて、殺人などに使う余地は残されていない。複数の従業員が忙しく働いていて、夜も9時くらいまでは仕事をしているようだ。夜中でもトラックが着くと荷入れをするので、夜間でも利用するのは無理だ。
その先の写真を撮って証拠として残した。個人は尋ねると、実際は水産業の個人経営者で、水槽の中には魚が沢山泳いでいた。
研究所は浅草には見当たらない。
美紗と数馬に一心も加えて、販売先を訪ねた。名前と住所を再確認してもらったが、間違ってはいない。電話番号も同じだ。
届け先を訊くと取りにきたという。そう契約書にメモ書きされている。誰が渡したのか記載は無い。一心が金谷館長と遠辺野憲重の写真を見せたが記憶がないと答える。
契約書の係印を押している「山岸」という担当者を呼んでもらった。そして写真を見せたが良く覚えていなかった。引き渡しも自分だと思うといって、考えながら確か箱型の5トン位のトラックだったと自信なさげに教えてくれた。社名などは入っていなかったと思うと、これも自信はなさそうだ。
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