第73話✤マルドラの村の依頼1

 ちょっとした騒動もあったけれど、僕らは元気です。


 もうちょっとでマルドラの村に着くらしく、乗合馬車は最後の休憩場所に停車した。

 駐車場?っていうくらい簡素でちょっとした兵士用小屋と囲いがあるだけなんだけれど、1年前までなかった場所らしい。


「整備前の仮駐車場ですが、ちゃんと結界石は地中に埋めてあるんで大丈夫ですよ」


 とは御者さんの言葉。

 御者さんには先日の事も含めて一応お礼がてらにサンドイッチとスープを差し入れがてら、ここらへんの話を聞いてみたのだ。

 ちょっと探知系で探ってみれば、確かに結界石が埋め込んである。


「マルドラの村は中央道から逸れているのと、最近になって冒険者が利用するようになったのでちゃんとした駐車場になるのはもう半年先くらいですかね」

「そうなんだ。冒険者が増えた理由は?」

「マルドラの村近くに極小のダンジョンが出来たんですよ。小さいながらもDランク相当でボスがC~B手前くらいのビッグシャーフとジャイアントディアーの二匹なんです」

「へぇ。なら駆け出し終わった冒険者が資金を稼ぐには丁度いいねぇ」

「ええ。なので行路もちょっ迂回したルートを通ってます。元も行路がこうで、今はこう……」


 地図でいうとこんなかんじです、と御者さんは地図を広げて指でなぞってくれた。

 なるほど解りやすい。


「その分、半日ほどイシュラークの街には着くのが遅くなるんですが、早い方がいい人は特急馬車に乗っていきますんで」


 まぁねぇ。

 朝方着いていたのが昼~夕方になるからねぇ。

 僕らは余裕をもって旅をしているからそんなに気にならないけれど、急ぐ人はそもそも特急乗るか。


「マルドラに御用が?」

「ええ、冒険者ギルド絡みの依頼で」

「そうですか。ギルド併設の酒場のポテサラは辛味が利いてて美味しいですよ」


 と、そんな話をしてくれた。

 御者さんの娘さんが作ってるんだって。

 マルドラの村に嫁いで中々会えずじまいだったんだけど、運行ルートが変更になって月一くらいで会えるようになったんで嬉しいって言ってた。


 嫁……嫁かぁ……。

 メルトがお嫁さんに行くときは大変そうだよなぁ。

 聖なんて「俺を倒してからにしろ」とか言いそうだし。

 ……僕もいいそうだ。うん。絶対いうね。



 ◆◇◆◇◆



 さて、そこから3時間ほどでマルドラの村に着いたので、早速総合ギルドに向かうことにした。

 総合ギルドや各ギルドの規模は各国同規格で建築されていて、大中小特大の4種類がある。

 こういった村は小の二階建てで、人口によっては村長さんが総合ギルドのマスターも兼任してたり、二階部分に住んでいたりする。

 中(中二階付き)は町、大(三階建て+倉庫)は街、特大(四階建て+各専用倉庫あり)はもちろん各国本部、という具合だろう。

 受付の人も兼任だったり、商業だけは別だったりで雇用数によるみたい。

 ペトラさんが村長とギルマスにあてた手紙を二通渡してきたので、兼任ではないようだ。


「すみません、ドーラの街のギルドマスターのペトラさんから、ギルマス宛に手紙を預かっているんですが……。あ、これ冒険者カードです」

「はい、確認しました。カナメさんですね、今呼びに行ってまいります」


 と、受付の男性に冒険者カードを見せればすぐに呼びに行ってくれた。

 うん、一応Aランクカードだかか丁寧に対応してくれたね。

 本当はもっと上なんだけれど面倒くさいのでAにしておいてもらっている。

 聖は勇者なのでSSS。勇者にのみ許されたランクだ。

 でも今は市井にいるからSにしてもらってるって言ってたな。

 まぁねー。


「ペトラ、何てかいたんだろうな……」

「悪い事はかいてないとは思うけれどねえ……」


 そんなことを話していたら、受付の男性が戻ってきてギルマス部屋に案内してくれた。

 二階に登ってすぐの部屋は大きめの作りになっていて、壁一面が本棚で書類や資料で埋め尽くされていた。

 そこに座っていたのはギルマスというよりも公務員の課長さん的なスッキリとした50台くらいの男性で……。


「すまないな、わざわざ。俺はロルトという。ペトラからの手紙だって?」

「はい、こちらです」


 と渡すとすぐに封を切って中を確認しはじめた。


「ああ、君たちが高ランクの問題ごとを受けてくれるのか。ありがたいな」

「問題……まぁ依頼ですかね。僕と聖と娘のメルトで当たります」

「ペトラがいうには多少遊びが入るけれど腕は確かだと書いてあるからな、頼もしい」


 遊びって……。否定はしないけどさ。

 ちょっと脱線するだけだよ。ちょっと。


「頼みたいことは一つだ。村の側にダンジョンがあるんだが、そこを通り過ぎて山道に入ると、今は使われてない峠道があってな、そこに二年前から竜種が住み着いたらしいんで見て来て欲しいんだ」

「竜種ですか?討伐ではなく偵察……?」

「ああ、ちょっとワケアリでな。その竜種に心当たりがあってなぁ」


 と、ギルマスがいうには、昔助けてくれた竜種かもしれないとのこと。

 ギルマスがまだCランクだったころ、無謀な依頼を受けて返り討ちにあい、そのままさまよった時に助けてくれた竜種がいたようで。

 助けてくれた上にその峠のあたりまで送ってくれたらしく、もしかしたらその竜種かも?だそうだ。

 お礼を言いたいけど、この村に来る冒険者ではランクが足りない。

 それに自分で動いて違った時、怒らせてしまったら村への被害も考えられる、とのことで。

 口が堅くて高ランクで竜種の討伐も可能な冒険者を探していたようだ。


 うん、受けましょうその依頼。

 ちょっとワクワクしてきたよー!

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