第29話 達也の言い分
午前中の授業が終わり昼食の時間になった。
「達也、俺購買に行って来るわ」
「そうか」
健司が購買に昼飯買いに行った。俺達と食べる為だ。
「達也さん、机を付けましょうか」
立花さんが自分の机を持ち上げようとしたので
「俺やります」
さっと立つと彼女が退いたので彼女の机を移動させた。
「ふふっ、お優しい」
「ねえ、見た」
「うん、なんか立石君って凄く優しいよね。なんで私気付かなかったのかな」
「みんな思っているよ」
「逃がした魚はお大きいかぁ」
「あんたの場合、針に引っかかってもいないでしょ」
「そだね」
耳に入って来る話を無視していると健司が帰って来た。
「買って来たぞ」
「おう」
「達也さん、お弁当です」
立花さんはお弁当入れだろう大きなバッグと小さなバッグを机の上に乗せた。ああ、朝持っていたのはこれかあ、明日は俺が持たないといけないな。
「ふふっ、朝は私が持つから良いですよ」
な、なんでー?俺の頭の中駄々洩れなの???
立花さんが作ってくれた俺用の弁当はおかず用とご飯用のボックスが二段になっている。彼女が開けてくれた。
「おっ、凄い」
これ皆立花さんが作ったのって聞くの失礼だよな。それではまるで誰かが助けてくれたことを疑っている事になる。
「ふふっ、達也さん。半分はお母様に手伝って貰いました。ごめんなさい。その時までには私が全て出来る様にします。それまではお許しください」
「い、いや立花さんが謝る事はないよ。それにとても美味しそうだ」
「そう言って頂けると嬉しいです。食べましょうか」
「ちょっと聞いた。その時までにはって」
「うん、聞いた聞いた。もしかして立花さんがここに転入したのって」
「えっ、ええ、えええーーー」
「声大きい」
「達也さん、ここも賑やかですね。でも最初だけでしょう。いずれクラスの皆さんも慣れますから」
「…………」
女子トークってのは怖いな。
私、桐谷早苗。私も学校にはお弁当持って来て教室で食べている。私は当然全部自分が作っているけど、彼女(立花さん)は母親と一緒に作っているという。それはいい。だけどさっきの言葉、やはり最悪のシナリオが進んいるみたいだ。
本当は高校卒業してからと思っていたのだけど。何処で仕掛けるか考える必要が有るみたい。
「どうしたの早苗。立石君達の方をずっと見て」
「あっ、いや何でもない」
立花さんが作ってくれた弁当は本当に美味しかった。どこまで彼女が作ったかなんて野暮な事は聞かずに
「立花さん、美味しかったです。ありがとうございます」
「お礼はいいです。私の役目ですから」
「…………」
参ったなあ。
食事が終わって少ししてから
「立花さん、今日はグランドを案内する予定だったけど、健司と話が有るから明日でいいか?」
「はい、私は構いません」
「立花さん、済みません」
「高頭さんが謝られる事はありません」
「健司ちょっと行くか」
俺は事が事なので体育館裏に二人で来た。
「健司悪いな。色々」
「別に良いけど。立花さんとお前結構面倒そうだな」
「ああ、さっきも聞いていただろうけど。俺の父さんと立花さんの父さんが知合いでな。遊び仲間でもあるらしいんだ。その関係で二人が、俺達を大学卒業後結婚させると言って来た。
出来れば高校卒業後には婚約もさせたいと」
「なんだそれ。仕事がらみの政略結婚とかか?」
「いや、違う。彼女の父親は会社をやっていてな、その跡取りは長男がいるから問題ないらしい。俺の所も前に話した通りだ。
だから、今回の件、あくまで俺と立花さんの気が合えばという事になっている」
「なるほどな。それで立花さんのお前に対する態度が分かった。恋人でもないけど友達でも無いってところがさ。
差し詰め未来の許嫁というところか?ところで達也は彼女の事どう思っているんだ?」
「別に何とも思っていない。まだ顔見知り程度で友達にもなっていないというところだ。婚約とかは親が勝手に言っているだけだ」
「あれだけの器量だぞ。普通の男なら否応なくOKするだろうけどな」
「俺は結婚については自分がこれだからな。相手に器量は求めない。お見合いでもいい位に思っている」
「ははっ、達也らしい。俺もお前を見習うかな。そうすれば三頭先輩といい、立花さんといい、文句のつけようがない女性が寄って来るからな」
「そうなのか。俺には分からないが」
「お前の言い分、世の中の男子が聞いたらみんな驚くだろうな。まあ分かった。事情話してくれてありがとうな。これで立花さんへの接し方も分かったよ」
「悪いな」
健司はその後用事があるらしく、どこかへ行ったが、俺は教室に戻ると立花さんが自分の机で本を読んで…いなかった。他の女子に囲まれて色々聞かれている様だ。
俺に気付くと
「あっ、達也さん。お話は終わったのですか?」
「ああ」
俺が教室に戻るとサッと潮が引いたように立花さんの周りから誰も居なくなった。
「大丈夫だったか?」
「はい、何も問題ないです。皆さんお優しい方ばかりです。女子トークというものです。楽しい会話でしたよ」
「なら良いんだが」
授業も終わり放課後になった。俺は今日は図書室担当ではないので
「立花さん、この後用事が無かったらグラウンド案内しますがどうですか?」
「はい、お願いします」
俺達は下駄箱で履き替えるとスクールバッグを持ったままグラウンドに歩いた。
グラウンドは部活をやっているから見れば分かる。説明するほどでもないが
「この高校は進学校ですけど、野球、サッカー、男女バレーボール、男女テニス、男子バスケットボール、剣道、柔道がスポーツクラブであります。
後は生徒会と文芸部それに図書委員ですね。来週からは中間考査週間に入りますから部活は今週までです。
体育館はあっちです。行きますか?」
「ええお願いします。ところで達也さんは何部に入っているんですか?」
うっ、不味い事聞いてきやがった。でも流れではこうなるよな。
「図書委員です。後文芸部の手伝いも少し」
「そうですか。私もお手伝いしましょうか?」
「いや、今はいい。必要になったらその時お願いする」
「分かりました」
これで立花さんが図書委員にでもなったら収拾がつかないからな。
その後、体育館に案内した。中ではバスケの練習が行われおり健司がいた。いい顔をしている楽しそうだ。
その後、駅まで送って行ったが、
「達也さん、お話があります。些細な事なのですけど。達也さんにはお知らせしておこうと思いまして」
「何でしょう?」
「実は、私車で通学しています。但し駅までです。こちらの改札から入って反対側の改札を抜けたところに迎えの車が来ています。学校には許可を頂いています」
「そうですか」
「もっと何か言われると思いましたけど」
「別に良いと思います。セキュリティの事もあります。俺の妹も必要に応じて家の車を使っています」
良かったわ。やはりこの方は理解あるお方です。
俺は改札で別れるといつものホームに行った。よく見ると彼女はどのホームにもいない。
しかし、どうしたものかな。大学卒業後に見合いは良いとは思ったが、高校の時からその人がいるのは随分話が違う。俺の高校生活が拘束されているのと同じだ。
何とか自由にならないものかな?
――――――
自分の思いは中々通りませんね。
次回をお楽しみに
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。
感想や、誤字脱字のご指摘待っています。
宜しくお願いします。
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