第17話 先輩の頼み事


 前話続きます。


 涼子とは、そのまま教室に入って行った。もちろん手は繋いでいない。だが、二人で同時に入って来た事で、今まで二人を見ていた人達が驚いた顔をしていた。

 

更にその後俺が

「涼子、じゃあ後でな」

「うん」

 

穏やかな顔で自分の席に行く涼子を見て

「ねえ、どういう事」

「さあ、確か本宮さんと立石君って別れたんじゃ?」

「でも今の見ると…より戻したのかなあ」

「うーん、分からない。でも本宮さんが笑顔で良いんじゃない」

「そだね」



 自分の席に座ると健司が

「おはよ達也。本宮さんとは少し進んだみたいだな。いい方向に」

「まだ分からないがな。後で頼み事がある。昼の時話す」

「そうか分かった」



 午前中の授業が終わり健司と学食で昼食を摂った後、体育館の裏に行った。

「ここなら聞かれないからな」

「そうだな。ところで頼みってなんだ?」

「健司、白川修二とかいう奴の写真手に入らないか。出来ればどこの学校かも」

「学校は直ぐに分かるけど写真はなあ。取敢えずテニス部の奴に聞いてみる」

「悪いな」

「なに、達也の為だ。でも本宮さんとの進み具合教えろよ。まあ乗っかった船ぽい所有るから」

「なんだそれ。まあ分かったよ」



 今日は土曜日、放課後いつもの様に図書室を開けて受け付けに座っていると早い時間に三頭先輩がやって来た。


「達也」

「ちょっ、ちょっと学校じゃ立石でしょ」

「良いじゃない誰もいないんだから」

「それでも駄目ですよ」


 そう言っている内に他の生徒が入って来た。いつもの常連さんだ。席座ると直ぐに教科書を取り出した。期末考査が終わったばかりなのに見習いたいものだ。


 三頭先輩が今度は小声で俺の顔の近くに寄ると

「ねえ立石君。君にお願いしたい事があるの。君しか出来ない事」

「何ですか。俺にしか出来ないって事って」

「私のボディガード」

「へっ?どういう事ですか」


「今日午後三時半になったら急いで校舎裏の花壇の所に来て。正確には花壇が見える所から花壇の前に居る私を見ていて。それでもし私が危ないと思ったらすぐに私を助けて」

「何ですかそれ?」

「言っている通りよ。じゃあ頼んだわよ。なるべく早く来てね」

「ちょっ、ちょっと」


 行ってしまったよ。これって誰かが先輩に告白するけど、万一の場合助けろって事だよな。なんかボディガードというより体のいい助っ人だろ全く。だけど先輩午後三時半までなにするんだろう?



 俺は、午後三時半五分前の予鈴が鳴ると急いで書棚への返却処理と締め処理を行った。幸い、来ていた人達は急いで帰ってしまった。まあ今日は土曜日だし。


 図書室を閉めて職員室に鍵を返すと急いで校舎裏の花壇に行った。


 花壇が見える校舎の陰で覗くと少しチャラい男が二人先輩の前に立っていた。


「三頭加奈子さん。好きですお付き合いして下さい」

「お断りします。自分の名前も言わない人とは話もしたくありません」

 先輩ももう少し優しく言っても良いような。


「それは悪い事をした。俺は三年の権藤時三郎って言うんだ。これでいいか」

「とてもお付き合いする気にならないですね。帰って下さい」

「だから言っただろう権藤。こんな女はやっちまってビデオ取っとけばいいんだって」

「そうだな。そこの小屋に連れ込んでそうするか」


 権藤って男がいきなり三頭先輩の腕を掴もうとした。

「おい、待てよ」


 二人がこっちを向いた。

「何だてめえは。一年生じゃねえか。上級生に対する態度か」

「それはすみませんでした。先輩達。三頭先輩が嫌がっています。直ぐにここから去ってくれますか」

「ふん、面だけ偉そうに」


 権藤って方がいきなり殴りかかって来た。喧嘩慣れていそうだが、酷い殴り方だ。俺はそいつの右腕を左腕で簡単にはじくとそのまま右拳を左手に抑えて左に回転した。


「ぐあっ」

 先輩の顔が吹っ飛んだ。


「この野郎」

 もう一人がやはり殴りかかって来た。今度は相手の腕を左腕で掴むと足払いをして右拳で相手の左顔面を打ち抜いた。もちろん力は半分で。相手はそのまま倒れ込んだ。


「先輩達。まだやりますか」


 真面目に睨みつけると二人共顔を抑えながら逃げて行った。


「大丈夫ですか。先輩」

「ありがとう達也。助かったわ」

「学校じゃ達也は止めて下さい」

「良いじゃない。それよりもう花壇のお世話終わるから一緒に帰ろ」


「先輩、図書委員以外にも文芸部もしてるんですか」

「そうなのやり手がないのよ。達也手伝ってくれない」

「俺がですか。全然分からないですけど」

「ふふっ、一から手取り足取り教えてあげる」

 背筋に寒気が走った。


「これ片付けちゃうから待ってて」

「手伝います」

 ジョーロとリール型ホースを元に戻して近くの小屋に入れると一緒に先輩が入って来た。


「どうしたんですか。先輩」

「ふふっ、もし君がいなかったら私どうなっていたと思う」

「そ、それは」

「良いのよ君だったら。私手付かずよ。ここだったら誰にも分からないわ」

 そう言って俺の近くに寄って来た。


「じょっ、冗談はやめて下さい」

「ふふっ、冗談でなければいいの?私本気でもいいのよ」


 バタン!


ドアが思い切り開けられた。

「達也!」

「涼子?」


「達也が下駄箱に来ないから探しに来て見たら小屋から声が聞こえるから」

「あら、本宮さん。達也を裏切って浮気したんでしょ。あなたには関係ないわ。出て行って」

「駄目です。私は、私はもう一度達也の恋人になるんです」

「はあ、何言っているの。他の男に体を売った女が」

「先輩、言い過ぎです。涼子も落ち着け」


「ふふっ、まあいいわ。達也一緒に帰ろうか」

「ここ片付けたら一人で帰ります。二人共先に帰って下さい」

「達也、嫌よ。あの二人がその辺に居るかもしれないじゃない。一緒に帰って」

「…分かりました」


 結局俺の横に三頭先輩、後ろに涼子が歩く形で駅まで行った。

「達也、また月曜日にね。さよなら本宮さん」

 言うだけ言うと先輩は俺達とは別のホームに行ってしまった。


 結果的とはいえ、俺は涼子と帰りの電車に一緒に乗る事になった。


「達也、私の所の駅で一緒に降りて、話したい」




 この季節、この時間はもうだいぶ暗くなって来ている。俺の横を歩いている涼子は何も話さない。


「涼子」

「何も話さなくていい。側にいて」

「…………」



 家まで送って行った。

「達也。明日会えないかな?」

「…………」

「ごめん無理だよね。こんな汚れた私なんて。うん歩いてくれただけ嬉しかった。ありがとう」

 彼女が玄関に入ろうとした時、俺の体が勝手に動いた。涼子の左手を握って

「いいぞ」


 彼女の顔が太陽の様にぱあっと輝いた。


「達也、達也、達也」

 思い切り涙を浮かべて俺にしがみついて来た。



 俺は家に帰りながら、

 分からねえ。初めての事ばかりだ。女の子との距離感、女の子に対する気持ち、女の子に対する接し方、全く分からない。少し分かり始めたと思ったんだが。


 ついこの前まで俺は涼子を裏切り者浮気女と思っていたはずなのに……。


―――――


 恋愛初心者達也君。悩みます。爺ちゃん曰く恋愛も鍛錬、修業じゃ?


次回をお楽しみに


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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