嫁になった『吸血狐っ娘』と二人で始める冒険譚

四葉のアミア

一章

第1話



 その日、僕は彼女と出会って…なんか知らないが夫婦の関係になった。


 なぜそうなったのか…少し振り返ってみようと思う。



 〜〜〜〜



 辺りが火に囲まれてる。


『レオ!!逃げなさい!早っ…ぁ………ご、めん…ね』


 目の前で母さんが斬られて僕に向かって手を泣きながら手を伸ばして倒れる。


『母さん!!』


『シェラァァァァ!!!クソがぁぁ!!』


 お父さんが持っていたナイフを逆手に身軽な動きであいつに向かっていく。だけど…


『お父さん!!逃げてっ!!』


『っ!がっ……ごふっ…』


 父さんの背中から腕が生えて、父さんが吐血した。


『っ父さぁん!!』


『レ、レオ…逃げろ、逃げて、逃げて…そして、強くなれ…』


『……死ね』


『っがぁ!!…レオ、ゴフッ……っ逃げろぉ!!』


『うっ……あぁぁぁぁ!!!!』


 そして、僕は逃げた…僕の両親を殺したあいつは追っては来なかった。それでも、僕は逃げて、逃げて、逃げて…逃げ続けた。でも、いくら逃げても…辺りは火に囲まれてる。…逃げても、逃げても…


 そして、目の前にあいつが……そいつは、醜く笑った後、その手に持った武器を僕に――




 ■



「…はっ!!っはぁ、はぁ…はぁ…また、あの夢」


 最悪の目覚めだ……最近見なくなったと思ったらこれだ…


「……か、顔を洗おう」


 気持ち悪いくらいに汗をかいてるし、気分も最悪だ…それらを洗い流すつもりで僕は部屋から出て外にある井戸へとふらふらとした足取りで向かった。




「…っ冷たい」


 今は冬に近い…とも遠いとも、なんともいえない時期だ。しかし、井戸の水は冷たかった。でも、その冷たさは僕の気持ちを冷やすのに丁度良かった。


「気持ちを切り替えよう」


 あの出来事は過去だ…過去に過ぎない。そう割り切っても割り切れないのが本音だが…


「どうした、レオ。顔色がわるいぞ」


「…あぁ、レイドさん。いえ、少し夢見が悪くて」


 レイドさん…僕が寝泊まりしてる宿の店主、というわけではなく僕と同じ冒険者だ。


 冒険者…15歳と成人してる僕はあの頃、あの日より独学で鍛えてきた剣だけを持って冒険者となった。


 冒険者にはランクと呼ばれるものが存在しており、下から石級ストーン鉄級アイアン銀級シルバー金級ゴールド魔鉄級ミスリル魔鉄鋼級アダマンタイト神魔鋼級オリハルコンと計7個だ。

 冒険者には冒険者の証として特殊なネックレスを貰える。そのネックレスの色がその冒険者のランクを示している。ストーンは灰色、アイアンは鈍い鉄色――説明が難しい――シルバーは銀色、ゴールドは金、ミスリルは鉄色と薄紫が入り混じった色、アダマンタイトは紫、オリハルコンは白となっている。


 一般的な冒険者はアイアンからゴールドだ。ストーンは初心者だ、逆にミスリルからは上級者だ。ゴールドとミスリルの間は高く分厚い実力の壁が存在している。それを超えるか超えないか…無事に超えることが出来たら一流冒険者の仲間入りだ。


 じゃあ、逆にミスリルより上、アダマンタイトとオリハルコンはどうなるのか?…僕も聞いた話だとアダマンタイトは世界で10人、オリハルコンは3人しか居ないとの事だ。それも、一人ひとり化け物みたいな実力の持ち主らしい。会ってみたいという気持ちもあるし、会いたくないという気持ちもある。


 僕?僕はゴールドランクだ。15歳でゴールドは世間一般的にはまぁまぁ凄いらしい。けど、僕にとってはなんとも言えない。…こんな実力ではあいつには勝てないと勘が告げてるからだ。


「ちゃんと寝れたのか?」


 話が逸れてしまった…今はレイドさんだ。


「…寝れてませんよ。気分は最悪です」


「無理はすんなよ、どうせ今日も鍛錬だろ」


「えぇ、鍛錬と依頼をこなすしか取り柄がない人間ですので」


 自傷気味にそう言ってやった…悲しくはならない。本当にそれしか取り柄がないからだ。


「……早死にだけはするなよ」


「何度も聞かされてます、流石にわかってますよ」


「そうか、もう少ししたら朝食だ。俺は先に行く」


「はい、僕も後で行きます」


 レイドさんが宿に入っていく。それを僕はただ見ていた。


「……行かなきゃ、朝ごはん食べないと」


 僕はここから動くことに理由を付けるように呟いてから宿に入っていく。




 ■




 鍛錬、僕は独学で剣を学び続けたため教わる人が居ない。だから鍛錬、一人で近くの森に入って地道に…


「96、97、98、99、100…ワンセット」


 汗はかいてないがなんとなく腕で額の汗を拭うような動作をしてしまう。これは、まだ剣の腕も今より圧倒的にお粗末で体力も無く、少し動いただけだ疲れと汗が出てしまった時の名残り…というより癖みたいなものだ。


「もう2セット」


 周りから見たらただ愚直に剣を振っているだけ、そう見えるかもしれないが…僕にとってはこんな事でも意味がある。…もしかしたらそう思いたいだけなのかもしれない。しかし、そんな事を考え始めたら終わりだ。


 僕はただ、両親…それと今は無い故郷の村を滅ぼしたあいつを倒すために剣を振り続ける。



 ■




「100…3セット目」


 そう呟き、剣を鞘に仕舞う。市販の安物ロングソードだが長年使ってるため愛着がある武器だ。


 何度も何度も手入れをしてもらったので武器の耐久度はあってないようなものだ。…まともに魔物の攻撃を受け止めれば折れてしまうだろう。しかし、僕はそれを受け流す事で武器が破壊されないようにしている。


 それなら買えばいいだけの話だが…どうも乗り気になれない。金は依頼達成の時に貰ったものを溜め込んでるため費用的な問題は余程な金額ではない限り買えるだろうが。


「…魔物の気配」


 これでもゴールド。自慢ではないが敵の気配は分かる。気配を消されたら流石に無理だが…

 僕が分かるのはあくまで気配のみだ。魔力だったり音だったり匂いだったり…そんなのは分かりっこない、



 僕は剣に右手を添えながら森の中を気配を感じながら歩いていく。


 欠伸が出そうになるが無理矢理抑え込む。…涙が出てきた。


「そこだ!」


 気配の場所に剣を振り下ろした…が、手応えが一切なかった。


「…逃げた…?いや、こっちだ!!」


 背後に剣を振るう。すると、確かな感触が伝わってきた。


「透明…インビジブルウルフか」


 先ほどまで何もない場所の空間が少しずつ歪み始め、そして数秒後には灰色の狼がそこに居た。


 インビジブルウルフ、透明狼、ワンコロ…あだ名は色々あるが、普通にシルバー級の魔物だ。


 姿を消して、背後から噛み付く。初心者にとってかなり凶悪な魔物と言われてる。しかし、気配、匂いなどは消せないため上級者からしたら姿が見えないだけの犬と言われてる。


「さて、解体するか」


 インビジブルウルフは毛皮と肉、骨、体内の魔石とほぼ全てが売れるため解体しない手はない。


 僕はナイフを取り出して捌いていく。


 捌いていくと背後に人の気配を感じた。それと同時に叫び声も聞こえてきた。


「あ!私の、私の…獲物、が」


「…え?」


 その叫び声に思わず手が止まった。思っていたより子供っぽい声だったからだ。


 解体の手を止めて振り返る。すると、そこにはピンク色の髪を持つ小さな女の子が居た。だが、一つ違うところがある。


「…獣人族か?」


 頭のてっぺん辺りに生えてる二つの狐耳、そして微かに見えるフサフサな尻尾。こんな特徴的なものを持ってる種族は獣人族しか考えられない。


「いや、そんなことより…君は?」


 こんな所に居るのだ。見た目の割には実力者なのだろう…見た目の割には。


「そんな事よりっ」


 そんな事より…


「それってもう生きてないよね?」


「もう解体してるからな。…もしかして、なんかやってしまった?」


「…うぅぅぅ…」


 突然、ペタンッ…と狐っ娘が座り込んだ。ついでに狐耳もペタンとなった。


「ど、どうした?」


 慌てて駆け寄ると、狐っ娘のお腹から可愛らしい音が聞こえてきた。


「お腹空いた…」


 ガクッとなりかけた。


「お腹空いたのか…何か持ってないの?」


 そう聞くと狐っ娘はふるふると首を横に振る。


「ん〜、非常食も持ってないし…街まで連れてこうか?それで、そこで何か食べる?」


「ううん…そんなのじゃお腹は満たされないの」


「?それはどういう」


「……」


「っ、大丈夫か!?おい!」


 狐っ娘がいきなり倒れた。少し慌てた後すぐに冷静になって、僕は狐っ娘を抱き抱えてインビジブルウルフの死体を放っておいて直ぐに宿へと全速力で向かった。



 ■



「?どうした、レオ。そんなに急い…その女の子、いや獣人は?」


「説明は後!水を僕の部屋に持ってきてくれ」


「何か訳ありか…分かった、待ってろ」


 店主はこういう時にすぐさま行動してくれるのでありがたい。


 僕は先程より息を荒くしてる狐っ娘を自分の部屋へと連れて行った。





「……で、レオ。何があった」


 自分の部屋にあるベットに狐っ娘を寝かせて、店主が持ってきてくれた水に布を浸らせ、十分に絞った後、狐っ娘の額に置いた。


 一息吐いたあと、店主であるアンガスさんがそう聞いてきた為、僕は先程起きた出来事を一通り説明した。





「…なるほどな。腹が減ったが、普通の食べ物じゃダメ…どういう意味だ?」


「分かってないな?…なるほどな、を撤回した方がいいぞ」


「やかましいわ。…しかし、獣人族の子供か」


「この宿に泊まってる奴に獣人は居ないのか?」


「今は居ないな…3日前なら居たが既に出て行った。他の獣人が来るのも分からん」


「そうか…アンガスさん。あとは僕が看病するから店番してこい」


「おう、命令形か。…何かあったら呼べよ」


 そう言ってアンガスさんは部屋から出ていった。それと同時にタイミングが良いと言っていいのか狐っ娘が目を覚ました。


「……ここ、は?」


「目が覚めた?ここは宿で僕が泊まってる部屋。いきなり君が倒れたからここに連れてきた。大丈夫?」


「……お腹減った」


「何か食べたいものはある?」


「…生き血」


「へ?」


「私…獣人と吸血のハーフ、だから生き血が定期的に必要」


 かなり衝撃的な内容が狐っ娘の口から発せられた。絶句まではしなかったが、この子から見たら僕の目は見開いてると思う。


 吸血…一般的には吸血鬼、吸血族と呼ばれている。生きるために定期的に血を摂取しないと死ぬと言われている。


「…本当はあの狼の血を飲もうと思ってたけど、寸前で逃げられて、うぅぅ〜」


 ジト目で僕を見てくる。…罪悪感が凄い。


「血…生きてる血が必要なのか」


「うん、死んでる生物の血には精気がない」


「へぇ。血がないとやっぱり死ぬのか?」


「死ぬ」


「お……死ぬのか。…なら血、飲むか?」


 僕は右腕を差し出した。すると、狐っ娘…いや吸血狐っ娘は目を丸くした。


「っ!?……いいの?」


 そう言っているが、気づいているのだろうか…?口元が形容し難い動きしてるぞ。


「なんかあるのか?」


「あるよ?」


「…僕が吸血族になるとか?」


「そんなのはない。ただ、血がなくなる」


「それだけかよ!!」


 当たり前のことを言われた。そりゃそうだ…


「……そう、それだけ」


「っはぁ…ならいくらでもあげるよ」


 僕がもう一度腕を差し出すと、吸血狐っ娘はそ〜と、そ〜と小さな手を僕の腕に置いて…口を近づけ、僅かに見えた鋭く尖った犬歯を僕の腕に突き立てた。


「っ……」


 チクッとした痛み、その後は不思議と痛みは無かった。


「…コク、コク、コク、コク」


 微かに聞こえる何かを飲む音。…僕の血液が飲まれてる。なんとも言えない気持ちになるが、不快感はない。それと、僕の血を飲むたび狐耳がピコピコと動くのが見てて飽きない。


「美味しい…のか?」


 そう聞くと、微かに首を縦に振った気がした。


「そうか、飲み過ぎも困るが…たらふく飲めよ?」


 飲んでるものが血なのは少しあれだが…美味しいのなら良い。


 僕は空いている手で吸血狐っ娘の頭を撫でる。…半分無意識だったが…


「っ……〜♪」


 嬉しそうだ。フワフワな尻尾がゆらゆらと揺れている。


「コク…コク…ぷはぁ」


「飲み終えた?」


「うん、ご馳走様でした」


「それは良かった」


 口元から僅かに垂れてた血を吸血狐っ娘が舌で舐めとる。仕草が…子供らしからぬ仕草だ。


「…包帯でも巻いとくか」


 僕は自分の右腕を見てそう呟いた。僅かに空いてる穴からプクッと血が出てる。


 僕は机の引き出しに入れてある包帯を取り出して自分の腕に巻く。…これでよし。


「…さて、と……吸血狐っ娘、これからどうする?」


「私の名前はミルナ」


「ミルナ、これからどうする?」


「…?ついて行く」


「…えっと?誰に」


「ん」


 指を向けてきた。…背後を確認、誰もいない。僕…?


「僕?なんで、僕?」


「名前、なに?」


「あっ、僕の名前はレオ。気軽に呼んで」


「うん、レオは私の夫。だから、ついて行く」


「……んん!?」


 理解に数秒かかったぞ!?


「お、おお夫!?どうしてそうなった!?」


 先程、吸血族だと言われた時より遥かに驚いている。


「…?求婚したから、それで私は、それを受けた」


「求婚?」


「男性が女性の吸血族に血を差し出すのは求婚、レオは私に右腕を差し出して血を吸って良いと言った」


 あれ、求婚だったのか!?


「そして、男性が差し出した血を女性の吸血族が飲むのが求婚の返事、結婚して良いという」


「…飲まなかったら?」


「拒否」


「…あぁ」


「さっきの場合は私も命の危機があった。でも、それを除いたとしても私はレオと結婚したと思う」


「…?えーと、つまりどっちにせよミルナは僕と結婚…?」


「うん」


「何故?」


「一目惚れ、これはガチ。嘘っぽいかもしれないけど、本当。一目見てドクンって来た。…でも、直ぐに空腹で消されたけど」


「……そ、そうか。婚約破棄…とかは?」


「…まだ14歳の私に数分だけ結婚して離婚したという思い出を刻まさせるの?」


「うぐ……わ、分かった」


 そう言うとミルナの顔がパァと明るくなった。…流石にさっき言われた事を有言実行させる勇気は無い。


「だが、一つ言うが…僕はまだミルナの事を好きとは言えない。異性として見てると言われてもなんとも言えない……ミルナ、君は僕のことが好きなの?」


「うん、さっき血を差し出された時にときめいた」


「お…おぉ、そうなのか。…コホン、僕が本気でミルナの事を好きになったら、その時…結婚するよ」


「っ!惚れさせろ?」


「そうだね。自分がしでかしたことには責任を持たないとね」


「…頑張る!!」


「うん、頑張って僕を惚れさせてみて」


 メラメラと燃えているミルナに向かってそう言った。そして、言ってから思った。


 …いつか、絶対惚れるんだろうな…










--------


最初なので後書きを。


カクヨムでは初投稿の作品です。なろう様の方にも投稿されてます。

次に投稿されるのは6月10日です。


ダメ出しとか誤字とかあれば言ってください。おおよそ3割くらいを糧に成長していきます。


追記、ここを今後作者がやるゲームの報告とする。邪魔だったら言ってください。


プロセカ、今日は初年ミクの消失extraやったら集中力がなくて9ミスもしました。

ノーツスピード11、タイミング+2←めんどくなったのでやめました。


よろしければ☆やブクマなどお願いします



タイトルとあらすじ変更しました



質問箱という名の小説を新たに投稿しましたので質問等はどうぞ。【別にこっちの作品のコメント欄でも大丈夫】

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