第32話 鬼電と百数回のメッセージ

PPPPPP!

「…………」

PPPPPPPPP!!

「…………な、なんだ」

PPPPPPPPPPPP!!!

「うるせえうるせえ……なんだよ、何の音だよ…………こんな朝早くにどういうことだよ」

 けたたましい電子音にうなされて、やや不機嫌に体を起こす。

 音は携帯から聞こえてきていた。

 ローテーブルに置いたそれを取って、画面を見る。


「うえっ!?」

 ぎょっとして変な声が出た。

 液晶にはメッセージ百数件、着信履歴が数えきれないほど表示されている。

 そのどれも差出人が「黄色さん」となっていた。

 そして、今も鳴り響く携帯電話。

 

「嘘だろ」

 寝ぼけていた頭が一気に覚醒し、同時に頭を抱えた。

 ……僕はこの人になにかしてしまったのだろうか。

 いや思い当たる節が一つもない。

 ここは早急に電話を取るべきか。

 コールが終わらないうちに通話のボタンをタップする。

「……あ、やっとかかった」

 黄色の不機嫌で眠そうな声が聞こえた。

「あの、白墨です」

「知ってるとも」

 いつもと変わらない調子の声。

 ただ問題なのは、電話口から漂う一触即発な雰囲気。

 言葉を間違えば、殺される……!


「あの、僕なにかやっちゃったんでしょうか?」

「っ……、はあ…………」

 舌打ちと盛大な溜息に思わず正座になってしまう。

 間違えた。

 おそらく大悪手を引いた。

 だめだ、僕は殺されるんだ。

 ここまで機嫌の悪い黄色を見たことがない。

 目の敵にしていた青色の前でさえ、ここまで悪態をついていなかったのだ。

 きっと、知らないうちに逆鱗に触れたに違いない。


「いえっ、あのめっちゃメッセージ貰ってたし、着信もえげつないことになっていたので。なにかやらかしたのかと思ったのですが……腹切ればいいですか。介錯お願いしてもいいですか。出来れば後学のためになにがいけなかったのか教えてほしいのですが」

「切腹するのに後学もなにもないだろう」

 黄色は呆れたように溜息をつく。

「私は君から届いた連絡を見て、焦って鬼電していただけだよ。君の命に別条がなければそれでいい……その起きていない声を聞く限り、私の思い込みだったみたいだけどね」

 ……思い出した。

 黄色には緑色について伝えようと思ってメッセージだけ送っていたのだ。

 それも内容のない、意味深なものを。

 

「……すみません、心配かけて」

「分かってくれればいいさ。もとはと言えば私が君の電話を取らなかったのが悪い……でも今度からはきちんと要件をまとめてくれよ」

 そう笑って言うと、黄色は大きな欠伸をする。

「そろそろ寝る。君の安否が分かって気が抜けたみたいだ」

「本当にすんません、気を付けます」

「別にいいって。それで、亜黒氏は私に何が伝えたかったんだい?」

「えーっとですね、長くなるんですけど」

 小さな緑色と出会い勝負を仕掛けられたこと、緑色は青色と手を組んでいること、勝てば緑色を手に入れられること、負ければ黄色を手放さなければならないこと、そしてその勝負に乗ってしまったこと。


――みたいなかんじです」

 黄色は黙っている。

 なにか抑え込んでいた物が吹き出す直前のような、嵐の前の静けさのような……。

「ばっ……」

「ば?」

「ばっかじゃないのかい!?!?」

 電話口から聞こえる罵声に耳を遠ざけ、目を白黒させる。

 黄色は怒っていた。

 今までない態度を、先ほどとは比べ物にはならない動揺を聞いた。

「緑と青が組むか……そうか。せっかく寝られそうだったのに、これではそんな暇はなさそうだな」

「あ、あの」

「いやすまない、取り乱した。君は悪くない、というか君ならこれもどうにかできるだろう。まずはこの状況にどう対処するか、会議を開こう」

「会議ですか?」

「君一人に任せてもかまわないが、せっかく頭数で数的有利を取っているんだ。上手く使わない手はない」

 「私と、無色と君の三人だ」とけろりとして黄色は言う。

「けど黄色さんと先輩は話せませんよ。仲介役になれって言うんですか?」

「まさか、そんなの非効率だよ。あるだろう?彼女と私が直接会話する方法が」

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