七色さんは八人いる

うざいあず

一章 気楽な黄色氏

第1話 七色と無色と無彩色

 十人十色という言葉がある。


 意味としては十人も集まればそりゃ十色集めたみたく個性や性格が全く異なって人それぞれいいところがあるよ、というようなことだと思う。


 僕もそれは理解できる。


 とてもポジティブな言葉で是非とも標語にしたくなるくらいには素敵極まりない諺なのは百も承知だ。




 しかし問いたい。



 ”本当に人それぞれ一色持っているのか?”と。



 ランダムに人々を観測すれば違いは明確にデータとしてあらわすことができるだろうが、本当に全く別の色を持つだろうか。


 多少なりとも似通った色になったり、色の具合が全体で偏ったり、人によってくすんだ色だったり、輝かしい色だったり、一色じゃなくて何色ももっていたりしないだろうか。


 色覚異常のようにあるいち視点からすれば人々はほとんど同色にならないだろうか。


 多少見方を変えるだけでその人の色はカメレオンのようにあっというまに変わってしまわないだろうか。


 十人それぞれがきっちり一色ずつ均一な彩度と明度をもって、かつ被りなく十色コンプリートできるわけがない。


 実は一人が二色もっていて、一色も持っていない人が一人登場する可能性だって拭えない。


 確率度外視で物を言えば一人だけで二色も三色も四色も負担することだったあり得ない話ではない。




 僕はここ数日そんなことばかり考えていた。


 とあるブームの衰退と、とある人物との接触がきっかけで、無意味に無為にいつものように過ごしてしまっていた。


 とあるブームの衰退とは「”一人で七色を担う少女”が本当に一人なのかを探る」証拠集めに生徒たちが飽きていったこと。


 とある人物との接触とは「一色も持たない少女」に協力しろと言われたこと。


 こんな個性的な者たちにあてられて、柄にも無くファンタジックな物思いにふける日々が続いているのだ。




 灰色でモノトーンで味気ない日々を暮らしてきた者からすれば、これほどまでに面白いことは無い。


 彼女らの形容を模倣するとしたら僕は「無彩色の少年」だろうか。


 並んで立つには及ぶに足らず、没個性な人間には分不相応な呼び名だが。




「――よし」


 心を決めて、ぐだぐだと思考を止め処なく垂れ流しにしていた万年床から立ち上がると、財布と携帯、それと家の鍵を持ってドアノブに手をかける。


 振り返り壁掛け時計を確認すると時刻は午後九時を回っていて、約束の時間まですぐそこだった。 


 一色も持たない少女との約束。


 僕はその約束を果たすべく、扉を開けるとそのまま家を飛び出した。


 外は既に暗く、夏直前にしては肌寒い。


「はあ」


 不意についた溜息は面倒くささから来るものではなく、感嘆するような、緊張を解きほぐすようなものだった。


 珍しいな。


 また柄にも無く思い出す。


 先日の出来事を、無色の少女から聞いたあの言葉を――




「私を、探してくれませんか?」



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