フラれた俺がモテるために努力したらフッた相手がいつの間にか彼女になってました。

下洛くらげ

第1話


忘れもしない、中学二年生の冬。

俺は学校一の美少女に告白をした。


彼女は学校中で有名だった。

中学生ながら、大人びた美貌に、艷やかな黒髪。

同じクラスであることが奇跡かのように思えた。


もちろん学校中の男たちも俺と同じように告白の順番待ちのようにラブレターを渡していく。おかけで春、夏となかなか告白する機会がなく、ようやくチャンスが来た頃には、季節はもう冬になっていた。

ようやく回ってきたチャンス、俺は放課後の屋上に呼び出した。



……しかし、結果は当然のことながら撃沈。

あげくのはてには、


「いや、マジキモいんだけど」


と、中2男子の心をへし折るには十分な口撃を残し、颯爽と去っていく背中を俺は呆然と眺めていた。その後、野次馬共が屋上になだれ込み、鬼のように煽られたのは言うまでもない。


こうして俺の初恋、初告白は無惨に敗北し、二度と恋なんてねぇと心に刻み込んだのである。


しかし、俺の心は完全には折れなかった。



……復讐である。



全ての女どもに同じ屈辱を味わわせてやるッ!!



そして俺は「モテる」という、ただそれだけの為に全てを費やした。

目標は高校入学までに、完璧なモテモテスーパー人間になること。

そのために内面に外見、性格にいたるまで、女にモテるように叩き込んでいった。


まずは小説からゲームまで、あらゆる恋愛物を叩き込み性格を矯正し、さらに徹夜で勉強、部活に筋トレ、全てにおいて妥協を排除し、模試では全国4位、サッカー部だった俺はキャプテンとして学校創設以来、始めての全国出場をはたした。

外見では運良く身長は両親譲りの高身長。

美容にも徹底した俺は、全国出場とともにイケメンとしても一躍有名になった。


完璧だ。

完璧な「モテ」人間である。


こうして俺は文字通り、その後の中学人生を全て「モテる」為につぎ込んだのである。



……そして、いよいよ中学を卒業し高校入学の時がやってきた。

中学では全員がフラれた「ダサい俺」というレッテルが貼られているため、一度ついたイメージを消し去るのは難しいと考えた俺は、中学時代の俺を知っている人間がいない他県の高校へと入学した。


これで1から高校生活を始める事ができる。


……ハズだった。



天草あまくさみことと言います。〇〇から来ましたので、知り合いが一人もいません。よかったら声かけていただけると嬉しいです」


入学式が無事終わり、8組あるうちの2組だった俺は、1年生の階である3階まで移動し、早速自己紹介が始まる。名字が天草ということもあり、予定通り一番最初の自己紹介だったが、準備していたセリフに、発表時に決められた、入りたい部活や高校生活での抱負を適当に言い席につく。


「……そうか、天草は〇〇県から来たんだったな、まだ土地にも慣れていないだろうから、みんな助けてやってくれ」


「ありがとうございます。今日からよろしくお願いします。」


教壇で仕切るのはクラスの担任であり、社会の教師でもある早乙女さおとめすすむ

可愛らしい名字の割には、かなりごつい教師である。


その後30人いるクラスメイトたちが続いて発表していく。

男女の割合で言えば、およそ8割が女子生徒である。


もちろんこれもモテる為に選んだ高校である。

2年前までいいとこ出身の女子学生が入学する女子校であり、偏差値の高さと未だに残る偏見により共学になった今でも、女子学生のほうが圧倒的に多い。

しかし、ここでならモテ放題であると確信した俺は迷わず入学した。


これからのワンダフルな生活に、ニヤニヤしながらクラスメイトの自己紹介を聞き流していると、聞き覚えのある声がクラスに響く。


桜町さくらまち琴音ことねです。よろしくお願いします 」


その自己紹介を聞き思わず振り返る。

俺は彼女を知っている。

その美貌は中学生の時から更に磨きがかかり、女優顔負けのプロポーションにモデル級の容姿を兼ね備えている。


先程まで騒がしかったクラスも嘘のように静まり返る。

みんな彼女に見惚れてしまっているからだ。


しかし、俺の心境はそれどころではない。

もちろんモテることが大前提だが、その次の理由は彼女から逃れるために、わざわざここに来たのだ。

地元の周りにもいくつか高校がある中、わざわざひとり暮らししてまで県外の高校を選ぶやつなんていない。彼女どころか同じ中学のやつは一人も来ないだろうとたかをくくっていた。


それがまさか彼女が来るなんて……。

どこで情報が漏れたのか。


そんな心境を裏腹に彼女の自己紹介も佳境にせまり、最後に一呼吸をおいて締めの挨拶。


「最後に…私は天草くんの彼女です。彼になにか話しかけるときは私を通してくださいね」


と、綺麗な声で締めくくった。


……最悪だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る