『皇太子レヴェータと悪霊の古戦神』中 ~元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。第11章~
よしふみ
第三話 『星が躍る海で』 その1
―――光が見えた。神秘的なものでもなければ、抽象的なものでもない。窓から差し込む夏の日差しに目を覚ましただけのことだ……。
『化粧した牛/イージュ・マカエル』との邂逅は時間切れのようだな。それなりに情報を得られたから、良しとしようか。
あの漁師の老人のことを知れたのは素直に嬉しいことだと感じられるし、『白獅子』を『強さ』の象徴としてガルフ・コルテスが選んだ理由にも触れた気がする。国が滅んでも歌は続いたか。
興味深いことだったよ。
士官用のベッドの中で、腕と脚を思い切り伸ばしていく。睡眠中にこわばってしまっていた関節が音を立てた。昨日は早朝から動き過ぎていたし、何とも濃密な一日であったのは事実だからな。『白い獅子/パンジャール』の名を冠する我々でも疲れるのさ。
天井を見る。
夏の朝の良いところは、ベッドの囚われでいる時間が短く済むことだな。日がずいぶんと高く昇ってしまっているせいで、この部屋の室温もかなり暑くなっている。眠気はちょっとだけ残っちゃいるんだが、問題なくベッドから体を起こすことが出来たよ。
健康的な体をしているせいか、寝起きであっても腹が鳴る。
「腹が減っちまったな……」
竜太刀を手に取った。竜鱗の鎧を着ることはしなかったが、戦士として鋼を携えて歩きたい。とくに、『虎』たちの砦の中ではな。無防備な姿を見せることは、彼らからの尊敬を弱めかねない。
……オレたちは政治的にややこしい状況にいるのは、一晩眠ってしまっただけでは変わらないさ。むしろ、悲惨な状況への認識が深まっているだけに、誤解は可能な限り避けるべきだ。『強さ』を見せる。それが好ましい環境のままだった。
ドアを開ければ、血と霊薬のにおいが漂ってくる。『帝国軍のスパイ』による襲撃で、砦の戦士たちは損害を負ってしまった。残念なことに、王国軍内にいる内通者がこの被害を招き寄せたのだ。
……これから、そいつを狩ることになる。『罠』が上手く機能すればいいがな……。
「サー・ストラウス!!おはようございます!!」
『虎』の戦士が駆け寄って来て、敬礼と共にあいさつを捧げてくれたよ。
「ああ。おはよう。オレたちを守っていてくれたか」
「は、はい!!サー・ストラウスには不必要かもしれませんが……」
「いいや。おかげで安心して眠れた。すっかりと寝過ごしてしまったがな」
「多くの任務をこなされていたのですから、十分に休んでいただくべきです」
「他の猟兵たちは?」
「皆様、起床されております!!」
「オレが最後か」
「は、はい!!」
寝坊しちまったようだ。リエルもロロカ先生もカミラも一緒に寝ていないからな。彼女たちに起こされなければ、オレは寝起きが悪い方になっちまう。
「お食事の方は、ご用意させていただいております!!こちらにどうぞ!!」
「……シアンはその場にいるか?」
「おられると思います。『虎姫』さまが起きられたのは、十数分前ですから」
「どやされずに済みそうなタイミングだな」
「え、ええ。きっと、大丈夫ですよ。さあ!こちらに!!」
若い『虎』に案内されて砦を進む……すれ違う戦士たちに敬礼とあいさつを捧げられたな。こちらもあいさつを返しながら、彼らの負傷の具合を目視していく。魔眼の力も伴えば、負傷の度合いは医者の診察に近しいレベルで把握できた。
動いて警備についている『虎』たちでさえ、軽傷とは言い難い傷を負っているな。ククリの錬金薬作りの技巧と知識が、この砦は大きく役に立っているようだ。
「ククリはもう動いているんだな」
「はい。ククリ殿は、朝から錬金薬を作ってくれました。彼女の作る薬は、本当によく効きますよ。すごい妹さんをお持ちですね、サー・ストラウス」
「惚れてもいいが、告白とかはするなよ」
「も、もちろんです!!」
……兄貴分だからといって、余計なことをしているかもしれんな。ククリに言い寄る可能性がある男を排除するなんてのは……いやいや。それでいいのさ。戦場にいる男は手が早い。ククリも恋愛などに免疫もないはずだから、兄貴分が守ってやる必要がある。
自分の心配性にそんな理由をつけて納得したよ。こういう態度も別に間違っちゃいないだろ?我が四番目の妻、ジュナ・ストレガよ。オレは君の分まで、妹たちの人生を守る必要はあるに決まっている。
「……も、もちろん、ククリ殿が魅力的でないというわけではなく、とても美しい少女であられますが……そ、その、自分などではお相手としては相応しくないということでして!?」
「マジメな青年だな、君は」
ハント大佐の選んだ連中は『虎』の中でもマジメな人々が多いのかもしれない。貴重な人材を、昨夜、死なせてしまったわけだ。昨夜、彼らに誓ったように。裏切り者を近いうちに斬り殺してやるさ。
残酷な笑みを浮かべるのと時をほとんど同じくして、廊下の先に黒髪を赤いリボンでポニーテールに留めた美しい乙女が姿を現した。我が愛する妹分、ククリ・ストレガだったよ。
「あ。ソルジェ兄さん、おはよう!!」
「ああ。ククリ、おはよう。寝坊しちまったようだがな」
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