第46話 魔剣士の里
顔見せは、上手くいかなかったが状況の報告と、両親に無事を報告出来た事については、満足できていた。
今日はもう時間が遅く、宿の手配はできなかったため、野宿となってしまった。
焚火の明かりを前に二人肩を寄せて1枚の毛布にくるまって話をする。
「御父上には悪いことをしたね。また次の機会に顔を出すことにしよう。」
「もう、行かなくていいです。私自身の事ですから、解っていただかなくても大丈夫です。」
「まぁ、そう言わないでよ。次の機会にね!」
「気を使っていただいてすみません。」
エルセフィアは左腕を右腕に絡めて寄りかかる。
最近はようやく痩せすぎの状況から抜け出し、以前のような柔らかい女性らしい身体に戻りつつあった。
エルシードは右腕に暖かく柔らかい感触が伝わってきて照れてしまうのだ。
「そうだ、エルセ!君の魔剣士の師匠に合わせてほしいんだけど。」
「いいですよ、明日行ってみましょうか?本当はタイラー師匠に、主様の配下に入った事を報告しないといけなかったんですよ。」
「それって、怒られるんじゃないの?」
「主様のところだから大丈夫じゃないかな。」
今回、魔剣士の師匠訪問の目的は、開拓地にいる兵士達で才能がありそうな者達をここに送って修行させてもらおうと考えているのだ。
「うーん、確かに主様が教えるってなると、私が一緒に過ごせる時間が減るから、任せるのは賛成です。」
「なんだそれ・・・でも、冗談が出るくらいには元気になってくれたね。よかったよ。」
「私、主様と一緒なら野宿でも好きですよ。こうやって身体を密着させて~、ほら、あったかいでしょ?」
もうデレデレである。そして、静かによるが更けていくのだ。
今は廃墟に見える砦跡。エルセフィアは中に入っていく。
「タイラー師匠、エルセフィアです。今戻りました。」
「おっ生きていたか?裏切者め!」
「いいえ、裏切ってなんかいませんよ。本来従うべき主に付き従っているだけですよ。」
「うん?そいつは誰だ?」
「驚いてください。アルカテイルの王子ですよ。」
「ほー、本当に生きてたんですな。って信用できると思っているのか?」
エルシードは、ゆっくり前に進み出る。
「ほお、ではお手合わせ願いましょうか?」
《キュキュッ》
一瞬にして間合いが重なる。
《キュイン キン カキッ キキリッ》
数合剣が交わされる。
タイラーは少し離れると、身体強化と剣に風の刃を付与する。
エルシードはそのまま、強化なしで迎え撃つ。
《シュン シュシュン フィン》
風を纏っ刃はエルシードを攻め立てるが、連続して放たれる閃空刃が、風の刃を弾き飛ばす。
空間転移でタイラーの斜め横に転移、鋭い剣劇を撃ち込み、直ぐに反対側に空間転移で移動して空間振動を付与した剣撃がタイラーの剣を跳ね上げる。
「ぐっ」
タイラーの剣が腕を離れ弾き飛ばされた。
「僕の勝ちでよろしいですか?師匠。」
「なるほど、本物の魔剣士ですね。ただし私の知る魔剣士とは違うようですが・・・」
「初めまして、エルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイルと申します。」
「私はタイラー・メリクリウスと申します。お会いできて光栄です。」
「タイラー師匠、遅れましたが、師匠配下の7人の魔剣士は私の配下になり、ドアルネスはリカーム城で預かっております。」
「そうか、全員無事だったか。」
「初めは主様とエリア様に負けちゃったんですけどね。配下になるようにお薦めいただきまして、同郷の誼もありますので、そのまま傘下に入ってしまいました。」
「仕方のない奴らだな。連絡もよこさずに・・・」
「申し訳ありませんでした。」
「しかしどういう事ですかな?主殿は左腕がないようですし、お供がエルセフィアだけとは?」
「実は私が原因で我が軍で不和が起こりまして、その被害が酷かった、私とエルセで一時的に居城から逃げてきたんです。」
詳しく説明を行う。
「ほー、エルセフィアはそんな積極的でしたかな?まさか、側妃とはいえ、伝説のアルカテイルの王子と婚約してしまうとは・・・」
「お恥ずかしい限りです。」
「エルセフィアはいい子ですのでよろしくお願いいたします。」
「はい、こちらも大変助かっていますので。」
エルセフィアは頬を赤くして、エルシードの後ろでマントを握りしめてうつむいている。
この後の交渉で、アルカテイル兵の一部を魔剣士として訓練する事に協力してもらえることになった。
「お待ちください、お父様、私もご紹介願えませんでしょうか?」突然タイラーの後方から、一人の少女が現れる。
「うん?なんだ?おまえ何かあるのか?」
「私はタイラーの娘でパルシェ・メリクリウスと申します。先ほどの手合わせを見せていただき、私もエルシード様に御師事いただけないかと思いまして。」
「あーごめんね。今取り込み中で暫く城には戻らないんだ。」
「別に渡航中でも師事いただけるのでないですか?」
《ぽかっ》
「新婚の邪魔するな!」
「で、ではお待ちしていますので、その節はお願いいたします。」引っ込んでいく。
ほどなく、交渉も成立して次の目的地へ移動していくのであった。
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