第26話 戦略会議


 天界は現在、実働ができる大天使が少なくなり、直ぐには襲撃できない状況になっていた。


戦況から勘案する限り、12天使以下の天使では、堕天使の魂を持つ魔剣士や大天使と融合した魔導士を追い詰めることは難しい。


現状では、眠りについている2柱の天使の復活を早める作業と、聖戦に意思を表明しない大天使1柱に対する懐柔を急ぐしかなった。


**********


 新しい城での生活は、混沌とした中で始まった。


エリアは麻薬服用の影響から、エルシードから一時も離れられない。


行動範囲も限られており、次の天界の襲撃に対しての対策などはなかなか立てられないでいた。




 ようやく天界の襲撃に対する対策を検討する会議が行われたのは、服薬騒動の1週間後であった。


現状で天界の聖戦を支配する戦力は4柱の大天使・災害級の魔獣千体・天使兵10万といったところである。


一方、我が軍は、エルシード・エリアリーゼ・ルフェリアの大天使に匹敵する戦力3人に、7人の魔剣士、アルカテイル兵6万である。


かなり戦力は拮抗しつつあるが、おそらく総力戦では不利になるだろう。


もう1人でも、大天使級の戦力が欲しいところなのであるが、これ以上の天使の懐柔は難しそうである。


他に戦力になりそうな人材といえば、エルシア王国の最南端に、時空読みの魔女がいる以外は、ミリスの北にあるレナス砦を拠点にしている最上級魔族、俗にいう魔王が一人いるのが確認されているのみである。


戦力を増やす方向で、話を進めているが、エリアの中のメルティゼロの意見としては、むしろ天界の戦力を削ぐ方が有効ではないかという事である。


天界に、攻め込んで大天使を叩いて来るという事である。


上手くすれば、こちらの戦力は、減らさずに、12天使を1柱でも減らせれば、かなり戦局は有利になると見ているのだ。


ただし、天界に攻め込むという事は、神に反逆する事と等しい行為であるため、信仰深い国民からは、批判が出る可能性が高いのだ。


やるならば、エルシードとエリアリーゼだけ、神への反逆者として切り離して、攻め込ませるかどうかである。


これをやると、二人はもう人の世界には戻って来れないかも知れない。


「別に僕は、国王である必要はないし、エリアと静かに生きて行ければ良いだけなので大丈夫ですけどね。」エルシードは、アッケラカンとしている。


「だめです。主様には、ちゃんと偉くなってアルカテイルを治めて貰わないと・・・主様に濡れ衣を着せるなんて許せません。」エルセフィアは、必死に反対する。


「私はエルと一緒ならそれでいいよ。」


エリアリーゼは、後遺症から虚ろな瞳をして、エルシードの胸に顔を埋めていたが静かに呟く。


「まぁその判断は、魔女さんと、魔王さんの懐柔に失敗したらという事ですね。」アスファは話を閉めた。


「あと、皆んなに伝えたい事があるんだ。」


エルシードは、すこし落ち着かない様子で話を続ける。


「先の話しなんだけど、僕はエリアと結婚した後、エルセを側室に迎える事にしたんだ。」


周囲が目を丸くして驚いている。


「そ、それにしても、よくエリア様が了解しましたね。」アスファは、呆れている。


「エルセにだけには、少しだけ分けてあげる事にしたの。エルセも好きだから、仕方ないなって・・・」


エリアリーゼの張りのある艶やかな唇が言葉を紡ぐ。


「それに私が先に死んじゃったら、エルを支えてくれる人が居なくなっちゃうから・・・」


周りが鎮まりかえる。


エリアリーゼは、続ける。


「また、私を守れなかったって・・・壊れちゃうと思うから。エルセなら、きっと助けてくれると思うから。」淡々と紡ぎ続ける。


「お任せください。命にかえましても、主様を孤独の中に置き去りにしたり致しません。」


エルセフィアは、大粒の涙を溢しながらエリアリーゼの前で膝をついて誓っていた。


エリアリーゼもまた未来が決して明るくないと知っているのだ。


アスファは、自分の呆れた表情を悔いた。


呆れた自分よりずっと重い役目を彼等は、背負っているのだ。


エルシードも静かにエリアリーゼを抱きしめていた。

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