第12話 天使と悪魔

本日は午前中から、登城の日である。


「今日はあのペンダント外そうよ」


「いや、気に入ってるからこれで行く。」

完全に自分で決めている様子。


真っ白いドレス。未完成ながら成長中のきれいな肢体が、美しい女性をアピールする。


自分も見劣りはしないように頑張って着飾ってみる。


黒に深い青のスプリット、アルカテイルの歴史の色合いだ。魔道騎士の団長色の深い赤の紋様が左肩と左胸に飾られる。


ピアスは外そうとするが、エリアがそれを許さない。


なぜか黒々と光る黒曜の光は、エリアとは対照的だ。


エルセは、貴族御用達のドレスでも、若草色にやわらかい黄色の2色刷りのドレスだがアクセントは黒でサイドを締めている。昨日プレゼントしたエメラルドの髪留めも使ってくれており、ドレスと調和している。


彼女のセンスの良さがよくわかる。


もう少し見ていたいが、やむを得ず準備が完了する。


**********


通りで多くの往来が、3人を見つめる。


特に本当に輝いて、地面から浮いているエリアリーゼは、歓声を浴びるほどの人気だ。


入城してしばらく長い廊下を歩く。


歴史を感じる調度品は、戦乱にかまける自分たちに格の違いを見せつけてくる。


動じていないのはエルセフィアだけだ。


そしていつの間にか玉座に到着。

心の準備もないまま、玉座に通されてしまった。


**********


3人が玉座の間の中央を歩く。


ルーセリアでは異色であるが、確固たるアピールはあり、周囲の貴族や王族の目を引く。拍手が起こる。


「ドラウネスの使者よよく参られた。顔を上げられよ。」


王のやわらかい声が響く。


「アースラム・ジル・スタグナス・ド・ルーセリアである。」


「ありがとうございます。私は、エルシード・ファン・カルシエル・ド・アルカテイルにございます。お初にお目にかかります。早々に謁見の場を与えてくださいましたこと心より感謝いたします。」


「エリアリーゼ・ウル・カルラム・ティアノーラ・フォン・アルカテイルにございます。」早速、婚約者であるアピールは欠かさない。


「エルセフィア・ウル・メイナス・ヴァルセリアにございます。」

挨拶は終わった。


交渉に入る。印象は悪くない。


交渉内容よりはむしろそのあとの会話の方を楽しみにしている様子だ。


「ドアルネスには、ルーセリアに対して翻意はございません。ただミリス帝国の要請に動じ、弱き正しきものに覇道を歩ませていただきたくない故ご理解いただきたく存じます。」


「うむ、我々は正しきものの味方である。意味もなく戦争を大きくしようとするのが、ミリスなのであれば、我々はそなたらの味方であろう。」

微笑ながらウインクしてくれた。完全にくだけている・・・


「では、同盟は了承していただけるのでしょうか?」

ルーセリア王は頷く。


「伝説の魔剣士殿と美しき天使殿の願いとあらば・・・」


「???」


「交渉は終了じゃ、直ちに宴と参ろうではないか!皆の者!!」

王は楽しそうだった。


「昨日のお話は聞きましたぞ。ここへ参られる前に、当国の神器をすでに手に入れてまいられたとの事。城下では大変な騒ぎになっておられましたな。天使が降臨したと・・・」


「いや、神事には疎い我が国では、何をどうお答えしてよいか存じ上げません。」


「はい、でもこのペンダントをもらってから、体が常に暖かくて、切なくて、自分でも光っているのがわかるんです。王様?これって何ですか?」


「これは、神の祝福じゃ。エリアリーゼ殿、あなたは選ばれたのです。過去に選ばれたものがいたというのは遥か昔の話、覚えているものも今はいない昔です。認められないものには何の反応もしないはずの神器・・・今はあなたに会えたことを喜んでいるように・・・見なさい!この神々しい光を・・・」


「エリアリーゼ様、エルシード殿下には、その力と正義があるのでしょう。ならば、ドアルネスではなく、私たちはあなた方に従いましょう。」


**********


場も落ち着いてきた頃、


「では、大聖堂にもご案内しましょう。天啓が下りると思いますので。」


「では参ろう。大神殿へ。皆の者厳かに従うべし。」


エリアリーゼを先頭に左右には、教皇と聖女、後ろにはエルシードとアースラム王の隊列で大聖堂に進んでいく。


大聖堂の扉が開くと、開き始めた扉の隙間からすでに大量の聖光が漏れ降りかかってくる。確かに尋常じゃない。


扉が開き中に進んで行く頃には、眩しくて目が開けられないほどになっている。


そして神前についたエリアは手を組み膝をつく。


一瞬にエリアの両腕に光の腕輪のようなものが装着される。


ペンダントの光と合わさりさらにまぶしい。

光が降りてくる。


「本当に天使の降臨だ・・・」


そして、その光はエリアリーゼの中に重なり消えていく、そこには眩しい大きな2枚の白い羽根を持つエリアリーゼが立っていた。


なんでだろう、胸の中から湧き出す力が抑えられない。


エリアの深い青色の瞳に涙があふれてくる。


何も言わずエルシードが神前に歩み出て、ぎゅっとエリアリーゼを抱きしめる。


思わぬことが神前で起こる。


憑依されたエリアが驚くことを告げはじめる。


「あーやっと見つけた・・・」なにを言っているかわからない。


「この天界の使徒である私をだましたのね伝説の魔王アルシオン。やっと見つけた。」


その凛とした表情でエルシードを見つめる。


続いてエルシードのつけている黒いピアスからもつややかな青黒い光が周囲を照らし出す。


「久しいな、原始の戦神メルティゼロ・・・変わらず美しいな。そして恐ろしい。」


エルシードも憑依されている。


メルティゼロは続ける。


「天界の掟をないがしろにしてまで、この地でそなたの気まぐれに身を任せたのだ。代償はそなたの命であろう。そして今度こそ永遠を・・・」


二人は戦い始めてしまった。


ステンドグラスを破り外に飛び出す2神。


空中でものすごい威力の稲妻が何条も縦横に走る。


黒い光を振りまく剣を振りかざし、稲妻を凪いで四散させる。


アルシオンは、メルティゼロの赤い電撃結界に捕まるが結界を黒い一閃で切り裂き離脱する。


「なぜ私を置いていった!!」まるで泣いている少女だ。


「すまない。負けたのだ天界に・・・」


「お前が負けるはずはない。ならば、なぜ私を呼ばなかった。いっしょに来いと言わなかった?」


「消えるのは私だけでよかったからだ・・・」天使は泣いて動けなくなった。


「ゼロお前は生き続けるんだ。俺は死んだ。神の一撃は俺の復活を許さない。」


過去の天魔大戦の思いを告げる。そして続ける。


「長い間、閉じ込められていたが、やっと力のある依り代を得た。」


「今使っている器は良い。強く暖かい。ここで権原することで、またお前とともに過ごせる時間はあるものだろうか・・・」 


「一緒になれるのか?ならば私もこの器に溶け込もう。もうお前の魂と離れなくとも良いように・・・」


空中で光と闇が交差する。


スケールの大きなドラマが王都ルーセリアを駆け巡っていった。


**********


数千年前に、天と地が交わりすべてを巻き込んだ大きな戦争が起こった。


天には多くの神々が力を奮い、大地には堕天使と地に落ちた天界の涙があった。


そんな悲しい戦争の中で、堕天使を愛した天使がいた。


砕け散っていく希望の中でただ一人、誰よりも前に立ち、戦い続けた天使はたいそう神々を恐れさせた。


しかし、別れはやってくる。


堕天使は最後の力をもって一人天に立ち向かい大罪を清算した。


最後の願いは聞き届けられ、傍らにいた天使を天に返すことができたはずだった。


しかし、帰ったはずだった天使は、泣きながら地上を飛び回り続けた、それは今も飛び続けていた。


彼の姿を探して。


そして今、奇跡的に手に入れられた2つの神器によってふたたび巡り合う。


その依り代として選ばれた、エリアリーゼとエルシードはその神の力と悲しみを背負って一緒に歩み続けることになったのだった。


後日、アースラム王は、二人の手を握り

「英雄よ、自由に生きろ!神の御心は、そなたたちとともにある。」

そう告げて、王都から送り出したのだった。

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