第174話 どんぐりのネックレス



「しかし、なんでスワンボートに乗れないんですか?」


どう考えても可笑しいな。


今日は天気が良い。


湖を見ても特に波打っている雰囲気は無い。


実に暖かく、こういう日は水場が気持ち良い位だ。


それなのに、何故ボートに乗れないのは可笑しい。


「それが、水神様が湖の底で暴れているらしく、それが原因で船を出すのを止めているんでさぁ」


「それじゃ、遊覧船も?」


「遊覧船も危ないから、だしてませんな」


水神?


水神ってなんだ…聞いたこと無いな


「水神ってなんでしょうか?」


「儂らもわかんねぇ~! ただ、この湖の中に巨大な生物がいるのは間違いはねぇ~んだ! 儂らの間ではレジェンドの水竜じゃないかと思っているだが…」


永い年月を生きた水竜か。


なら、簡単だ。


竜公である俺が頼めば一発だな。


「セレスくん、折角の湖だけど、諦めるしかないわね」


「折角、リゾートできているんだから、討伐は止めておこう」


「そうよ、セレスさん、一応『神』って呼ばれているみたいだしね」


「セレスちゃん行こう!」


俺は湖に対して思念を送ってみた。


同族であり、その頂点に近い俺からの思念なら、普通は何かしらの反応がある筈だ。


だが、無い。


なにかが可笑しい。


「そうだね、湖で遊べないなら、他に行くしかないか」


ちょっとだけ、寂しそうな4人と一緒に俺は湖を後にした。


その後、俺達は、コハネの森美術館や、川魚の釣り堀に行って一日を過ごした。


川魚を釣って、塩焼きにして食べさせて貰ったのだが…


「セレスくんに良く…焼き魚貰ったわね」


「そうだよね! よく考えたら、あれもプレゼントだよ」


「そうね…うふふっ、お魚に木の実、他に焼き芋、懐かしいわ」


「セレスちゃんは手先が器用だから、どんぐりのネックレスとか子供ならではのアクセサリーも貰ったわ、今も宝物にしてとってあるわ」


「そうね、私もあるわ、子供時代のセレスくんから貰った…嫌だ私ったらセクトールに憎しみが沸いてきたわ…うふふふふっ、やはり殺しちゃおうかしら?」


静子の顔が急に曇り、ドス黒い笑みが浮かんでいる。


「ちょっと、静子!どうしたのよ!」


「どうしたもなにも…私奴隷として売られた時に家の荷物も処分されたから、セレスくんに貰った物、全部捨てられていたわ」


「ちょっと待って! 静子さん…また作るから…ね」


「そうよ、またセレスちゃんに作って貰えば良いのよ、ねぇ!帰りにどんぐりを拾っていって…」


「うふふふっ…だけど今思えば…あの時にもネッツクレス貰ってた事になるよね…今思えば、あのどんぐりのネックレスの時にも『意味』を知ってくれていたのよね! セレスさん…」


「そうよ…あの時….『好きです!結婚したいと思っています』そうセレスくん言っていたわ! やはり、セクトールは…」


「…」


「まぁまぁ、静子、昔の事だよ、気にしなくて良いじゃない」


「そうよ」


「…」


「そう言いながら、何故かミサキとサヨが、にやついているのが気になるけど、まぁ良いわ!気にするのは辞めるわ!どうしたの? ハルカ、さっきから黙っているけど…顔怖いわよ!」


「…貰って無い」


「「「はい?」」」


「私、セレスから食べ物とか貰った事あるけど、どんぐりのネックレスなんて貰ってないわ!どういう事かな?セレスー――っ」


「痛い、いたわわぃよー-っ」


ハルカに頬っぺたをつねられた。


「姉さんだけ除け者にして…どうしてなのかな? そこの所しっかり説明してくれるわよね!」


「姉ひゃん、いたい、いたい…はなふから離して」


子供の時からの刷り込みのせいかハルカの攻撃はかわせない。



怖いな…刷り込み。


「そう? 納得いく説明宜しくね…」


何時も可愛らしくて綺麗なハルカが物凄く怖い笑顔でこちらを見ている。


マモンより…怖い。


「だって、あの頃の姉さんはカズマ兄さんと付き合っていたじゃない? 流石に、おもちゃでもネックレスは不味いでしょう…」


「あれっ、そうだっけ?」


「ハルカ、酷いわ!セレスくんが可愛そう」


「そうよね!セレスさんからしたら濡れ衣だわね」


「これは、完全にハルカが悪いわ」


「ううっ、セレス…姉さんが悪かったわ」


「別に良いよ…気にしないから」


「そう…ありがとう」


怒っているハルカも、凄く可愛いと思えるから…全然気にならないな。



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