第89話 【閑話】俺の居場所が無い街②
父さんの言う『出来るだけ早く』と言うのは今すぐという事ではなく『住み着くのは駄目だ』という事だった。
「とりあえずは1か月位は居ても良いからな、家が欲しいなら村長に話をつけても良いぞ…」
「まぁ考えさせて貰うよ…」
父さんはチワさんが寝た後、母さんとの経緯について話し始めた。
相変わらずのクズだと思ったが、まさか自分の妻まで売り飛ばすとは思わなかった。
セレス達が口籠っていたのはこれか…
今更、責めても仕方が無い。
今現在、母さんはセレスの妻になって幸せだし、あるべき姿になったという事だ。
そう言えば
『僕、静子おばさんと結婚したいな』
そうセレスが言った時に
『そうか、セレスお前が15歳になる頃には彼奴は良いババアだ…そうだな金貨1枚で譲ってやるよ』
そんな話を聞いた記憶がある。
歳とって飽きた妻を若い男性に譲るのは村社会では可笑しくない。
特に嫁不足が深刻な村では良くある話だ。
※ これは本当に大昔にあった日本の一部の村の風習から書いています。
まぁ、なるべくして、ああなった、それだけだ。
まさか本気とは思わなかったが。
今現在、俺の父さん事セクトールはセレスに助けて貰い嫁迄世話して貰い…頑張っているそうだ。
土地を開墾してかっての2/3位の土地を新たに手にしてやり直しているとの事だ。
「俺は浮気を止めてチワ一筋だ…良い女と酒と仕事、俺はそれだけで幸せだ」
そう笑う父さんの腕や顔には凄い引っかき傷があるから…こうなる迄が大変な道のりだったのかも知れない。
セレスは凄い奴だった。
あの状況で、村にせっせと仕送りをし、そのお金を元に村は開発されていったそうだ…しかもセレスが『英雄』となった事で領主がお金を出し開発が進み、セレスの活躍から『英雄の故郷』という事で、今では観光収入まであるらしい。
「あいつ、すげーな」
「それだけじゃない…まぁ小さい頃から好きだったんだろうな…幼馴染の母親全部と婚姻だ」
「それは、知っているよ」
ハァ~まさか本当にマザコンでババコンだったとはな…
あれは本当にハーレムなのか?
確かに元は皆美人だよ…
だが、皆、30歳前後のババアだぞ!
確かに俺達の母親は綺麗なのかも知れない。
マリアーヌ王女もセシリア様もフレイ王女も確かに美人だ…
但し、俺から言わせると『綺麗なおばさん』だ。
ここぞとばかりに、問題のある行き遅れや出戻り女を押し付けられた様なものだ。
同じ事を自分がされたらきっとキレるぞ。
だが、彼奴は幸せそうに笑っていた。
確かに彼奴は幼い頃に母親を亡くして、俺の母さんを良く見ていた。
そうか…何でも出来る彼奴の最大の欠点。
それはババコンでマザコンだった。
そう言う事だな。
『何で俺は忘れていたんだ』
小さい頃から、そういうシーンを何度も見ていたじゃないか?
早くその事に気がついていたら、先に俺が母さん達とセレスを取りもっていたら…全てスムーズだったんじゃないか?
※この世界の人族の寿命は50歳~60歳 村社会では嫁不足等の要因から配偶者を若い男性に譲る事がある世界です。
※昔の実際にあった風習から書いています。
母親の愛が欲しかった思慕の心が、そうさせたのかもな。
言い方は悪いがあんなババ…おばさんが若い男に財産や地位目立てじゃなく、本気で愛されるんだ…可笑しくもなるか。
あの母さんの顔…母親の顔じゃなく完全に『女』の顔をしていたな。
「ちゃんと、しっかりと皆に話をつけて貰い受けたんだ…寝取ったりしたら問題だが、村のルールや作法に則って貰い受けたのに…老後が困るだろうと、村長達ばかりでなく俺達全員に代わりの若い嫁を買ってくれたんだ…他の皆は兎も角、俺は静子を奴隷に売った男だ、凄く申し訳ない気持ちになったよ」
この掟は昔、村が貧しかった時に、女性が少なく『嫁不足』が起きた時に年配の女性を『若い男が結婚も出来ず性的に辛いだろう』という理由で譲る事から出来た決まりだ。
30歳にもなれば普通は女として終わっている。
(※寿命が50歳から60歳の世界観です)
だから、謝礼は本当に微々たるものだったらしい、また幾ら女不足でも10代の若い男がババアと暮らすのは辛いらしく…使われた例は少ない。
粗暴な若者で嫁のきてが無い男で1~2回使われたという話しか聞いた覚えが無い。
『30歳位のおばさんを貰って10代の若い女性の奴隷を代わりに渡す』
そんな奴は彼奴位しか恐らくいないんじゃないか…
「セレスのはババコンやマザコンでも行き過ぎている気がするな…」
「多分、彼奴のはそれじゃねーような気がする、彼奴はこの村や…そうだな思い出が好きなんだよ…多分、その証拠に、こんな最低な俺ですら手を差し伸べてきた…俺から言わせたら英雄よりミスタージムナ村だよ」
そうか…確かにそうだ。
「そうだな…」
「それでゼクト…お前もセレスに助けて貰ったクチだ、セレスの為に村の発展に力を貸すか?」
「確かに恩もあるが、それは別の事で返すつもりだ…」
「そうか…お前の決めた道だ、頑張れよ!」
あのセクトール父さんが随分真面になった気がした。
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