第87話 黒竜と




俺は今、酒場で黒竜と一緒に酒を飲んでいる。


街をぶらついていたら見つけたので声を掛けた。


丁度、相談したい事があったから丁度良い。


「なんだ急に!」


「いや、どう考えても運が味方していると思えないんだが…」


俺は疑問に思った事を黒竜に相談した。


「お前自覚が無いのか? まず、俺が此処にいる奇跡…考えてもみろよ、俺は竜の国ドラゴ二ウムに何時もいるし、人間側の国にきても何処にいるか解らない…俺に会える確率がどれ程低いのかをな」


言われてみればそうなのかも知れない。


近くに住むのなら兎も角この世界の何処にいるのか解らない人間にピンポイントに会うなんて確かに凄い確率なのかも知れない。


「確かにそうだけど…」


三人との婚姻について相談した。


「まぁ、これは俺の仮説だが、お前、本当はその三人好きなんじゃねーのか?」


確かに美人だと思ってはいたが、それだけだ。


「いや、会った事も無いんだが…」


「竜である俺には理解できないが、その三人は人間の間では随分と美人だったそうじゃないか? 無意識のうちに『あんな人と結婚出来たらな』とか思っていたんじゃねーのか? それが叶ってしまった…そういう事じゃねーのか?」


そんな事言われてしまえば『肖像画を見て綺麗だ』『謁見の時にチラ見して、こんな綺麗な人と生活出来たらなぁ~』位は思ったかも知れない。


だが、それは前の世界でアイドルを見て『良いなこの子』そう思うのとなんだ変わらない。


「そんな事で発動してしまう物なのか?」


「『黄竜の運』は凄すぎて自分でも制御できない、他人もな…全力でお前の思いのままにしようと運が動く、だから厄介なんだ…加護を押さえるというアイテムですら伝説級の神具なんだ、黄竜の力なんてバウワー様や人間の女神でも押さえられないからな」


「そこ迄の物なのか?」



「考えても見ろ、お前が幼馴染とやらの『安全』や『魔王と戦わない生活』を望んだら…魔王が譲歩してあっと言う間に停戦だ」


「それは、俺が怖いからじゃないか?」


「そうか? それだけじゃないだろう?人族を守護する女神ですら、勇者のジョブを与えて戦う事で均衡を保つ事しか出来なかったんだぜ、それがお前が幼馴染が戦わせたくない…そう願った途端に停戦だ…女神が数千年出来なかった事が簡単に実現しちまった」


「いや、だが幼馴染がな…」


「それもお前の『心の底』の願いじゃねーのか? 妻としてじゃなく娘として手元に置いて置きたいとか思っていたんじゃねーのか? 『特にリダとか言う奴、小さい頃からの知り合いで親友として傍に居て欲しい』そう願っちまったんじゃねーのか? 竜には無い感情だが人の親は娘を嫁に出す時泣くらしいじゃあねーか」


もしかして…俺は…そんな事を…否定できないな。


「そうなのか?」


「良く考えて見ろよ…お前の周りには小さい時から『傍に居て欲しい』そう思った女が全部居て…憧れた女が向こうから舞い込んで来た…そして魔王と戦わないで良い平和な社会が作れてしまった…幸運以外の何物でもないだろう?」


言われてみれば、納得してしまうな。


「確かにそうなのかも知れないな」


「ああっ、お前、変な妄想に気をつけろよ! 本当に不味いんだぞ」


「妄想とは?」


「例えばよ…大きな事だと、そうだな『女神と結婚したいとか?』 小さな事だと『その辺のチビにこの子みたいな可愛い子が娘だったら』だな…どうなるかはお前でも解るだろう?」


「はははっチビの話は兎も角、女神は無いだろう」


「ハァ~お前のその能力は俺の一撃ですら勝手に消した…バウワー様なら兎も角、人間の女神じゃ逆らえないかも知れない…これは冗談じゃない、本当に気をつけろよ…お前が家に帰ったら『お迎いに参りました、ご主人様』とか言って女神が笑っていたらどうするんだ?」


本当に不味いな…


「そういえば、俺の人生は随分波乱万丈だと思うが…どうして『どうしようもない退屈な膨大な時間を過ごす事になる』んだ」


「努力しないで何でも手に入る…それが永遠に続くんだぜ、俺ならまっぴらごめんだな! 金や女地位に財宝、楽して手に入っちまったら価値なんて無くなる…これからの人生、いや竜生ダイヤは石ころと同じ、全ての女は娼婦と同じで簡単に手に入る、財宝も銀貨1枚の絵と同じで簡単に手に入る…まぁいつかは気がつくさぁ…それじゃあな」


そう言うと黒竜は金貨1枚置いて出て行った。


黒竜のいう事は解った。


だが、どうしようも無いなら、今の生活を楽しめば良い。


それだけだ。




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