244話 ビーストキングダム




 獣王城ビーストキングダムへと向かう馬車の中、俺は別動隊として俺たちのフォローに回っていたアルカ及びルークより連絡を受けていた。


「なるほどね。やっぱ、帝国の奴らが手を出してきたか……」


『ええ、それを想定して網を張っていたのが幸いしました。交戦したのは、聖術士と聖機士を名乗る者たちです。あ、聖機士の“き”は、機械の機みたいですね』

『嫌な奴だったけど、凄かったよー。全身がナノマシンだったんだー。嫌な奴だったけど』


 何それ、凄い気になるんですけど。

 でも、今はのんびりと話している余裕は無いので、後々聞くことにします。


『あともう一人、聖獣士を名乗るものも居たのですが、そちらは交戦せずに逃走したようです。それと、非常に報告しにくい事なのですが……』

「おう、その声色でなんとなく分かるが、一応聞こう」

『交戦した二名の敵なのですが、戦闘が終了したと同時に姿を消しました。意識は完全に失っている筈ですし、自分の力であの場から逃げ出せるはずもないのですが……』

「それは……アレだよな」

『ええ、ここまで痕跡を残さない方法で逃げ出したとするならば、あの超常の力を持つアウラムなる男が関わっている可能性が高いです』

「やっぱりか……」


 確証がある訳ではないだろうが、俺もそう思う。

 下手したら、俺が巻き込まれたこのテロリスト事件も奴が関わっている可能性高いと思っているんだが、どうなんだろう。


『こちらの報告は以上になります。通常の方法以外での国境越えは許可されていませんので、我々はここで待機となるのですが……』

「それは仕方ない。後は、俺とエクストラチームだけでなんとかやるさ」


 獣神メギルからの条件は、通常手段で獣王国に入る事だ。つまり、アルドラゴや《リーブラ》を使用した国境越えは許されない。

 だからこそ、わざわざ列車を使った移動で獣王国にやって来たのだ。


『ではケイ……。フェイの事、よろしくお願いします』

『たのんだよー!』


「おう、任せとけ。フェイは必ず無事に帰艦させるからな」


 それだけ宣言すると、俺は通信を切った。

 迷ったのだが、フェイからの通信があって、様子が変だったことは言わないでおいた。

 もし、俺が当事者だったら絶対に無理にでも国境越えしようとしただろうからな。

 ここは、艦長として俺がしっかりせねばなるまいて。


 そうして「ふぅ」と息を吐くと、糸を張って周囲を偵察していた月影マークスより声がかかる。


『もう数分で最後の門に到達できるでしょう。この付近は集落も多く、魔獣も低級のものばかりのようです。我々が手を出すまでもないでしょう』


「魔獣の領域内に集落があるのか?」


 基本的に、この世界の集落には魔獣除けの結界が設置されている。これによって魔獣は集落には侵入しないという仕組みなのであるが、よもやその結界すら設置されていないのか?


「獣族は強いからね。低級の魔獣程度なら、子供でも勝てるよ。……数人がかりならだけど」


 と、セルアが説明してくれる。

 確かに獣族の基本スペックは高い。何の力もない普通の成人男性であっても、一般的なハンターと同レベルの力があるとの事だ。普通の人間と比べてはいけないな。


 そんな話をしていると、いよいよ獣王城へと至る最後の門へと到達する。

 この門は、これまで潜って来た門の更に1.5倍はある巨大さだった。

 なるほど、これを開くには相当な力が必要になるだろうから、大抵の魔獣なんかでは到底抜けることは出来ないな。空を飛んだりしたら別だけど、それはそれで備え付けの大砲だとか対空武装で応戦するのだろう。

 ちなみに俺たちは、最初の門で力を示したおかげか、それ以降はスルーする事を許可された。

 まぁいちいちぶっ壊されてたらたまんないもんな。


 やがて、ギィギィと音を立てて門が開きだす。巨大な門だけに、開くのにも相当の時間がかかった。

 が、門の外の光景はこれまでと違っていた。


「……なんだこれ?」


 最初に視界に飛び込んできたのは、威圧感たっぷりの巨大な城……では無い。

 それは、広大な広場だった。

 広いと言っても、イメージとしては大きめの陸上競技場とかそんな感じ。つまり、広場をぐるりと囲うようにして観客席のようなものが存在しているのだ。

 そして、驚いたことにその席に観客は埋まっている。その観客の数たるや、5万人くらいは集まっているのではないかと思われる。

 とにかく、俺たちを乗せた馬車が広場へと向かって進みだすと観客たちは「ワーッ!」と歓声を上げて、俺たちを迎え入れたのだった。


『おいおい、なんだよこれ!』

『当然だが、全て獣族だ。しかし、全て兵士には見えんな』

『……歓迎とは少し違うようですね』

『そうですねぇ。興奮度がかなり高いようです。私たちを迎え入れたというより、その後に待ち受けるものに期待しているという感じでしょうか』


 突然の事態に馬車の中で臨戦態勢に入る俺たちであるが、その中で今まで呆然としていたセルアがポツリと呟いた。


「獣王闘技会……まさか、今日だったの?」


 なんか、不吉な言葉を聞いた気がする。


「セルア、何か知っているのか?」

「う、うん。獣王国には年に一度……国中の力自慢の戦士たちが集まって、闘技大会が開かれるの。それはもう、獣王国の一大イベントなんだけど……まさか、今日だったなんて」


 闘技大会……。

 なるほど、この広場の作り……なにかと似ていると思ったらアレか。

 古代ローマの円形闘技場……コロッセオだ。

 そのコロッセオにこれまた巨大な城が横付けされている……いや、くっついているというとんでもない造りだ。


『うおマジか! つう事は武闘大会って事かよ』

『獣族のみというのが気になるが、そんなものが行われるというのは確かにたぎるものがある』


 エキサイトした様子の烈火吹雪であるが、そこへ月影の冷静な言葉が投げかけられる。


『ええとお二人とも。興奮しているところ悪いですが、これはどう考えてもその闘技会とやらをのんびり我々が見学出来るような流れではないと思いますよ』


 ああ、その通りだ。

 なぜなら、俺たちを乗せた馬車は、その闘技会場の中心地に向かってゆっくりと歩を進めているのだ。

 やがて中心地へと辿り着いた俺たちの馬車はその場に停車し、外に控えていた獣族兵士の手によって扉が開かれる。


「降りろってことね」


 そんな話は聞いてないと突っぱねてもいいが、とりあえず状況を知りたい。

 ひとまずセルアと日輪ナイアには馬車の中で待機するように伝え、残りの者たちは全員馬車から降りることにした。

 地面に降り立って、足元に敷き詰められているのが石畳状の円形の舞台……所謂リングだと気づく。

 さて、いったい何が行われることやら。


 俺たち全員が馬車から降り、その馬車を取り囲むように並び立つと、コロッセオにくっついている城のほうより盛大なファンファーレが鳴り響いた。

 観客の声もそれはそれは大きくなり、これから待ち受けるものに警戒を強める。


「よくぞ参った! 異国の勇者たちよ!」


 現れたのは、これまた豪華な鎧を纏った獣族の男……恐らくはアレが獣王ってところか。


「紹介するとしよう! そこにおるのは異国においても十指の中の一人と謳われる者! 尤も、貴様らは既に承知かもしれんな。先の海族との小競り合いの際、その解決に一役買ったハンター……その名もチーム・アルドラゴ!!」


 割れんばかりの歓声が響き渡る。

 ……うるせぇ。

 それと、正確にはチーム・アルドラゴは俺一人で、残りは別チームなんだが……まぁそれを今指摘しても仕方がない。


 しかし、なんなんだこの展開。

 なんで俺らがこんな闘技場の中心でこんな大々的に紹介されにゃならん。


 まさかと思う事はあるが、本当にまさか……


「その功績に免じ、この者たちには我ら獣族のみの神聖な舞台……この獣王闘技会の参加を特別に許可した! さぁ、盛大に踊ると良い!!」


 またしても割れんばかりの歓声。

 あ、中には「ぶっ殺せー」とかそういう子供に悪影響な言葉が聞き取れる。


「……ふざけんな」


 小さくではあるが、俺の口から本音が漏れた。

 まぁ歓声のせいで届いてはいないが、思わず頭を抱えた。


『え? なにこれ……出んの? 俺たちが?』

『今の言葉をそのまま受け取れば、そうなるな』

『これはこれは……面倒なことになりましたねぇ』

『……ウザってぇ』


 俺はフェイを取り戻しに来たんじゃ。

 それがなんでまたこんな武闘大会なんぞに参加せにゃならんのだ。


『よっしゃ! よくわからんが、この舞台で戦えってんならやってやるぜ! で、どうすりゃいいんだ!』

『黙れ愚弟! そういうのは先生が決めるのだ』


 意気揚々と前に出ようとした吹雪を烈火がボカリと殴りつける。


 うーん。決めるって言っても……どう返答すりゃ良いんだろうな。

 本来なら、ざけんなアホと突っぱねるところだが、あちらにはフェイを確保されている。

 って事は、マジでやんなきゃならないの?

 このまま武闘大会編突入?


 そうして悩んでいると、俺たちをここへ案内してきた兵士長が近づき、耳打ちしてきた。


「陛下からの伝言です。かの令嬢を取り戻したくば、この闘技会で優勝し、自分に対する挑戦権を得てみろ……だそうです」

「……挑戦権?」

「この闘技会の優勝者には、この国最強の闘士……獣王陛下に対する挑戦権が得られるのです。無論、勝てばそのまま王になれるという訳ではありませんが、良い勝負をすれば高い地位を得ることが出来ます」

「はぁん、なるほど……ちなみに、この闘技会の期間ってどのくらい?」

「え、ええと……例年ですと、10日もあれば終わるかと。予選も含めれば、300人以上の参加者がおりますので」


 さ、300人……。

 この国の力自慢の兵士は勿論、国中から腕に覚えのある者たちが集まっているようだ。その中には、俺が列車内で戦ったジョウベエのような奴も居るだろう。むしろ、そういう者を発掘するのが目的なのか……。

 どうやら、本気でこの武闘大会とやらに参加しろという話らしい。


 わざわざこんな手間をかけてこの国に来て……更にこれから、すんごい時間のかかるこの大会に出ろってか。

 そして優勝しろと。


 ざけんなよ。


 だが、これで俺も腹が決まった。

 そっちがそのつもりなら、やってやろうじゃねぇの。


 さて、皆様。

 これより武闘大会編に突入であります。

 果たして、俺たちは無事に優勝してフェイを救出できるのか、乞うご期待―――








「―――に、なってたまるか」


 俺は、思い切り力を込めてダンッと右足を床……闘技場のリングへと叩きつけた。

 当然轟音と共にリングの一部は砕け散り、周囲に破片が降り注ぐ。


 突然の音に、観客たちは歓声をピタリと止め、その音の元凶である俺に注目が集まる。


「予選だトーナメントだなんて悠長なことやってらんねぇだろ。

 全員だ。

 300人全員相手してやるから、かかってこい」


 と、まぁそんな宣言をしてしまったのである。

 





~~あとがき~~


 バトル自体も次回すぐに終わりますので、ご安心を……。

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