02話 出会い
返事がありやがった。
しかも、声がした訳では無い。
俺がしている、ゴーグルのバイザー部分の内側に文字となって出て来たのだ。
そして、さっきスーツの特性を調べた時と同様に、文字を読むと言葉として頭の中に入ってくるのだ。
「わわわ!!」
いきなりの展開に、俺は思わずゴーグルを外して床に投げ捨ててしまう。
なんだ今の!?
ゴーグルから……ゴーグルから返事があった。
これってただの高性能なゴーグルじゃない訳?
ともあれ、初めての接近遭遇である。
俺としても、心が落ち着くまでに五分ほど掛かってしまった。
とりあえず深呼吸を20回ほど繰り返した後、俺は恐る恐るゴーグルを拾ってみた。
あれから、特にゴーグルからの返事はない。
やはり、ゴーグルの文字を読まないと、言葉は聞こえないという訳か?
「あ、あの……お話してもよろしいですか?」
手に持ったゴーグルに対して言葉を投げかけてみるが、特に返事は無い。
しばらく待ってみても結果は同じだった。
やはり、頭に装着しないと会話は不能という事なのだろうか?
ちょっとだけ悩んだ後、俺は覚悟を決めてゴーグルを付けてみた。
「え、えっと……話してもいいかな?」
『私は構いません』
やっぱり喋った!
いや、喋ったというか、頭に響いたというか表現が難しいのだが、とにかくコミュニケーションは可能なようだ。
「そ、それで……貴方は誰なんでしょうか? 何処かで見ているんですか?」
『見ている……という表現はある意味正解です。私は、この
「じ、人工知能!?」
人間じゃないというのは予想外だ。
初めて出会った宇宙人は、人工知能でありました。……まぁ、人工知能なんて地球でも話したこと無いけどな。
あと、艦って言い方からすると、やっぱり宇宙船なのか。
とにかく、質問の続きだ。
「えーと。じゃあ、君以外にこの船には乗組員とか居たりするのかな?」
『現時点で言えば、この艦において生体反応のある存在は、貴方一人と言えます』
「うわ、マジで誰も居ないんだ」
とは言え、ある意味では良かったと言えるかもだ。
いきなり宇宙人とのコミュニケーションは、さほどコミュ力が高いとは言えない俺にとって、ハードルが高すぎる。
「じゃあ、ここは何処だか分かるかな? 後、なんで俺はこんな場所に居る訳?」
『ここが何処だかは不明です。恐らくは、私のデータベースには存在しない惑星だと思われます。そして、貴方がここに居る訳ですが、私が貴方をこの艦に収納したからです』
「じゃあ、君が誘拐犯!? なんだってこんな所に連れてきたりしたんだ! 早く元の場所に帰してくれよ!!」
思わず声を荒げてしまう。
言った後で、自分でもこんな声が出るんだと、ちょっとびっくりしてしまった。
『誘拐……という表現は正しくありません。私は、亜空間に漂っていた貴方の肉体を発見し、この艦の中に収納しただけです。補足ですが、私があのまま放置していれば、貴方は永遠に亜空間を漂っていた事でしょう。また、貴方の肉体は完全に凍結しており、その解凍に約72時間掛かりました。おかげで、この艦に残されていた残存エネルギーをほとんど消費してしまったのです。私としては、感謝される覚えはあれど、怒られる筋合いは全く無いと思うのですが』
なんかえらく砕けたな最後。あと、人工知能の癖に怒ってないか?
それにしても、よく分からん情報が入って来たな。
なんだ亜空間って。
そんで、身体が凍結ってなんだよ。
「あの……すいません。そもそもこの艦って何なんですか? 亜空間を漂っていたとか、どういう事なんですか?」
怒られたせいもあって、やや低姿勢になってしまった。
まぁ、人工知能と言えど、なるべくいい関係は築きたい。
『そうですね。そもそも、貴方に出会う以前の私の状況を説明しましょう。私はそもそも、どこかの惑星が開発した惑星間航行用の宇宙艦なのですが、おそらく長距離惑星間を移動する為に用いるワープドライブを使用中に事故に遭い、亜空間を漂っていたのだと推測されます』
……なんだろう。今の説明台詞に色々とツッコミどころが溢れていた気がする。
ワープドライブやらその辺の単語はSFアニメとかで知っている知識なので、ある程度は理解できるんだが……。
「あの……なんで、おそらくとか推測とか、肝心な所がはっきりしない訳?」
「それは、私のデータが初期化されていて、亜空間に漂っている以前の記録データが全くないためです」
なんと!!
機械の癖に記憶喪失ならぬ記録喪失とか、そんなんありかよ。
「えっと……じゃあ、この宇宙船の持ち主とかは……」
『不明です。私が自己という存在を認識して以降、この艦の中に生命体は存在していませんでした。貴方が第一号ですね』
「うわ……マジか」
広い宇宙船の中に、人工知能と二人きりかよ。……いや、この場合二人と表現していいか疑問だが。
「じゃあ、俺は? 俺はどうして亜空間に居た訳?」
『それは私も分かりません。むしろ、どうやってあの空間に辿り着いたのか、こちらが聞きたいのですが』
「いや、俺もよく分かんないんだよね。確か、学校の帰り道だった筈なんだけどさ。つーか、こういう事ってよく起こるの?」
『私の場合、データがあまりにも不足しているので確かな事は言えませんが、亜空間内では生身の人間は存在できない事は確かです。貴方の場合は、全身が氷漬けになっていた為、仮死状態扱いになっていたせいで消滅を免れたのだと思いますが』
「俺としては、普通は生きられない空間で生きられてラッキーって話じゃなくて、どういった経緯で普通じゃ入れない空間に入っちまったかってかってのを知りたいんだけども」
『では、貴方の記憶を探らせてもらっても構いませんか?』
「そういう事出来るの?」
『私の出来る手段ですと、およそ48時間しか遡る事しか出来ないのですが、貴方の場合は完全に意識を失っていたので、亜空間に辿り着く直前の記憶も再生可能な筈です』
「おお! ぜひやってください! お願い!」
『では、失礼して……』
またしても、こめかみ辺りにビリリッとした痛みが走る。
しかも、今度はやけに長く感じた。
「いでででで!!」
やがて、耐え切れなくなって、その場に膝をつく。
その途端に痛みがスーッと消えていく。
『申し訳ありません。どうも、今の貴方では記憶の抽出に耐えられないようですね』
「み……みたいだね。っていうか、こんなにしんどいもんなんだ」
なんというか、下手したら脳みそをじかに触られているのってこんな感じなんじゃなかろうかという痛みだ。痛いというよりは、気持ち悪い。
『記憶を操作する機械はあるにはありまして、それを利用すればもっと簡単に記憶抽出も出来るのでしょうが……
「つまりは?」
『今は放置するしかないと』
「なるほど。じゃあ、その件はまた後日って事だな」
はぁ……とため息を吐く。
とりあえず、俺は艦長席と思わしき場所へと腰かけた。
「……まだよく分かって無いんだけど、俺って帰れるのかな?」
『帰ると言うのは、貴方が元いた場所に……という事でしょうか?』
「そりゃそうでしょ」
『現時点においては、難しいとしか言いようがないかと。何故ならば……』
「何故ならば?」
『現在位置が不明です。
貴方が何処から来たのか不明です。
艦のエネルギーがありません』
……三重苦だった。
思わず頭を抱えてしまう。
頭が真っ白になるな。とにかく、ヒステリックにわめき散らしたい気分だこれ。
でも、映画とかでよく喚いて観客のヘイト稼ぐ行為嫌いなので、自制します。
それに人工知能相手に怒鳴ったって意味はあるまいて。話聞く限りでは、一応命の恩人みたいだし。……まだ完全には信用してないけども。
「色々言いたい事あるけども、とにかく一個ずつ整理していこう」
『そうですね。それは賛成です』
「現在位置が不明……だっけ? そーいや、別の惑星に居るんだっけか。……あれ? そういえば、俺もこの宇宙船も、亜空間ってやつに漂っているんじゃなかったか?」
『ええ、貴方を亜空間で発見するまではそうだったのですが、貴方を艦内に収納した瞬間、空間に穴が開き、この星への入り口が出現したのです』
「俺を収納した瞬間だって?」
『その通りです。その穴が長時間持たない事はすぐに計算出来ましたので、残りのエネルギーを使って穴へと飛び込んだという訳です』
そして、今に至るという訳か。
信じない訳では無いが、この目で見た訳でもないので、信じがたいといった所だろうか。
「俺を収納した途端に亜空間に穴が開いたって事はさ、俺がこの船と接触した事がきっかけって事なのかな?」
『その可能性は高いかと。私が自己を認識して以降、二千……相当な時間が経過していましたが、その間空間に何も変化は起きませんでした。という事は、貴方という存在が何かキーになっているのでしょうね』
「ふ~む……キーねぇ。俺としてはその亜空間に漂っていたっていう所の記憶無いから、どうにも自覚が無いなぁ。
――――――ん?
なあ、ちょっと気になったんだけどさ。この宇宙船って何処かの星に漂着しているんだったよね」
『はい。調査の結果、水及び空気が存在し、人間が居住できる惑星ではあるようです』
そんな都合のよい事があるだろうか。
これでも、SF映画やなんかは好きで、よく見る方である。
最近でも、移住可能な惑星を求めて宇宙を旅したり、地球から遠く離れた星に一人取り残される……的なSF映画は見た記憶がある。
それによると、そう簡単に人間が生活できる惑星なんて見つかるはずもない。
と、言う事はだ。
「……なぁ、俺たちが居るこの惑星ってやつ、ひょっとして地球なんじゃね?」
『地球……というのは、貴方が生まれ育った惑星という事でしょうか?』
「ああ。そう簡単に、人間が住める星なんて見つからないだろ。俺を収納した途端にこの星に通じる穴が開いたってんなら、俺に関係する星なんじゃないか?」
『なるほど……その可能性もありますね』
人工知能の言葉を聞いて、希望が
やった! こんな簡単に帰れるならラッキーとも言える。こんなハイテクメカとか映画とか漫画の世界でしか触れ合う事出来ないもんな。
『艦外の風景を撮影したものをヘッドマウントディスプレイに表示します。見覚えのある風景でしたら教えてください』
よっしゃ! ヘッドマウントディスプレイってのは、このバイザーの内側部分って事だな。
思えば久しぶりに見る外の風景だ。なんかちょっとワクワクしてきたぞ。
パッと最初に映し出されたのは、赤茶けた岩山が乱立している荒野だった。
……う~む。少なくともうちの近所じゃねぇな。
でも、地球ではTVやなんかでよく見る風景だ。日本でも、こういう場所あるだろう。……多分。
次に映し出されたのは、ただっ広い草原だった。
うわーすげー。
遥か遠くに山みたいなもんは見えるけども、一面緑一色。それがずーっと広がっている。
見た事は無いけども、北海道かな? それとも外国の可能性が高いか……。
……ん?
ちょい待ち。
なんか、見逃してはならない物体が空に浮かんでいる。
「あの空に浮かんでいるのって……」
『恐らくは月かと』
「だよね。は……は……はは……」
『どうしました?』
「いや、俺の知っている月って、あんなにでかく無かったな~~ってさ。あはは……」
ここまで来たら笑うしかあるまいて。
ああ、ここ地球じゃねえわ。
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