鋼鉄のアルドラゴ~異世界で宇宙船拾いました~

氷山 鷹乃

序章

00話 彰山慶次 17歳 異世界へと渡る




慶次けいじさん。わ、私と付き合ってもらえませんか!」



 ………

 ……

 …



 え、何これ。


 ―――ドッキリ?



 冷静に振り返ってみたら、学生生活において最も舞い上がり、歓喜するであろうイベントに対して、俺が真っ先に思った事がそれであった。

 クラスでそこそこ親しい女子に、


『ねぇねぇ彰山君。ちょっと屋上に行ってみてくれない?』

『はぁ? 何、果たし状?』

『ちげーよ。つーか、あんた心当たりあんの?』

『いや、無いけど』

『じゃあ、早く行った行った。行ったら、きっと良い事あるから』


 と頼まれて屋上に来てみたところ、隣のクラスの女子が先に待っていた。

 そして、顔を真っ赤にしていきなりこんな台詞を吐いたのだ。


 えーと、確か柳さんだったか。正直、下の名前まで覚えてねー。つーか、今あの子俺を下の名前で呼ばんかったか。


 改めて相手の女性を見てみる。

 顔は、美人というよりは可愛い感じ。

 背も小さいので、同級生というよりは後輩という印象だ。……まぁ、そもそも後輩と交流なんてないけどな。


 ………で、なんで?

 なんで俺?

 そもそも、相手の下の名前知らんレベルだし、ほとんど交流とか無かったじゃんよ。


 いやあの、こっちに対してもじもじしている仕草とか、思わず胸にズキューンとくる感じではあるけども、ともかく疑問が俺の頭を占めている。


 やっぱり、これドッキリなんじゃね?

 受け答えして、舞い上がっている所にクラスの悪友たちが、プラカード持って登場するんじゃね?


 現実時間でおよそ10秒間。

 脳内にて、様々な仮説を立てた結果、俺は―――



「ごめんなさい。好きな人が居るんです」





 ◆◆◆






「うおおおおおっ!! なんであんな答えをしたんじゃ俺は!!!」


 帰り道。

 自転車で帰宅しながら俺は大声でわめいていた。


 あ、ちなみにかなり遠回りして、今の時間帯にはほとんど人が通らない田舎道を爆走している最中です。


 うおお、なんで俺は人生において初めて彼女を作れたというチャンスを無駄にしてしまったんじゃー!!


 彰山慶次あきやまけいじ

 17歳。高校二年生だ。

 別にイケメンではない。デブでもガリでもない。背の高さは、クラスの平均よりやや下。

 群衆に紛れれば、立派なその他一般人。

 はっきり言ってしまえばモブという印象の男である。

 そして、スポーツマンでもない。運動神経は悪くも無いが、特別良いわけでもない。ついでに言うと、成績も中の下あたり。

 身体を動かすよりは、マンガ読んだり、ゲームしている方が好きなタイプの人間です。

 かといってオタク……というレベルでもない。SFとかロボットものは好きだけど、二次元美少女とかアイドルとかの話題はほとんど分からんであります。


 好きな人?

 そりゃ、可愛いな……と思うレベルの人は居ますけど、本気で好きになった人なんて居ませんよ。チクショー!

 彼女いない歴=年齢ですよ。悪いかコノヤロー。


 じゃあ、なんであんな返答をしてしまったか?


 俺は、どうも咄嗟とっさに重大な場面に出くわすと、逃げてしまうという欠点がある。


 一応言い訳すると、ある程度覚悟さえ決めれば逃げたりはしないよ。

 ただ、心の準備とかそういうものが出来ていない段階でそういった状況になってしまうと、頭が真っ白になって思わず楽な方に逃げてしまうのだ。

 ……まぁ、楽と言ってもその場限りの問題で、こうして後になって死ぬほど後悔してたりするんだけどね!!


 ちなみに、あの子の告白自体はドッキリでもなんでもなく、一か月ほど前の学園祭にて、同じ文化委員だった事もあり、色々と行動を共にしたことがきっかけだったらしい。

 こっちは初めての文化祭でいっぱいいっぱいになってて、とてもそんな事考えている余裕なんて無かったけどな!!


 あぁ……あの台詞を言ってしまった後の、あの子の泣きそうな顔を思い出す度に、その時の俺をぶん殴りたくなる衝動に駆られる。

 これは、当分の間引きずりそうだ。

 もしクラス中に知れ渡っていたりとかしたら、どうやって今後生きていけばいいのだろう……。

 ……マジでタイムマシン欲しい。

 なんというか、今なら世界が滅びても文句言わないかもしれない。


 気を紛らわせる意味も込めて、普段ならば決して通らない……加えて言えば地元民さえほとんど通らない急な傾斜になっている坂道を全力立ちぎで走っている最中の事だった。


「は?」


 思わず間抜けな声を発してしまった。


 坂道の途中に、大体3メートルくらいの黒い球があった。


 その球は、突然何の前触れもなく現れた。

 俺は、急な坂道を必死になって立ち漕ぎしていたのだ。

 当然、視線は進行方向である坂の上となる。


 だというのに、その球は突然視界に現れた。

 俺は、あまりに突然の事に咄嗟に避ける……という判断も出来ないまま、その球へとぶつかってしまう。


 ぶつかる―――


 だが、衝撃は一切感じなかった。

 俺の身体は、自転車ごとそのまま球へと吸い込まれ、やがて全身が飲み込まれる。


 その瞬間、俺の意識はまるで電源が落とされたかのように、フッと消え失せたのだった。




 そして、彰山慶次あきやまけいじという男も、この世界から消えたのだった。


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