第39話 ゴーン王太子殿下は私の料理に興味津々です

リュカ様に抱き付き、すり寄る王女様。周りも口をポカンと開けて、固まっている。そんな中、動いたのはリュカ様だ。


「マリーゴールド殿下、申し訳ございませんが、離れていただけますか。僕には最愛の婚約者、ジュリアがおりますので。それから、他国の婚約者のいる王族に抱き着くなんて、あまり宜しくないのでは?」


さりげなく王女様を引き離し、すかさず私を引き寄せたのだ。出会った時のリュカ様とは考えられない程、自分の意見をはっきり言う様になった。


さらに陛下も


「マリーゴールド殿下、リュカとジュリアは周囲が羨むほど仲睦まじくてな。申し訳ないが、他を当ってくれるかい?」


そう伝えていた。周囲が羨むほど仲睦まじいなんて…なんだか恥ずかしいわ。


「目の前に私の理想の王子様が現れたので、つい興奮してお見苦しいところを見せてしまいましたわ。申し訳ございません」


そう言って頭を下げたマリーゴールド殿下。でも、明らかに私の方をジロジロ見ている。なんだか嫌な予感しかしないのだが…


「そういえば王太子殿下は、我が国のお菓子に興味があるとの事だったね。早速おせんべいやお饅頭を準備した。さらに、ポテトチップスと言うお菓子もぜひ食べていただきたい」


早速準備したお菓子が運ばれてきた。


「お気遣いありがとうございます。初めておせんべいを食べてから、私はおせんべいの虜になりまして。早速頂きます」


嬉しそうにおせんべいを頬張るゴーン王太子殿下。


「やっぱり本家で食べるおせんべいは格別に美味しい。このサクサクしたお菓子もまた、美味しいですね。これは止まらない」


どうやらポテトチップスもお気に召した様だ。


「こんなにも素晴らしい料理を開発した人物にぜひ会いたいのですが、一体どんな人物が開発したのですか?」


興奮気味に陛下に詰め寄るゴーン王太子殿下。


「このお菓子は全て、そこにいるジュリアが開発したんだ。彼女はお菓子だけでなく、珍しい料理も色々と生み出している。今日の晩餐には、是非彼女が開発した料理を食べて頂こうと思っているんだ」


「え…彼女がこのお菓子を生み出したのですか?さらに他の料理まで…それはすごいな」


クルリと私の方を向いたゴーン王太子殿下。そして何を思ったの、私の側にやって来た。


「ジュリア嬢と言ったね。本当に君がこのお菓子の数々を生み出したのかい?」


「はい、そうでございますが…」


その瞬間、何を思ったのか急に私の手を握ったのだ。


「なんて事だ。こんなにも若くて美しい令嬢が、こんなにも素晴らしいお菓子の数々を生み出していたなんて。君は本当に天才だ!」


鼻息荒く詰め寄って来るゴーン王太子殿下。


「ゴーン王太子殿下、申し訳ないが、彼女は僕の婚約者です。気安く触らないでもらえますか?」


ゴーン王太子殿下から私の腕をスッと奪い取ったのは、リュカ様だ。


「すまない、あまりにも衝撃的だったので。そうだ、今から厨房で、どの様にお菓子を作られるのか、実際見せていただけないだろうか?」


「えっ?今からですか?」


「そうだ。陛下、いいですよね!」


「ああ…構わないよ。ジュリア、悪いが頼む」


「父上!」


リュカ様がすかさず抗議の声を上げるが、スッと目をそらした陛下。どうやら料理を披露する事になりそうね。仕方ない。


「分かりましたわ。では、どうぞこちらへ」


皆でぞろぞろと厨房へ向かう。せっかくなので、ゴーン王太子殿下の好きな、おせんべいを作ろう。そう思い、おせんべいを焼き始めた。


「このタレは何だい?」


「こちらは、私が開発した醤油ベースのタレでございます」


「なるほど、このタレを塗る事で、あんなにも美味しいおせんべいが出来るのだな。その醤油?と言うものは、どうやって作っているんだ?」


「はい、大豆と言う豆を元に作っております」


「豆でこの醤油と言うものが出来るのか?それはすごい。どんな魔法をかけているのだ?」


「そうですわね。ゆっくりじっくり熟成させて作ります。申し訳ございません、うまく説明できなくて…」


興味津々で色々と聞いてくるゴーン王太子殿下。その後も色々と質問された。早速焼きあがったおせんべいを食べてもらう。


「これはまた旨いな!さすがジュリア嬢だ。本当に君が作っているのだね。あぁ、何て素晴らしいんだ!」


目を輝かせて私を見つめるゴーン王太子殿下。


「ゴーン王太子殿下、さあ、もうよろしいでしょう?長旅でお疲れでしょうし、晩餐までゆっくりお休みください」


リュカ様がすかさずゴーン王太子殿下を厨房から追い返そうとしたのだが…


「そういえば、今日の晩餐は、ジュリア嬢が生み出した料理を出すと言っていたね。今からジュリア嬢も、厨房で作業をするのかい?」


「えっと…あの…」


今から料理人たちに、色々と指示を出しつつ、私自身も作るのだが…その事を正直に言うと、きっとゴーン王太子殿下も残ると言いそうな気がした。


正直王太子殿下に見られながら料理をするなんて、やりにくい事この上ない。


「そうなのだね。それなら、私も見学させて頂こう」


結局そうなるのね…仕方がない。

料理人たちを集め、それぞれに指示を出す。私自身も、お味噌汁や肉じゃが、てんぷらの準備を行っていく。


「どれも見た事がない料理ばかりだ。それに、ジュリア嬢はとても手際がいいんだね。まさか、他国で令嬢の手料理を食べられるなんて、夢にも思わなかったよ」


「ありがとうございます。殿下のお口に合うと良いのですが…」


ちょこちょこ話しかけてくるゴーン王太子殿下。集中して作りたいのだが…

そんな私に気が付いたリュカ様が


「殿下、もうよろしいでしょう?あまり長い時間厨房にいても邪魔になりますので。さあ、どうぞこちらへ」


そう言って、無理やりゴーン王太子殿下を連れ出してくれたのだ。よかった、これで料理に専念できるわ。


それにしても、本当にゴーン王太子殿下は、珍しい料理に興味があるのね。殿下に満足していただけるように、頑張らないと。うまく行けば、フェリース王国でお店を開けるかもしれないし、もっと色々と輸入してもらえるかもしれない。


そうなれば、リュカ様の手助けにもなるわよね。よし!気合を入れて作らないと!

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