第20話 彼女が欲しい【前編】~リュカ視点~

翌日から、すっかり仲良くなった2人。兄上の目を盗んで、一緒にいる様になった。さらに、僕が令嬢の目をかいくぐってジュリア嬢に近づこうとすると、なぜか邪魔者扱いされる。


マリアナ嬢から


「リュカ殿下がジュリアに近づくと、あなたの事を好きな令嬢たちが嫉妬して、ジュリアを傷つけようとするのです。もうジュリアは1人じゃありませんから、ジュリアに気を使って頂かなくても結構ですわ!」


そう言われてしまったのだ。確かに僕のせいでジュリア嬢が令嬢たちに目を付けられた節はある。


先日ジュリア嬢に暴言を吐いた令嬢たちも、僕に気にかけてもらっているジュリア嬢が憎かったと言っていたし…


それでも僕は、ジュリア嬢と仲良くしたいのだ。だから、いくらマリアナ嬢に邪険にされても、めげずにジュリア嬢の元へと向かっている。彼女の側にいるだけで、なぜか心が満たされるのだ。ジュリア嬢が笑うと、僕も嬉しいし、ジュリア嬢が寂しそうな顔をすれば、僕が笑顔にしてあげたい。僕はきっと、彼女の事が好きなのだろう。もうこの気持ちは止められない。


会えない時間は、ずっと彼女の事を考えている。と言うより、考えずにはいられないんだ。兄上がいつも「早くマリアナに会いたい」と言っていた気持ちが、今ならよくわかる。それくらい、僕にとってジュリア嬢は大切な存在になっていた。


いっその事、母上に頼んで侯爵家に婚約を申し込むか?でも、僕は兄上の様に、無理やりジュリア嬢を婚約者にしたくない。とにかく、まずは仲良くなりたいんだ。


そんなある日、兄上とマリアナ嬢が王宮で激しく喧嘩をしていた。どうやら、最近ジュリア嬢と一緒にいる事を不満に思っている兄上が、マリアナ嬢に文句を言っている様だ。ただ、マリアナ嬢も負けていない。


「どうして令嬢と仲良くするのがいけないのですか?王妃になるうえで、令嬢と仲良くする事は重要な事です!」


そう言い返していた。いつもほとんど兄上に逆らわないマリアナ嬢が、なぜかジュリア嬢の事になると、兄上に反論するのだ。それがまた面白くないのだろう。


兄上の事だ。ジュリア嬢に文句を言わなければいいが。とにかく、ジュリア嬢を今まで以上に気に掛けないと…


そう思っていたのだが。



翌日、貴族学院はお休み。1人部屋で本を読む。あぁ、今日はジュリア嬢に会えないのか…休みなんて無くていいのに…


暇だし、気分転換に外にでも出るか。そう思い、外に出ると、なんと母上とジュリア嬢が一緒にいるではないか。これは幻か?僕がジュリア嬢に会いたい思いが強すぎて、ついに幻想が見えるようになったのか?


急いで2人の元へと向かったが、既にジュリア嬢は馬車に乗り込み、走り去った後だった。


「母上、なぜジュリア嬢と一緒にいたのですか?」


すかさず母上に声を掛けた。


「あら、リュカ。実はね、リューゴがジュリアちゃんを呼び出して、マリアナちゃんに近づくなって文句を言っていたのよ。それで、私が助けに行ったの」


何だって!兄上め、まさかジュリア嬢を王宮に呼び出すなんて。あぁ、僕が兄上からジュリア嬢を助けてあげたかったな。クソ、本当に付いていないな…


がっくりと肩を落とす僕に、母上が


「そうそう、ジュリアちゃんが珍しいお料理を振舞ってくれることになったの。今材料を取りに行ったのよ。リュカも一緒に食べる?」


そう声を掛けてくれたのだ。


「それは本当ですか?はい、僕もぜひご一緒させていただきます!」


ヤッター!ジュリア嬢に会えるだけでなく、手料理まで食べられるなんて!


「それじゃあ、またジュリアちゃんが戻ってきたら呼びにいかせるから、部屋で待っていなさい」


そう言って母上は去って行った。でも僕は、1秒でも早くジュリア嬢に会いたいのだ。とにかく、門の前で待っていればジュリア嬢に会える。そんな思いから、門の前で待つ事にした。


でも、中々戻ってこない。まだかな、早く会いたいな。そんな思いから、門の周りをウロウロとする。門番にもそれとなく部屋に戻る様に促されたけれど、軽く聞き流した。


しばらくすると、母上までやって来た。


「リュカ、あなたずっと門の前で待っているそうじゃない。準備があるだろうから、まだしばらく来ないわよ」


「母上、僕の事は気にしないでください。僕が好きで待っているだけですから」


「あなた、もしかして…」


母上が何かを言いかけた時、侯爵家の家紋が付いた馬車がこちらにやって来た。中から降りて来たのは、もちろんジュリア嬢だ。


瞳と同じ、エメラルドグリーンのドレスに身を包んだジュリア嬢は、とっても綺麗だ。制服姿も可愛いけれど、ドレスも素敵だな。ついそんな事を考えてしまう。


すかさずジュリア嬢の手を取り、厨房へと案内する。


「殿下、あの…手を離していただけますか?」


少し頬を赤くしたジュリア嬢が、僕に抗議した。頬を赤くする令嬢なんて、今まで腐るほど見て来た。でも、なぜだろう。めちゃくちゃ可愛い!もちろん、手を離すつもりはない。


貴族学院で迷子になっていたことを引き合いに出すと、今度は頬をぷっくり膨らませて怒っている。この顔も可愛い。本当にジュリア嬢は、表情をコロコロと変える為、ずっと見ていても飽きない。


でも、あっという間に厨房についてしまった。もう少し、彼女の温もりを感じていたかったのに…残念だ。


厨房に着くと、侯爵家から連れて来た料理人と一緒に料理を始めた。楽しそうに料理人に指示を出しながら、自らも包丁を握る。凄いな、令嬢なのに、あんなに上手に包丁を使えるのか。


母上も同じことを思ったのか、ジュリア嬢を褒めていた。次々と出来上がる料理。今まで見た事のない料理や調味料たちに、家の料理人たちも興味津々だ。


出来上がった料理を早速頂いたのだが、これまた美味しい!こんなに美味しい料理は、初めて食べた。母上もずいぶん気に入った様で、また作りに来てほしいとお願いしていた。


まさかジュリア嬢がこんなおいしい料理を生み出したなんて、本当にびっくりだ。まさに彼女は天才。それに、母上も随分ジュリア嬢を気にったみたいだ。

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