#024.5
「それで、首尾は?」
夕暮れの空高く、二人の少女、一人の人豹がいた。
一人は黒髪、ゴシック調の黒服を纏う少女。
その背後に控える一人は、黒い体毛をした直立する豹。
あとの一人は白髪、赤い瞳を持つ少女。
彼女たちは、宙に浮かぶティーテーブル越しに向き合って座っている。
「うむ……もうすこしじゃ。知能の調整が難しくての」
黒髪の幼女が、眉間に皺を寄せて唸っている。
その様子を眺めながら、白髪の少女は紅茶を唆る。
「性能は単純に、あまり強くはしすぎないようにね。ミキヒトの戦闘技術も、リースの作る術式も、まだまだ未熟だから」
「注文の多い奴じゃのう。まぁ、互角となるように作るつもりじゃ。そうでなければ面白くない」
「それはその通りね。……それはそうと、召喚された勇者たちのほうはどうなのかしら? すこしは成長したのかしら?」
「いや、全然じゃ。王国の人間共があまりに過保護すぎる……政治的な意図でな」
「外部公開は済んでいたのではなくて?」
「それは済んでいる。じゃが、公開したのはあくまで召喚に成功したという情報だけじゃ。勇者自体のお披露目はまだ先らしい。最低限の戦闘力と、あとは自分たちがクレマリオ王国の所属であるという意識を刷り込んでからじゃろうな」
「それはたしかに重要ね。戦力の国外流出はあってはならないことでしょうから」
「こちらからすれば退屈じゃ。いつまでも過保護に囲っていても成長はない。早く
「彼には、自分が勇者であるという認識はなさそうだけれど」
「別にかまわん。強ければ、な」
「戦闘力については問題なくなると思うわ。優秀な魔術師がついているし、技術的なことについても訓練次第でどうとでもなる」
「それならなんの問題もないのではないか?」
「いいえ、彼の心の問題が残ってる」
「……そもそも小僧が戦いに応じるか、という問題か」
「貴方の魔王と互角を演じられるほどの実力をつけられたとしても、彼自身が立ち向かうか否かは別問題だから」
「それはそうじゃが、まぁその場合、小僧が死ぬというだけじゃ。それが嫌なら、まだ降りることもできるが、どうする?」
試すように、黒髪の幼女が笑う。
それに対して、白髪の少女は表情を変えない。
「いいえ、かまわないわ。私がこの話に乗ったのは、ミキヒトでなくリースのためだから」
「あの小娘のか?」
「ええ。彼女は、先人の残した知識に触れ、それを試したいと考えている。けれど、それを試す機会に恵まれていないの」
「それはどういう?」
「異世界の、それも戦闘性の高い現象や武器に関する知識」
「ああ、なるほど」
「せっかく戦闘向きの術式を構築できる知識がそろっているのに、それを使う機会を与えないのは、教師役として不義理かと思ってね」
「不義理、のう」
黒髪の幼女は呆れたような表情をして、しかし白髪の少女をしっかりと見据え、
「……まぁ、その知識を使えるような相手を用意してやろう。強すぎず弱すぎず、ちょうどいい塩梅の敵をな」
「ええ、そうしてもらえると助かるわ」
白髪の少女は微笑んで、席を立つ。
「なんじゃ、もう行くのか」
「私もすこし、召喚者の動向を探っておこうかと思ってね。いずれは直面する問題かもしれないから」
「小僧のためか? それなら王国の暗部も洗っておけ。召喚者の幾人かは邪道に取り込まれているようじゃ。衝突する危険があるとすればそっちじゃろうからな」
「わかったわ。忠告、ありがとう」
そう言って、白髪の少女は姿を消した。
一人残された黒髪の幼女は、ふぅと一息つき、わずかに笑う。
「ヒトに対して義理立てする必要もなかろうに、物好きな奴じゃな。あれは一時の気まぐれか、あるいは奴の性格なのか……」
***
ぼこ、ぼこ、ぼこ、と。
緑色の肉塊が、蠢いている。
それはやがてヒトのような姿となり……溶けるように崩れた。
そして、ぼこ、ぼこ、ぼこ、と。
緑色の肉塊が、またヒトの形となり、崩れる。
まるで、粘土を捏ねてヒトを作っているような光景だ。気に入った造形になるまで何度も何度も繰り返し崩され、そして生み出される。
黒髪の少女が納得するまで、何度でも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます