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 夕也はまだ納得していないようだったが、秋葉さんを待たせては行けないと言って、解放してくれた。とは言っても、日は傾き始めており、いつもの時間には間に合わない。

 

 駅から駆け足で帰ったが、結局彼女の家に着いた頃には暗くなっていた。

 チャイムを鳴らすとすぐに、ドアが開きTシャツにショートパンツ姿でこやちゃんが飛び出してきた。

「いつもと同じ時間って言ったじゃない。」

「やっぱり少し遅くなるってメールしたよ。」

 彼女は少しだけ口を尖らせて不服そうに、家に招き入れてくれた。

はるかさん、こんばんは。」

「こんばんは。光一くん今日は遅かったのね。デートでもしてたの?」

 彼女のお母さんは、悪戯な少女のように笑って見せた。

「そんなわけないでしょ。機械オタクの光ちゃんは、友達すらクラスに一人しかいないんだから。」

 その友達も君のせいでいなくなるかもしれないと思ったが、口には出さず飲み込んだ。

 

 鞄をソファに置かせてもらい、いつものダイニングチェアに腰掛ける。対面式のキッチンの先でこやちゃんと遥さんが楽しそうに料理の準備をしてくれている。

 キッチンの方から、肉の焼けるいい匂いがする。今日はチキンステーキだと遥さんが言っていた。僕は遥さんのチキンステーキが大好物で、月に一度は必ず食卓に並ぶ。

 ふわりと香草と胡椒焦げる香りがすると、両手に木台付きのステーキ皿を持ったこやちゃんがキッチンから出てきた。テーブルに皿を置き、カウンターに並べられたサラダやバケットをテーブルに配置していく。

「飲み物はお茶でいい?」

 僕が頷くと、冷蔵庫からポットを取り出して僕専用のマグカップに注いでくれた。

 自分の分と遥さんの分注ぎ終わると、彼女は僕の隣の席に着く。

 遥さんが駆け足で僕の向かいに座った。

「いただきます。」

 僕がそう言うと、二人が手を合わせて「いただきます。」と言う。

 僕は父が死んでしまってからほぼ毎日、秋葉家で晩御飯を頂いている。

 

 僕の父はこやちゃんのお父さんであるたくみおじさんと仕事仲間であり、親友だった。父は研究者で、匠おじさんと一緒に新エネルギーの研究をしていた。

 しかし、父は研究の成果を見ずに心臓発作で死んでしまった。

 父は研究の為に沢山の借金をしていた。母は、お父さんが夢の為にお借りした物だからと借金を返す為に働きだした。

 借金をなくす方法はあったはずだが、母は父さんが好きだったから、残していったものがたとえ借金でも、それにすがるしかなかったのだろう。

 程なくして匠おじさんは研究を完成させた。父がいたから、完成した研究だと匠おじさんは会いにきてくれた。借金は二人の物だからと言ってくれた。

 しかし、母はその申し出を断った。

 それから7年、せめてもと匠おじさんは、僕と母を気遣い続けてくれている。僕たちは秋葉家の世話になり続けている。

 

 遥さんの料理はとても美味しい。

 隣に座る彼女はとても綺麗で、可愛い。

 そう思ってしまう事が烏滸おこがましい。

 

 僕は早く彼女たちと対等になりたい。

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