宮崎県3.

 ドッガァァァァァァンッッッ!!!

 バァァァァァァンッッッ!!!

 ズッダァァァァァァンッッッ!!!



 いつの間にか渦を巻いていた上空の暗雲から、つんざくようなけたたましい爆音と共に、10本の稲妻がモアイ像に落ちた瞬間だった。


 モアイ像の目が、ビカッと光ったと思えば、そこからレーザービームの様に稲妻が広場内のノマゾン目掛けて放たれる。


 ダァァァンッッッ!!! バリバリッ!!! ドォォォォォォォンッッッ!!! バババババッッッ!!! ゴォォォォンッッッ!!!


 広場内で無防備に佇んでいたノマゾン達は、突然の攻撃を受けて吹き飛ばされていった。


 宙に浮く者もいれば、腕や足が身体から吹き飛ばされる者。


 首だけとなって宙を舞う者や、胴体が真っ二つになって別方向に飛んでいく者もいる。


 全身を粉々にされる者もいれば、黒焦げで地面のシミになる者もいた。


 そして、再び稲妻がモアイ像に落ちれば目が光り、再びモアイ像からイナズマの攻撃が繰り出される。


 ガァァァァァァァンッッッ!!! ババババっ!!! ダッガァァァァァァンッッッ!!! ドォォォオンッッッ!!! バァァァァァンッッッ!!!


 ただでさえ攻撃手段が歯か爪しかないゾンビたち。


 しかも無防備に佇んでいるものだから、広場内のノマゾンはモアイ像の攻撃をまともに受けては弾け飛び、全身をバラバラにされてい辺りに飛び散っていく。


 広場の中心部はイナズマの威力を物語る様に、緑の芝生が消滅して茶色の土がえぐられ、そこには無数のゾンビが黒焦げになってめり込んでいた。


 圧倒的なまでのモアイ像の攻撃力が造り出したのは、


 無惨なまでの地獄絵図。


 耐え難き惨状。


 ものを言わせぬ非情。


 死ぬことを許されず、生を蝕む『骸の兵士』に天が下した粛正が、この破壊と言う事なのだろうか。


 もしそうだと言うならば、もしそんな事がまかり通るのならば、俺たちは……


 ゾンビとされた俺たちは……


 天に向かって叫びたい。


 好きでゾンビにされたのではなく、好きで人間を傷付けたいわけでもなく、死ぬことも許されず、ただ人間を求め、傷つけ、仲間を増やす事を使命とされた俺たちの何が悪いと言うのかと。


 荼毘だびにもふされず、腐りゆく全身を引きずり、人間を求める事を強要された俺たちの、何処が悪いと言うのかと。


 それを咎めると言うならばだ、それは俺たちでは無く、アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王その人であるべきだ。


 慌ただしくも安らげる俺たちの日常を壊し、殺戮という名の非日常を無理矢理押し付けた、アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王こそが非難されるべきなのだ。


 だのに……


 その矛先を俺たちに向けるのは、例え神であってもお門違いも甚だしい。


 俺たちは言わば被害者で、


 俺たちは囚われた奴隷で、


 俺たちは使い捨ての駒だ。


 そんな俺たちを否定するのならばだ、俺たちは黙って破壊される訳にはいかない。


 そんな理不尽を超えた暴力に屈する訳にはいかないんだ。


 ……敵だ……


 あいつは敵だ……


 壊せ……あいつを壊せ……


 そいつは敵だ!


『兵器モアイ』を破壊しろっ!アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王、バンザァァァイッ!!!


 ウォォォォォオォォォッッッ!!!

 ガァァァァァッッッ!!!

 ウァァァァァッッッ!!!

 ゴォッ! ゴォッ! ゴォッ!

 グゥアァァァァァァッッッ!!!


 広場内のゾンビが一斉に顎を天に突き上げて絶叫し、停滞していた空間が時間を取り戻した瞬間に、ノマゾン達は唸りを上げ続けてモアイ像目掛け動き始めた。


 おぞましい事に、手足を失った胴体がうねるように動き始め、転がった頭部は口を大きく広げて絶叫を上げ続ける。


 大量のノマゾンがモアイ像にしがみつき、はい登り、爪を立てて牙を剥く。


 そのモアイ像にイナズマが落ち、その衝撃でゾンビが剥がされて飛び散った。


 そして、モアイ像から放たれる攻撃がゾンビの群れに破壊をもたらす。


 だが、被害を避けられたノマゾンは再びモアイ像に取り付く。


 無機物な石造に、文字通り歯が立たぬ攻撃を、ゾンビの最大最強の武器である牙を食い込ませようと齧り付く。


 整然と並ぶ7体のモアイ像が真っ黒になるほどゾンビに取り付かれ、別の場所にあるモアイ像も姿が見えなくなるくらいに覆い尽くされる。


 そして三度みたび、イナズマがモアイ像に落ちてノマゾンが吹き飛んでいき、目を光らせたモアイ像の、イナズマの攻撃が確実にゾンビの群れを蹂躙して行った。


 そしてまたノマゾンが動き出す。


 無限にうごめく『骸の兵士』と、圧倒的破壊力の『兵器モアイ』の攻防は、阿鼻叫喚を上げながら、全てに食らいつく餓鬼と、無尽蔵の攻撃力で襲い来る鬼の如くの惨状か。


 そんな光景に、俺たちは怒りを爆発させるように雄叫びをあげる。


 グォォォォオォォォッッッ!!!

 ゥアァァァァアッッッ!!!

 ゴォォォォッッッ!!!

 ギャァァァアァァァッッッ!!!


 そして俺は見た。


 俺たちでは無い、『骸の兵士』が群れをなして『兵器モアイ』と戦っている光景を。


 こんな小さな広場では無く、もっと大きな島で、大量の『兵器モアイ』に立ち向かう無限の『骸の兵士』の姿を。


 それは現代では無く、もっともっと……もっとずっと遠い昔の戦場の出来事だった様な気がする。


 …………………………

 …………………

 …………


 そこからの俺は自分が何をどうしたのか分からず、気がつけば丘の方の1体の、倒れたモアイ像の上で両腕を頭上高く突き上げていた。


 その横ではマリアと晴也も居て、詩織すらも晴也にしがみついたまま上空を仰ぎみていた。


 それ以外のノマゾンは倒れたモアイ像の周りで俺たちに歓声を、カリスマを崇めるが如く俺たちに両腕を突き出し吠えている。


 記憶を失ってからどれくらいの時間が経っていたのかは分からないが、上空を渦巻いた暗雲は薄曇りとなり、世界に叩きつけられていた暴風雨は小雨となっていた。


 視線を眼下に戻せば、整然と並んでいた7体のモアイ像も倒壊し、別の場所にある2体のモアイ像も同様に地面に転がっている光景が見て取れる。


 広場にはイナズマで抉られた茶色の大地に、黒ずみとなった無数のノマゾンがうねうねと動いていた。


 その周りにはバラバラになったノマゾンの残骸があちらこちらに散らばって、破片の大きい部位は未だグロテスクに動いているようだ。


 広場の地面も見えなくなるくらい存在したノマゾンは、数を半分以下に減らされていた。


 俺たちの乗るモアイ像から離れたノマゾンは、丘の向こうを目指すように移動を始めている。


 その光景を眺めた俺は、軽く脱力して小さく呟く。


「勝った……」


 何故にその様な言葉が出たのか分からないし、元よりどうやってモアイ像を倒したのかも分からない。


 ただ、あれだけ圧倒的破壊力を放つモアイ像が台座から転がり落ちている様子を見て、思わず口から漏れただけなのかもしれない。


 それでも、その光景はちっぽけなゾンビが徒党となって強敵を打ち負かした満足感が、高揚感を誘発して感情が言葉となったに違いない。


 それは俺だけでなく、マリアや晴也や詩織に視線を向けると、一様に達成感を醸し出した表情を俺に向けていた。


 すると、マリアが俺にパチッとウインクを飛ばしながら言ってくる。


「それじゃぁ……キメたら?」



 ……惚れちまうぢゃないか。



 その後ろで晴也が「キメちゃって下さい」と言い、晴也の向こうからひょこっと顔を出した詩織がニカッと笑って、「よろしく、リーダー!」っと言う。


 いつの間に俺はリーダーにされたのかと嘆きつつ、人間時代でもこれほど注目された事も無い俺だし、達成感から来る高揚感は半端なく気持ちを高ぶらせている。


 俺はひとつ深呼吸をする様に空気を大きく吸い込み、そして海の向こうの、遥か彼方の水平線のそのまた向こうのウィルガラン王国に向かって雄叫びを上げた。



 ウッオォォォォォォォッッッ!!!



 俺の雄叫びがマリアや晴也や詩織、そして周りのノマゾンに共感の共鳴を上げさせる。


 ガァァァァァッッッ!!!

 ゴォォォォッッッ!!!

 グゥアァァァァァァッッッ!!!

 ギャァァァァァアァァァァッッッ!!!

 グアッ!グゥアァァァァァァッッッ!!!



 その後、高揚感も無くなり、巣に戻った俺たち……


 特に、調子に乗りすぎた俺は恐縮しながらも速やかにモアイ像から地面に降り立って、後頭部を掻きつつ移動し始めたノマゾンの進行方向に視線を向け、一歩を踏み出す。


 ただ、一瞬だけ誰かの視線を感じた俺は、素早く後ろを向く。


 しかし、振り向いた先には着いてくるノマゾン以外は誰も確認できなかった為に、思い過ごしと判断してから前に向き直ってマリア達と喋りながら歩き始めるのであった。

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