Spotlight on zombie !!!!【スポットライト・オン・ゾンビ!!!!】
葉月いつ日
始まりの軍艦
プロローグ
西暦2022某日
南半球の太平洋の真ん中で大規模な海底火山の噴火が起きた。観測史上最大の海底噴火は丸一日続き、近隣諸国の海抜を徐々に押し上げる。
その影響は地球全土に及び、海抜上昇を不審に思った各国の首脳の会議を経て、アメリカが調査機を現地まで飛ばす事となった。
現地に到着したパイロットがそこで見た光景に驚愕し、その映像は各国の首脳の元へと送信される。その場所にあったものとは、ハワイ島と同等の大きさの異常な島だった。
何故に異常か……
その島は海底火山に伴い出現したにも関わらず、島の半分に緑が生い茂り、もう半分の土地には住宅地も見える。海岸線には漁港もあり、工業地帯も見受けられ、道路すら整備されていた。そして島の真ん中には広大な、ヨーロッパ辺りで建造されていた城が鎮座している。
しかし、よく見れば街並みも工業地帯も現代の文明からは程遠く、中世紀時代の光景が広がっている。道路もアスファルトではなく茶色の土道のようだ。
上空からは人の姿は確認出来ず、動物が生息しているかどうかも分からないまま調査機はアメリカに戻って行った。
その後、巻き起こるのはその島の主権争いだ。
その島の東にはチリ、北はメキシコ、西にはニュージーランドがあって。各国から全く距離を同じにしたこの島の所有権は我にありと主張する。しかし、ハワイ諸島が一番近いではないかとアメリカが高らかに声を上げ、各国に緊張が走った。
事実、チリやメキシコやニュージーランドよりも早く軍隊を出したアメリカが、真っ先に到着してその島に上陸。各国の主張を無視する形で調査を始める。
無論、近隣諸国は反発をするも、戦艦で包囲した島にはどの国の調査団も上陸は叶わない。
武力を見せつけてくるアメリカに何も言えずに指をくわえて見ているばかりだ。結局は本国に引き返す事となった各国の調査団が島から遠ざかった頃、島を包囲するアメリカ海軍に異変が起きる。
近隣諸国の調査団が島を離れてから約3時間後、島を包囲していたアメリカ海軍からSOSが発信された。しかし、反発を覚えた各国首脳陣はその要請を断る。
やがて、アメリカ本土からやってきた援軍の軍用機が島に上陸したとの通信以降、その軍用機からの連絡も途絶えた。
それは突然やってきた。
アメリカ海軍が最初に島に上陸してから6時間が経過した時、世界各国のあらゆる通信網が何者かにジャックされる。全世界のメディアやSNSに中世紀時代の王族の様な人物が映し出され、何故か映し出されたその国の言語で高らかに声を上げた。
「我の名はアビドバス・ガロン・ウィルガラン。ウィルガラン王国の国王である。この星に巣くう虫けら共に告ぐ。誰の許可を得て生息しているのかは知らぬが、この星は我がウィルガラン王国の所有物である。即刻この星から立ち去るがよい。さもなくば我が国軍、『
各国がその放送を見てからちょうど11時間後、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸、オーストラリア大陸、アフリカ大陸、ユーラシア大陸。そしてイギリスと日本の島国の何処かでアメリカ海軍の軍艦が座礁しているのが発見された。
調査に向かった軍隊は、いつどうやって現れたかも分からぬ軍艦に警戒する。その中には兵士の姿はなく、どの様に航行してきたかも分からず1時間弱の調査を終える。
ただ、どの大陸や島国に座礁した戦艦には、甲板に棺桶がひとつ置かれていた。
その棺桶の中には中世紀の貴族風な煌びやかな装飾品を身につけた女性の死体が収められている。どの場所の死体も美しく穏やかな装飾を施され、その周りには女性の死を悼むよう真っ白な生花が敷き詰められていた。
無論、脈はない。
その異様な光景に警戒するも、あまりにも美しい死体に全員で見とれていたその時だった。再び全世界のネットワークが乗っ取られ、強制的に世界各地のモニターやスマホに電源が入る。
そして、その画面にアビドバス・ガロン・ウィルガラン国王が映し出され、高らかに声を出した。
「哀れな虫けら共よ、早々に立ち去れば良かったものを。猶予は過ぎた、滅びるがよい」
そう言ってアビドバス・ガロン・ウィルガラン国王は両手を高々と上げると、上空に向かって呪文の詠唱を始めた。
「ギル・バルバドル・サギス・リネア・ホドボリス……『冥界の英雄』よ、その勇姿を示すが良い。リビブルバイン!」
その詠唱が終わって直ぐに画面が途切れ、世界各地に座礁した戦艦の周辺地区に霧が立ち込めた。そしてポツリポツリと雨が降る。
さほどの霧でも雨でも無かったが、アビドバス・ガロン・ウィルガラン国王の放送前はどの地域にも雨が降っていなかったものだから皆が上空を仰ぎみていた。
すると、カサカサッと、音を立て棺桶から死体の女性が深く俯いて立ち上がった。確実に脈の無かった死体が立ち上がり、それを見て驚愕した兵士は一斉にライフルの銃口を向けて警戒する。
ゆっくりと……ゆっくりと足を上げ、棺桶を跨ぎ、フラフラと歩を進める美しき女性の死体。兵士の制止を聞き入れずに深く
ダンッッッ!
その弾丸は死体の腹に命中する。貫通していった手応えもあった。しかし……その死体は一瞬よろけるも歩を止める事は止めない。
その場にいた兵士達はその異常な光景と異様な死体に危機感を覚え、迫り来る女性の死体に向けて引き金を引いて弾丸を打ち続けた。
ダダタダダダダッッッ!!!
ダンッダンッダンッダンッダンッ!!!
バババババババッッッ!!!
バンバンバンバンッ!!!
何十発何百発とその死体は弾丸を受け、身体全身に弾痕を残すも一滴の血も流れない。まさに異常な光景に恐れおののいた最前線の兵士が腰を抜かし、その場に尻もちを着いてしまう。
そしてその兵士の足元に辿り着いた死体の女性は
その瞬間、煌びやかだった装飾品は金属が茶褐色に錆て宝石は光を失い、着ていた鮮やかな衣類がくすんでボロボロになった。艶のある腰までのブロンズヘアーが色を失ってまだらな白髪に朽ち、美しかった女性の顔が腐り始める。
頬の肉はダラりと垂れ、右目が飛び出し、鼻は腐って鼻骨が現れ、辺りには腐臭を撒き散らす。そして、その死体は大きく口を開く。次の瞬間、腰を抜かした兵士の左腕に噛み付いたのだ。
「グァァァァッ! このっ、放しやがれっ! オラァッ!!!」
噛み付かれた兵士は何とか死体の胴体を蹴りあげて引き剥がす。後方に蹴飛ばされた死体にライフルを持ち上げ、頭部に目掛けマガジンに入っている全ての弾丸を打ち込んだ。
ダダダダダダダダダダダダダッッッ!!!
頭部を完全に破壊され、それでもビクビクと身体を震わせている死体だったが、やがて静かに動きを止める。すると、その死体は急速に腐敗し始めた。
最後には腐りきった真っ黒な液体と骨だけが残ったのだった。
辺りには強烈な腐臭が漂い、他の兵士が全員鼻を押さえる。そんな中、死体に弾丸を打ち込んだ兵士だけがライフルを肩に担いで鼻で大きく息を吸う。
そして得意げに声を出す。
「はんっ! おととい来やがれ!」
その兵士の左腕からはどす黒い血が一筋垂れていたと言う。
そして翌日、世界の崩壊が始まった。
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